廃棄物管理 “ごみ”に挑む

経済発展を目指すうえで、避けては通れないのが"ごみ"問題。
適切な廃棄物管理は、環境への負荷を低減し、持続可能な循環型社会を実現することができる。
日本は技術や知識を用い、開発途上国に寄り添い、"ごみ"問題解決に向けて協力を行っている。

取材協力:一般社団法人 国際環境協力ネットワーク 吉田充夫
写真:阿部雄介、文:田中弾(編集部)

【画像】

スリランカのコロンボ

放置していれば いずれ悲劇が起きる

人間が生活を続けていくなかで、必ず出てしまうのが、ごみ。たとえば、日本人一人あたりが排出する1日のごみの量は約1キロで、1年で365キロにもなる。日本におけるごみの年間排出量は、環境への配慮の高まりから2000年を境に減らすことに成功しているものの、先進国の歴史を振り返ると、経済開発が進めば廃棄物も増えることが統計で明らかになっている。国が発展するとモノの生産が活発になり、輸入品も増えるため、おのずとごみが多くなる。「豊かになる」ことは、言い換えれば「ごみが溢れる」ことでもある。

開発途上国では、経済発展が少し進むだけでもごみの量が2倍以上に急激に増えてしまう傾向があり、ごみ収集やごみ処分場の整備が追いついていない。最悪の場合、ほとんど処理されないまま放置されてしまうケースもある。

こうした途上国の状況を、一般社団法人 国際環境協力ネットワークの代表理事で、20年以上JICAの活動にも関わってきた吉田充夫さんは次のように話す。

「国や地域によっては土地が広くてごみ収集が難しいといった理由はあるかもしれません。しかし、いちばんの問題は廃棄物に関する政策優先度が低いことです。制度を作ったり人を育成したりするための資金が投じられていないことが挙げられます」

低所得の都市で適正な廃棄物管理を行うには、現在、投じられている金額と比べて一人あたり5~10倍の費用がかかるといわれている。そこにお金をかけるよりは、まずはインフラ整備などの目につきやすい投資に振り分けたいという各国政府の思いが見え隠れする。

ごみ収集率に関していえば、おおむね一人あたりのGDPが2000~3000ドルになると収集率はかなり上がってくるといわれる。この経済規模になるとごみの量がよりいっそう増え、収集されなければ自身の身の回りのごみが増えて目につくようになり、公衆衛生の向上を求める声が大きくなるからだ。

一方、ごみ処分場は都市部から離れた場所にあることが多く、政治家や予算を決定する立場の人たちは現場の状況を把握しにくく、そのため改善が遅れる。ごみを空き地や谷間、くぼ地などにそのまま積み上げて捨てるオープンダンプ方式が横行し、ごみから発生した浸出水や、嫌気性の環境のもとで発生するメタンガスが汚染の原因にもなっている。

「もう一つ、私たちにとって深刻なのは、ごみ山が崩壊して死者が出てしまうことです。2000年にフィリピンのマニラでは300名以上が命を落としました。2017年にはスリランカのコロンボで32名、エチオピアのアディスアベバで46名、モザンピークのマプトで16名の命が失われました。経済発展により大都市化してもすべての人が職に就けるわけではありませんから、貧困層はごみ山で有価物を拾って生計を立て、処分場近くに非合法に住みついています。負の連鎖が起きてしまっています」

相手に寄り添い 発展をサポートする

日本の廃棄物管理は、大きく四つの段階を経て発展してきた。1)ごみ収集による「公衆衛生の改善」、2)処分場でごみを適切に処置して埋め立てる「環境負荷の低減・汚染防止」、3)中間処理の導入による埋め立て処分量の削減、そして4)が、現在力を入れて取り組んでいる「3R(リデュース・リユース・リサイクル)を通じた循環型社会の構築」である。なお、日本は1960年代から2)と同時に3)を行い、ごみの焼却施設を建設してきたことで、埋め立てによる処分量は大きく減少した。

とはいえ、この流れが途上国の廃棄物管理にそのまま当てはまるわけではない。途上国を取り巻く経済環境は、急速な消費社会化とグローバル化の波により、次の段階に移行する時間が相当に圧縮され、複数の段階が同時発生的に起きている。

「廃棄物管理の潮流は、物質の再資源化と焼却によるエネルギー回収にシフトしていると思われます。ただ、途上国がどんな道を選ぶかは、彼ら自身が決めることです。世界各国の経験を学んで自国のごみ問題を考えてもらい、日本の役割としては、そこで決めたことに対していちばん良い処方箋を提供することが重要です」

処方箋は、国の立地や環境・文化によって、また同じ国でも大都市と小都市で異なってくるが、JICAの協力はその都度、相手国の目線に立って寄り添うように進められてきている。

今回の特集で紹介したスリランカの現地関係者は、「日本の協力はうれしい。ただ、それ以上にうれしいのは、日本人の『もったいない』という文化にも触れられたことです。とても感謝しています」と話す。地球をともにきれいに使うことこそ、次の世代の笑顔につながるのだろう。

関連リンク