サイクロンが上陸! トンガの災害廃棄物管理 大洋州地域

2018年5月18~19日、福島県いわき市で「第8回太平洋・島サミット」が開催される。
これまでの島サミットでも太平洋諸国の廃棄物管理が重要なテーマとして取り上げられてきた。
同地域で取り組むプロジェクトの現状を報告する。

文:松井健太郎

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サイクロン「ジータ」の後、災害廃棄物が大量に運び込まれたタプヒア処分場。アクセス道路が新設され、ごみの種類によって廃棄場所が区分けされている

災害廃棄物管理と3R+リターンの取り組み

サイクロンによる経験を、今後の廃棄物管理に生かす

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サイクロン「ジータ」はトンガの首都ヌクアロファのあるトンガタプ島に上陸。甚大な被害とともに大量の災害廃棄物が発生した

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WALの社長によるラジオでの呼びかけに応じた道路脇の土地所有者が、グリーンウェイストの仮置き場として土地を提供した

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トラックに積まれたグリーンウェイストが運び込まれるタプヒア処分場。受付の女性が、搬入者の名前や廃棄物のカテゴリーなどを記録する

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帳簿

2018年2月12日、サイクロン「ジータ」が大洋州の島国、トンガ王国に上陸した。JICAのプロジェクト専門家として現地に滞在していた小田真之介さんによれば、「私が聞いたかぎりでは、トンガタプ島に上陸したなかで過去最大規模のサイクロン」とのこと。幸いにも人的被害はなかったが、街中の木や電柱は倒れ、家々の屋根は吹き飛ばされ、1週間以上も停電や断水が続いた。嵐が通過した翌朝、道路には「グリーンウェイスト」(木などの廃棄物)や住宅の廃材があふれ、その前で住民たちは呆然と立ち尽くしていたという。

街のいたるところに堆積した災害廃棄物は、トンガ保険省から委託を受けた廃棄物公社(WAL)によって処理が始められた。WALだけでなく、一般の住民も率先してグリーンウェイストや粗大ごみをトラックに積み、トンガタプ島唯一のタプヒア処分場に運び込むのだが、それは長い列を成すほどだった。

小田さんの今回の派遣目的は、J-PRISM2の活動としてトンガタプ島で1世帯につき月額約500円で提供されているWALの廃棄物管理サービスを、離島のババウ島に展開するためのものだった。しかし、被害のあまりの大きさに活動スケジュールを急きょ変更し、WAL職員への緊急教育訓練(OJT)を実施した。「災害時の経験は、WALがサービスを提供するババウ島でも生かされるから」と、廃棄物の処理プロセスを記録に残した。

復旧作業のOJTを実施するなかで、小田さんはトンガの災害廃棄物管理の課題に気づいた。

「廃棄物収集車両や処分場で使う重機の不足とメンテナンス不良です」

WALでは生活ごみの収集車両を8台所有しているが、全車両を災害廃棄物の処理に使用したため、生活ごみの収集サービスは1週間ほどストップした。家庭内にごみがたまり、収集再開時には大量の生活ごみを集める必要が生じてしまった。

「トンガにおいて今回のような国家非常事態宣言下では、災害に対するすべての管理をトンガ緊急事態管理庁(NEMO)が司ります。WALは処分場での廃棄物処理に必要な重機の配備をNEMOに承認されたのですが、両者の連携がうまくいかず、ほとんど稼働しない状態で処分場に置かれたまま。教訓として、緊急時のNEMOとの連絡系統、重機や車両の確保、そして災害廃棄物の受け入れ計画が不可欠だと感じました」

そんななか、「もう処分場はいっぱいで、ごみは受け入れてもらえない」という根拠のない噂が飛び交った。そこで、WALの社長はラジオで国民に、「沼地があればグリーンウェイストを捨ててください。不法投棄とは見なしません。ただし、土地所有者の承諾は得るように」と呼びかけた。すると、「うちの土地に捨ててもかまわない」という住人がラジオ局に電話をくれたので、その申し出をすぐにラジオ局が放送したところ、処分場までグリーンウェイストを運べない住民が、提供された道路沿いの空き地に捨てることができた。

「災害廃棄物の仮置き場を島全体に10か所ほど設定し、マップを作成して周知しておけば、非常時に混乱を避けることができるはず」という小田さんの提案に、WALの社長も前向きな検討を約束した。

2011年にスタートした「J-PRISM」は、2017年2月から5年間にわたる「フェーズ2」に入り、その取り組みの一つの柱として、地域全体での災害廃棄物管理ガイドラインの作成がサモアを拠点に始まっている。サイクロン「ジータ」によるトンガでの廃棄物管理の経験もそこには生かされることが期待される。

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大洋州地域(J-PRISM対象国)

リサイクル組合を設立し、「3R+リターン」を実現

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リサイクルのためアルミ缶を梱包しているパラオのコロール州のリサイクルセンター。一定量が集まったところで船に積み、海外へ輸出する

「J-PRISM2」の活動の柱には、「3R+リターン」も挙げられる。リデュース(ごみ発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(再資源化)の3Rに、リサイクル可能な資源や有価物などの処理困難物を海外へ輸出するという「リターン」を加えたもので、島嶼(とうしょ)国ならでは取り組みだ。

その課題解決のために、今、域内のリサイクル業者による組合の設立が進められている。人口の少ない国では、リターンしようにも一定の資源ごみ量が集まるまでに時間がかかったり、運搬する船の燃料費がかさみ、資源の買い取り価格によっては赤字になったりするなどの困難がつきまとう。輸出が行われなければごみとして最終処分場行きとなるため、処分場を使用できる期間も短くなってしまう。そこで、域内の国々でまとめて輸出することでリターンを実現しようと、リサイクルや輸出の拠点となる施設の設置場所などについて、地域全体で議論がされている。

トンガ

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首都:ヌクアロファ
通貨:パアンガ
人口:約10.6万人(2015年)
公用語:トンガ語、英語

プロジェクト紹介

大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクトフェーズ2(J-PRISM2)(2017年2月~2022年2月)

大洋州の地域全体で行うプロジェクト。1)「大洋州地域廃棄物・汚染管理戦略」の達成度のモニタリング、2)域内の廃棄物管理の専門家の育成、3)災害廃棄物管理ガイドラインの作成、4)域内の有価物を輸出するための「3R+リターン」という、四つのテーマを柱に取り組んでいる。

国際航業 小田真之介さん

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小田真之介さん

廃棄物管理の改善の専門家としてトンガで活動。サイクロン「ジータ」による災害廃棄物の処理を現地スタッフへのOJTを通じてサポートする。