JICA Volunteer Story 與那覇(よなは) 順子 日系社会シニア・ボランティア/ブラジル/高齢者介護

「第二の祖国の先輩たちに寄り添い、支える」

戦後に海を渡り、ブラジルに根を下ろした世代も、今は高齢となった。
與那覇(よなは)順子さんは、同国で日本への信頼を築き上げた"先輩"たちの幸せな余生に優しく寄り添っている。

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色鮮やかなフシコのクッションを作る入居者たちと(奥が與那覇さん)

第二の人生を過ごした国で 人の温かさをふたたび

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ブラジル サンパウロ

沖縄で生まれ育った與那覇順子さんが1980年にブラジルに渡ったのは、夫の隆一さんが現地の日系企業で働くことになったのがきっかけだ。ブラジルで二人の子どもに恵まれた與那覇さんの生活は、地元の人たちの優しさに支えられていたという。隆一さんは働いていた企業の撤退に伴って帰国したが、與那覇さんは「ブラジルの大学に進みたい」と希望した子どもたちと共に残留。二人が大学生となってから帰国した。

ブラジル滞在中、與那覇さんは地元の人たちの日本に対する信頼の厚さに感銘を受けたという。「信頼の裏側には、ブラジル全土に190万人いるともいわれる日系ブラジル人の先駆者たちが、地元社会のために積み重ねてきた汗と努力があると思ったのです」と語る與那覇さん。帰国後に介護福祉士としてさまざまな技術を学び、高齢者と触れ合う中で、ブラジルの"先輩"たちのために自分の得た知識と技術を使いたいと考え、中南米の日系人コミュニティーに参加して現地社会の発展に尽くす日系社会シニアボランティアに応募した。

現在の活動場所は、ブラジルでも特に日系移民の多い南東部の大都市サンパウロから南東に60キロ、日本からの移民の玄関口だった港町サントス市にあるサントス厚生ホームだ。建物は、かつてはブラジルに到着した日系移民が一時的に滞在する宿泊所"移民の家"だった。1974年に高齢者介護施設として生まれ変わった"移民の家"は、今や入居者の多くが90歳を超える。食事は和風食を提供し、ブラジル日系移民の活躍の基盤を作った人々の穏やかな余生を支えている。

ブラジルの発展に尽くした人々の思い 地元日系社会が支える

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年齢を重ねるにつれて衰える活動力を維持するため、お手玉体操なども行っている

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サントス厚生ホームは、かつて日本からの移民がブラジルでの最初の日々を過ごす場所だった

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サントスには、1908年に初めてブラジルに渡った日本人移民の記念碑もある

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手芸活動で作られたさまざまな品は、バザーやイベントの景品として人気だ

サントス厚生ホームの入居者は60人。同ホームでは日課として朝8時半から、いすに座ってのラジオ体操を行っている。與那覇さんはその準備を手伝う他、週に3回、理学療法士と協力したリハビリ体操とお手玉を使った体操で、入居者たちと号令を掛けながら体を動かす。また折り紙、縫い物や編み物、トランプ、百人一首、花札などのゲームの支援も活動の一つだ。残存機能の保持に加え、入居者たちが日々を穏やかに過ごせるようにホームの活動を支えている。

中でも取り組みを強化しているのは介護予防だ。自分の身の回りのことを自分でできた人も加齢に伴い、歩行がつえから歩行器へ、そして車いす使用に変わっていく。「加齢に伴って体力は衰え、介助が必要になりますが、せめて食事はご自分で食べられるようにと考えています。そのために、手先を使う作業や、作業の合間のおしゃべりを楽しむことは大切なんです」と與那覇さんは話す。特に力を入れているのが、ブラジル伝統のパッチワーク"フシコ"のクッション作りだ。與那覇さんはボランティア参加のためにブラジルに渡るとき、沖縄の伝統の染物の"紅型(びんがた)"模様の布を20メートル持参した。ホームの手芸活動で、この布を生かした作品作りを始めたのだ。入居者にはかつて自分で家族の服を縫い、時には近所の人からも縫い物を請け負うなど、裁縫の経験がある人もいて、そうした人たちを中心に、十数人で色鮮やかなクッションを作っている。針と糸を操りながら昔話に花を咲かせることが、入居者の活力維持につながるのだ。

実は、與那覇さんはサントス厚生ホームに派遣される前、サンパウロから車で2時間半ほどの場所にあるさくらホームでもJICAボランティアとして活動していた。昨年7月、サンパウロ市で催された日本祭りに参加したとき、さくらホームでお世話をした入居者の娘さんに声を掛けられたという。「『母は戦後、家族で移民し、ブラジルでは苦労の連続でしたが、さくらホームでの余生は幸せだったようです』とお礼の言葉を頂き、胸が熱くなりました」と振り返る。

日本でも高齢者介護の仕事をしていた與那覇さん。「ブラジルのお年寄りはとてもおしゃれなんです。地元ボランティアの美容師さんがホームに来て髪を手入れしてくださる一方、介護スタッフも空いた時間にマニキュアをしてあげるなど、皆でおしゃれを楽しんでいるのを見て、私も見習いたいと思うことしきりです」と話す。今後の課題は加齢に伴う生活レベルの低下、認知症の発症に対するケアだ。介護スタッフのスキルアップのため、11月初旬に「認知症」について勉強会を行った。これからも来年6月の任期満了まで、介護技術、認知症予防などの勉強会を開催したいと話す。

50代で福祉の世界に飛び込み、JICAボランティアとしてはるか遠くの地で活躍している與那覇さん。「多くの人に、ボランティア制度を生かして海外での経験を味わってほしいと思っています」と語ってくれた。

PROFILE

與那覇 順子(よなは じゅんこ)

大学を卒業し金融機関などで働いた後、夫と共にブラジルに渡る。同国で20年以上過ごした後に帰国し、介護福祉士などの資格を取得した。2015年7月から日系社会シニア・ボランティアとしてサントス市のサントス厚生ホームで活動中。