私のなんとかしなきゃ! 土屋 公二 ショコラティエ&パティシエ

チョコレートから見つめる世界

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マダガスカルの農園にて

テオブロマでは開店当初から、年一回、お客さんたちと一緒に行くチョコレートの海外視察ツアーを続けています。当初はヨーロッパに本場の洋菓子を見に行くのが目的でしたが、5年ほど前からはペルーやブラジルなどのカカオ農園見学を始めました。チョコレート業界では、マダガスカル産のカカオは特に高品質だと定評があり、2015年には現地の旅行会社に勤める日本人に案内役を頼み、同国のカカオ農園を見学するツアーを企画しました。

見学したのはアンバンジャ港の近くの大規模農園で、彼らは収穫したカカオ豆をフランスの大手企業に卸していました。このとき見たのはその農園だけですが、視察を通してマダガスカル全土のカカオ農園が成功しているわけではないという話を聞いたのです。

帰国後に調べてみると、同国では港のある下流域と上流域をつなぐ道路が整備されておらず、上流域の農村で収穫された農作物の流通には仲介業者が欠かせないこと、そのために上流域のカカオ豆が買い叩かれる構造が見えてきたんです。加えて、上流域ではカカオ豆の品質を大きく左右する発酵・乾燥の技術が定着しておらず、豆が安値で取引される要因になっている上、それがマダガスカル産のカカオ豆の"質の二重構造"を引き起こしていました。私は貧困層の多い上流域の農民の生活を良くしたいと思い、JICAと協力して質の向上の支援を始めました。

私たちはまず、上流域の農園の所在や農家の人数、収穫量、取引される豆の値段などの現状調査から始め、翌年には農民代表者を選定して、下流域の研修施設で豆の加工技術の研修を行いました。その後、学んだことを各農家で実践してもらい、豆のテストをすると、品質は確実に向上していました。

一方で、更なる課題も。生活を改善するには、ビジネスが成り立つよう安定した量と品質のカカオ豆の生産が必要です。各農園の規模が小さいので、複数の農家から豆を集めて共同で売ろうとしましたが、すると品質がそろわないんです。共同作業や手間隙かけるという考えが薄い中、"生活を良くするために皆で努力する"という農民自身の主体性を引き出すことが大切だと感じています。

当店では、商品の一つとして上流域の農家から仕入れたカカオ豆を使った板チョコを販売しています。今後はJICAだけでなく、製菓企業を巻き込むなどして、原材料の生産者に寄り添う動きを広げていければと思っています。

また、こうした活動を伝えるために定期的にセミナーも開いており、フェイスブックで開催情報を発信しています。チョコレートを通じて多くの方に世界を感じていただければ、ショコラティエの冥利に尽きるというものです。

PROFILE

東京都渋谷区の「ミュゼ・ドゥ・ショコラテオブロマ」(テオブロマ)のオーナーパティシエ。1980年代と1990年代に渡仏して計6年間修業。東京のショコラ専門店勤務を経て、1999年にテオブロマをオープン。現在は都内に6店舗を展開する。フランスの「シャルルプルーストコンクール」「アルパジョンコンクール」で銀メダル。その他、受賞歴多数。2015年サロン・デュ・ショコラ・パリでは、外国人最高味覚賞を受賞し、パリのチョコレート評価本で"味覚のマジシャン"と評される。写真はマダガスカルの農園にて。

なんとかしなきゃ!プロジェクト

「なんとかしなきゃ!プロジェクト」は、開発途上国の現状について知り、一人一人ができる国際協力を推進していく市民参加型プロジェクトです。ウェブサイトやFacebookの専用ページを通じて、さまざまな国際協力の情報を発信していきます。