JICA STAFF 戸村 浩之 モザンビーク事務所

安定的な電力供給で 国の発展を後押ししたい

JICA職員として13年目を迎える戸村浩之さんは、入構4年目から電力分野の支援に携わってきた。現在はモザンビークで、関係者との信頼関係を大事にしながら、火力発電所の建設支援に奮闘中だ。

電力分野の協力 舞台は中南米から南部アフリカへ

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モザンビークの「マプト・ガス複合式火力発電所整備事業」で、東京から訪れたプロジェクト関係者を案内する戸村さん(右から2人目)

私は、学生時代にアルゼンチンを訪れ、初めて自分の目で見るスラム街に大きな衝撃を受けました。このとき、苦しい経済状況の中でも笑顔を絶やさない現地の人々の姿と、豊かになった日本で失われつつあるという"幸福感"について考えるようになり、両国の良さを掛け合わせる仕事を模索し始めたんです。それが、JICAで働くことを考えたきっかけです。規模の大きな事業で広く人々の生活の改善に貢献できることもJICAの魅力だと感じています。

これまで手掛けた中で特に印象深い業務は、ボリビア初の地熱発電所建設事業です。建設現場の標高は約5000メートル。希少動植物の保護や他ドナーとの調整などの難しい条件が重なった案件だったこともあり、日本とボリビアの関係者の4年以上にわたる努力で円借款契約の調印にこぎ着けたときは、感無量でした。

現在は所変わって南部アフリカのモザンビークに駐在し、主に電力分野の事業を担当しています。モザンビークの電化率は30%未満で、未だに多くの人々が電気を使えない生活を送っています。そのため、資金協力や技術協力など、JICAのさまざまな協力スキームを組み合わせながら、現地政府や電力公社と共に電力事情の改善に取り組んでいるところです。

具体的には、首都のマプト市に100メガワット級の新たなガス複合式火力発電所を建設するプロジェクトを担当しています。モザンビークでは発展に伴って、とりわけ首都のある南部地域での電力需要が高まると予想されています。そこで、新規ガス複合式火力発電所の建設を通じて、同地域の円滑な経済活動や住民の暮らしを支えることを狙いに、2014年にこの協力が開始されたのです。

協力の真髄である信頼関係を大事に

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ボリビア勤務時代に担当した「ラグナ・コロラダ地熱発電所建設事業」。地熱井戸の蒸気噴気試験の様子

このプロジェクトでは、高い技術力を持つ日本の企業連合体が協力に当たっており、日本の経験と知恵が結集された発電所が完成する予定です。また、工期や安全性など建設のマネジメント面でも日本のノウハウが発揮されていて、遅延なく、当初の計画どおり今年8月には運転が開始する見込みです。一方で、JICAがモザンビークの電力分野の協力を強化し始めたのは最近であるため、同分野のJICAの支援メニューや協力に当たっての決まりなどに対する現地関係者の理解はまだ十分ではありません。そのため、事業に関する相談があった際に的確に対応できるよう、日ごろから準備しています。

私はこのプロジェクトに限らず、"信頼される人間になること"を目標にしています。アプローチ方法がないと思えるような難しい条件下でも、解決の可能性を徹底的に考え尽くす-その姿勢が、国の課題に真摯に向き合い、人々に寄り添う第一歩だと考えています。

マプト市の発電所は市内でも目立つ場所にあり、日に日に出来上がっていく様子を見て誇らしく感じると同時に、日本の協力を現場で担う者として、今後も現地の人々との信頼関係の構築に努めていこうと背筋が伸びる思いです。今後もこうした考えを大事に、国の発展に不可欠な電力分野の支援に携わっていきたいと思っています。

プロフィール

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戸村 浩之さん

戸村 浩之(とむら ひろゆき)
モザンビーク事務所

大学院で中南米の経済について研究し、2005年の修了後、JICAに入構。農村開発部とパラグアイ事務所でのOJT後、調達部に配属。産業開発部、ボリビア事務所、中南米部を経て2015年より現職。電力分野を中心としつつ、道路や港などのインフラ整備の案件にも従事する。