JICA STAFF 佐藤 里衣 人間開発部 高等教育・社会保障グループ 社会保障チーム

日本と世界の共通課題に協力して取り組みたい

就職活動を始めるまで、世界の開発課題を意識してこなかったという佐藤里衣さん。開発協力の現場と組織運営部門を行き来して経験を積みながら、途上国の直面する新たな課題に対して、協力の裾野を広げる努力を進めている。

一冊のパンフレットが世界に飛び込むきっかけに

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この夏は、コンゴ民主共和国の職業訓練プログラム卒業生を訪問し、その成果を確認した(中央が佐藤さん)

私は法学部で国際法を学んではいたものの、特に国際協力分野に興味を持っていたわけではありませんでした。そんな私が国際協力の道に進んだきっかけは、就職活動を控える大学2年のときに出会った小冊子です。紛争で夢をあきらめた難民の子どもの手記を読んでショックを受け、何かしなくてはという気持ちに駆られました。そこで、開発協力の世界にはどんな仕事があるかを調べましたが、学部卒で就職できる数少ない選択肢の一つがJICAでした。英語も得意だったわけではなく、内定が決まってから改めて勉強したくらいです。

JICAに入ってすぐの研修では、アフリカ部で基礎知識を身に付けた後、7カ月間、ラオス事務所に派遣されました。海外に長期滞在するのは初めてで、途上国での生活はもちろん語学面でも実務面でもまだ不安がありましたが、実際に行ってみると食事はおいしく、治安も良かったおかげで、この仕事をやっていけるという自信にもつながりました。また、開発の分野に関する事前知識がなかった私にとって、ラオスでの研修は開発協力のやりがいや難しさを学ぶ大切な現場経験になりました。帰国後は、国際協力人材部で専門家の派遣制度などを担当。続いて公共政策部に移り、旧社会主義諸国の市場経済移行を支援する「日本センター」事業に携わりました。

その後、2度目の海外赴任でタイ事務所へ。赴任中の2011年にはバンコクを含む広範囲が浸水する大洪水があり、タイ事務所から地下鉄で2駅くらいの距離まで水が迫るほどでした。このとき、タイ事務所では現地職員の多くが被災して混乱状態でしたが、日本から物資の支援だけでなく、排水に使う強力なポンプ車なども運び込まれ、緊急対応に全力を尽くしました。普段は生活に不自由のないタイでしたが、いざ災害などが起きるともろいところは多いのだと気付かされました。一方で、タイがいざというときは日本を頼りにしてくれていることを実感しました。

世界で進む高齢化の問題を途上国と共に考える

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中進国のタイは、自ら国際開発協力機構(TICA)も設立した。TICAの会議でJICAの人事制度について話す佐藤さん

その後は人事部を経て人間開発部に移り、社会保険や高齢化などの課題に取り組んでいます。担当となって改めて驚いたのは、世界中で高齢化が進んでいることです。

今回の特集で取り上げたタイとモンゴルの案件は、高齢化問題に関するJICAのプロジェクトの中でも特に大きなもの。私はこれから始まるタイの後継プロジェクトに立ち上げから関与しています。タイの社会状況を踏まえた地域包括ケアの実践が活動の目標です。

タイはハードとソフトのインフラが整っていない状況で高齢化社会を迎え、環境の整備にも高齢者のケアにも財源が必要な状態です。従来は家族が高齢者のケアを担ってきましたが、日本同様、家族だけでは支えていけないという認識が広まっています。地域ボランティアや地方に残る助け合いの仕組みなどを生かしながら、タイに合わせた仕組みを作り上げていきたいと思っています。タイの課題を通して社会福祉に対する理解を深めることは、今後、日本や他の国での取り組みに役立つはずです。他にも、人材部、人事部などで人に関する業務に携わってきた経験から、もっと多くの人に開発協力の仕事への関心を持ってもらいたいと思っています。

プロフィール

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佐藤 里衣さん

佐藤 里衣(さとう りえ)
人間開発部 高等教育・社会保障グループ 社会保障チーム

大学卒業後、JICAに入り、国際協力人材部で専門家の派遣手続きなどを担当。公共政策部を経て、タイ事務所で地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)案件などを担当する。その後、人事部で採用業務や職員研修、キャリアコンサルテーションなどを担当。2016年12月から現職。