国土を横断する希望の架け橋 ニカラグア

カリブ海と太平洋の両岸に接し、豊かな自然に恵まれたニカラグア。
19世紀初頭の独立以来、内戦が繰り返された歴史や、度重なるハリケーンや地震などの自然災害による被害から、未だ道路交通網の整備が立ち遅れた地域も多い。
特にインフラ整備の遅れは貧困地域が多いカリブ海側に顕著で、経済成長が著しい太平洋側とカリブ海側との格差を埋める鍵となるのは日本の協力により建設された「希望の架け橋」だ。

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2011年に完了した、マナグアーエルラマ間の橋梁の開通式。地元の人たちも集まって開通を喜んだ

災害に負けない 日本の橋に期待集まる

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マナグア

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24橋目、パソ・レアル橋の架け替え前

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24橋目、パソ・レアル橋の架け替え後。輸送量も安全性も大きく改善したことが一目で分かる

ニカラグアは近年着実に経済成長を遂げているものの、依然として中南米・カリブ地域においてハイチに次ぐ貧困国である。1980年代まで続いた内戦や、同国を襲うハリケーンや地震などの災害が、経済の発展に必要不可欠な社会インフラ整備を遅らせ、同国の経済発展の障害となってきた。

日本はニカラグアの内政が安定し始めた1990年代初頭から、交通インフラ分野の協力を開始。当時、JICA事業でニカラグア全土の道路マスタープラン策定に関わったセントラルコンサルタント株式会社の古谷(こたに)浩行さんは、「ニカラグアで道路整備の必要があることは明確でしたが、道路そのものは米州開発銀行などが主導して整備を進めていました。そこで、日本は陸路のボトルネックとなりがちな橋を担当することにしたのです」と振り返る。

現在は治安が良くなったこの国も、古谷さんが関わり始めた1993年ごろは内戦終了からまもなく、国内にまだゲリラがいて、立ち入ることができない地域もあり、調査も大変だったという。そんな中、全国の道路の状況に加え、さまざまな橋の状況を調べ、修理が不可欠なもの、一から架け替える必要があるものなどをピックアップし、そのうち二つが無償資金協力につながった。

実は、日本による橋梁(りょう)の整備は、他のドナー(開発援助組織)にとって願ってもない話だった。というのも、橋の建設には、ほんの短い距離でも道路よりはるかに大きな費用が掛かるため、より多くの地域に道を作っていきたい米州開発銀行にとってはジレンマとなっていたからだ。道路は米州開発銀行を含む日本以外のドナーが作り、橋は日本が作るという分担は、より広い地域に質の高い道路交通網を効率良く整備することにつながったのだ。

最初の2橋を整備した後、ニカラグア側からはさらに橋梁整備の支援要請が届いた。理由の一つは、日本の橋の高い品質だ。1998年、中米に長雨と大きな水害をもたらしたハリケーン・ミッチの被害を受けて、ニカラグアでは多くの橋が流れてしまったが、日本の作った橋は流れなかった。日本は時間と費用が掛かっても丈夫な橋作りを心掛けており、それが功を奏したのだ。もともと災害の多い日本では、橋の建設に関する基準は災害に耐えることを念頭に作られていた。その基準と、橋を架ける河川の特性を踏まえた丁寧な施工を行ったおかげで、日本が作った橋は未曾有(みぞう)の大災害にも耐えることができた。そのことが、日本の橋梁建設技術への高い評価と信頼につながった。

古谷さんは、当時のニカラグア側担当者とのやり取りの中で、思い出深いエピソードを話してくれた。「ニカラグア運輸・インフラ省(MTI)と将来の橋梁建設について話し合ったとき、MTI側が出してきた地図の要所要所に日の丸の印が付いていました。そして、これらの場所には日本の橋を架けてほしい、と言われたのです。"日本の橋"に対する、強い信頼を感じました」。日本はハリケーン・ミッチで被災した橋の再生などのプロジェクトを通じて、20年以上にわたり、ニカラグア各地で24の橋梁建設を支援してきた。これらの橋は、陸運の要として地元経済に貢献している。

地域の成長を担う道 東西を結ぶ大動脈に

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「リオ・ブランコ−シウナ間橋梁・国道整備事業」の円借款調印の場で。新たに作られる4つの橋を加えると、日本がニカラグアに架けた橋の数は28となる

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ニカラグア各地に設置された日本の橋が、経済の活性化を支え、人々の夢と希望を運ぶ

昨年7月、日本とニカラグアは、新たに4橋の建設を合意した。「リオ・ブランコ—シウナ間橋梁・国道整備事業」と名付られた事業は、首都マナグアと、カリブ海側の地域をつなぐ国道21B号線上に位置する4橋梁を整備することを目指す。

ニカラグアに限らず、中米の多くの国では、都市と農村の格差が極めて大きい。もともと貧富の格差があることに加えて、インフラが十分整備されておらず、地方の農産品を都市に販売できないなどの事情が、農村の成長を阻む壁になっているのだ。ニカラグアではこの傾向が顕著で、国道21B号線の東側の端に当たる北カリブ海自治地域の貧困率は、実に7割を超えている。一方で、この地域はニカラグア国内でも農業が盛んな地域の一つ。交通網が整えば、農産品を消費地である西部都市圏に販売する可能性も開け、この地域の農業や畜産業の発展につながると期待されている。

今回の整備区間の東端シウナを起点とするニカラグア北東部は、国内でも特に開発から取り残された地域で、国道21B号線はとりわけ貧困率が高い地域を貫く街道になる。古谷さんは「今まで足を踏み入れるにはあまりに不便だった地域の移動が簡単になることで、住民にとっては利便性が高まり、ビジネスチャンスも生まれてくるはずです」と語る。最終的には国道21B号線を含む二つの街道が国土の東西を貫通し、カリブ海側の港と首都マナグアを結ぶ形になる予定だ。

もう一つ、今回の橋の建設に当たって注目すべきことがある。それは、プロジェクトの予算を「無償資金協力」ではなく、日本が資金を融資し、ニカラグア側が40年かけて返済する「円借款」の制度を使っていることだ。特に、円借款の中でも優れた技術やノウハウを活用する本邦技術活用条件(STEP)が適用されており、日本の橋梁建設に関する知見をニカラグアと共有することも目玉の一つとなっている。

今後は道路の延伸はもちろん、これまでに整備された道の再点検やマナグア市内の交通渋滞を改善するためのマスタープランの活用なども視野に入ってくる。また、道路以外にも空路や海路の整備も検討の余地がある。日本は2012年から2014年にかけて「国家運輸計画プロジェクト」で現状調査を行い、長期的視野での運輸交通セクターの整備を下支えしてきた。特に道路ネットワークと回路の結節点となる港については、カリブ海側は未整備で、太平洋側の唯一のコンテナ港も設備が不足している。

経済発展こそ立ち遅れたが、昔のままの自然や質実剛健な伝統文化が残るニカラグア。しかし、長年の仕事を通して、古谷さんは「ニカラグアの人たちは全体に温和でまじめな上、プロジェクトの進行にも積極的に取り組むなど、事業のパートナーとして信頼できる人たちが多く、仕事はとてもしやすい環境です」と話す。地域格差の是正とよりいっそうの飛躍に向けて、ニカラグアに日本が希望の橋を架ける。