魅力ある観光資源を生かす ジンバブエ

南部アフリカの国々が力を入れている観光開発。
狙いの一つは、雇用創出や所得向上だが、人材やインフラなど乗り越えなければならない課題は多い。
そこで、地域住民にも恩恵が行き届く観光開発の推進に日本が協力している。

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日本の技術協力プロジェトの対象地域の一つ、ジンバブエのテンゲネンゲ。この地域では伝統的な踊りを披露して観光客を楽しませている(撮影:吉田亮人)

観光開発で連携強化 共通の課題に立ち向かう

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ジンバブエ ハラレ

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“ツーリズムEXPOジャパン”の出展に携わったRETOSAの関係者ら。日本のメディアにも取り上げられ、効果的なプロモーションにつながった

真っ赤な砂丘が連なる世界最古のナミブ砂漠、最大落差約108メートルに及ぶ世界最大級のビクトリアの滝、王宮跡など人類が築いてきた歴史の遺構の数々。"世界遺産の宝庫"ともいうべき南部アフリカには、まさに私たちが思い描くアフリカの壮大な姿が詰まっている。しかし、世界全体の観光客数のうち、南部アフリカを訪れた人の割合は2015年時点でわずか2%にとどまっており、豊富な観光資源を生かしきれていないのが現状だ。戦略的なマーケティング調査や、十分なスキルを持った観光人材、空港・道路などの交通インフラといった、観光産業に欠かせないさまざまな要素の不足がその背景にある。

こうした状況を受けて、1996年、南部アフリカ開発共同体の観光委員会の下部組織として「南部アフリカ地域観光機構(RETOSA)」が設立された。RETOSAは、南部アフリカを訪れる観光客が国境を越えて観光地を巡る"周遊観光"の活性化を目指し、国境をまたがる観光資源の開発に関連国が共に取り組む仕組みや、同共同体の域内であればビザを取得せずに移動できる制度の構築に向けて取り組んできた。さらに、南部アフリカ共通の課題である雇用創出や所得向上、格差是正に対して、観光の面から解決しようと試みている。それが、コミュニティーに恩恵を与える観光開発「コミュニティー・ベースド・ツーリズム(CBT)」の推進だ。この取り組みを後押ししようと、JICAは2014年から「南部アフリカ観光開発計画アドバイザー」をRETOSAに派遣している。

同アドバイザーは、1)CBT開発戦略の策定、2)特に日本市場を中心とした観光マーケティング・プロモーション戦略の策定、3)RETOSA事務局の能力強化-の3つを活動の柱としており、既に「CBT開発ガイドライン」を完成させている。また、観光客の旅行満足度を探るため、南アフリカ共和国の空港で、日本とアジア諸国からの観光客300人を対象に調査を実施。それをもとに、東アジア市場における観光促進に関するガイドラインも策定した。当時、JICAの企画調査員として事業に関わっていた浦野義人さんは、「調査の結果、日本国内で南部アフリカの観光情報が絶対的に不足していることが明らかになりました。そこで、アジア最大級の観光イベント"ツーリズムEXPOジャパン"にRETOSAとして出展するなど、日本市場へのプロモーション活動にも力を入れました。RETOSAの関係者にとって、マーケティング調査に基づくプロモーションの有効性について理解を深める機会となりました」と話す。

住民たち自身でつくる 地域に根差した観光

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テンゲネンゲでは、ショナ族が作るショナ彫刻を体験できる(撮影:吉田亮人)

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テンゲネンゲでは、現地の彫刻家が手掛けた作品も展示されている(撮影:吉田亮人)

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ジンバブエ第2の都市ブラワヨの市庁舎。ブラワヨの歴史遺産などが展示されている(撮影:吉田亮人)

現在、各国でもCBTの推進に力を入れている。その一つが、ジンバブエだ。もともとジンバブエでは、政府などの支援もあり、約150の地域で伝統文化を紹介する施設運営などの観光事業が住民によって行われていたが、2008年以降、経済状況の悪化などにより9割もの地域で事業が放棄されてしまった。そこで、2015年から2年間、日本はCBTを実践するためのマスタープランの策定や、観光省の能力強化などを目的とした技術協力プロジェクトを実施した。

プロジェクトでは、前述のアドバイザーも交え、日本の専門家チームと観光省の関係者で協議しながら、対象となる4カ所の地域を選定。それぞれで地域の資源を生かした観光開発を試験的に実践した。専門家の村上佳代さんは、「私が担当したチェシンゴという地域では、世界遺産のグレード・ジンバブエ遺跡から車で10分ほどという恵まれた立地を生かし、遺跡の見学に訪れる欧米の観光客や修学旅行生をターゲットとしました」と説明する。

まずは住民と共に、地域の文化や自然を活用した観光コースを作成するワークショップを行った。「住民をいくつかのグループに分け、実際に歩きながらコースを作成しました。中には7時間もかかるコースを作ったグループがあり驚きましたが、その地域では普段から、通勤・通学や買い物など片道2時間かけて歩くのが当たり前なんだそうです」と、日本との違いを実感しながら取り組んだと話す村上さん。さらに、こんなエピソードも。「観光コースのマップに絵を描いてもらおうと現地の芸術家に依頼したところ、小さな紙に絵を描いたことがないためできないと言われました。そこで、大きな模造紙に描いてもらった絵を写真撮影し、A4サイズの紙に貼ることにしました」

また、地域の観光ガイドを養成するためのトレーニングも実施。「実際にグレート・ジンバブエ遺跡を視察した後、ガイドの役割をロールプレーイング形式で体験してもらいました。私が外国人観光客の役をするときは、なるべくリアクションを大きくして、外国人がどのようなことに興味を持ったり驚いたりするのかを伝えるようにしました」と村上さんは話す。こうした取り組みを通じて、特に若い世代の人たちが自分たちの地域にある観光資源の価値に気付き、誇りに思うようになったという。

南部アフリカの豊かな自然と文化を生かしながら、目指すは、訪れる人にとっても住む人にとっても魅力ある観光の振興だ。