私のなんとかしなきゃ! 生駒芳子 ファッション・ジャーナリスト

ショッピングは今すぐできる社会貢献!

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カトマンズで手編みのニットの仕事をしている家庭を訪れた生駒さん。母親が言うには、仕事をしているのは娘さんを学校に通わせるためで、娘は「ジャーナリストになりたい」と夢を語った。物質的には貧しく、つましい暮らしだが、きちんとした生活の営みと未来への希望を感じた、と生駒さんはふり返る(写真提供:ピープルツリー)

長らくファッションやアートに関わってきた私が社会問題と向き合ったのは、2004年から編集長を務めた『マリ・クレール日本版』という雑誌でした。ファッションがテーマの雑誌に、エコロジーやフェアトレード、チャリティといった社会と関わる記事も掲載していきました。フェアトレードという言葉がまだまだ知られていない、そんな頃でした。

その後、社会的課題に取り組む多くの人たちを知り、その活動に共感を覚えていきましたが、なかでも「ピープルツリー」の創設者であるサフィア・ミニーさんと訪れたネパールのスラムでの経験は私に大きなものを残してくれました。

1995年に日本で創設された「ピープルツリー」は、途上国の女性たちと一緒に、できるだけその場所で取れる素材を使い、伝統的な手法で仕上げ、自然環境や労働環境に配慮した商品を作っている、フェアトレード専門ブランド。サフィアさんは世界中を駆け巡り、技術やデザインなどの指導を続けてきました。そのため、「ピープルツリー」の商品は、フェアトレードのイメージを超え、デザインや品質も素晴らしいものになっています。

カトマンズで訪れたのは、「ピープルツリー」が商品を依頼している一家。6畳くらいの1室に母と娘5人が暮らし、家でニットを編んでいます。出来上がったものを見て、サフィアさんは「こんなガタガタな編み方ではだめ!」と厳しい指導。「さあ、ヨシコも言ってよ」と言われてとまどったことを覚えています。しかし、サフィアさんの厳しい指導は当たり前のこと。品質がよくなければ、いくらフェアトレードでも買う人はいません。それでは途上国の女性たちの自立につながらないのです。それを作り手にもわかってもらうための厳しい指導だったのです。

家で作業してもらうのにも理由がありました。「大きな工場を建てて雇えばいいじゃないか」という意見もあるのですが、そもそも老人や子どもの世話をしなければいけない女性にとって、外に働きに出ること自体が難しいことなのです。一口に支援といっても、現地の状況を知り、それに沿ったものにしなければ意味がないこともサフィアさんから学びました。

では都市で暮らす私たちにできることはなんでしょうか。すぐに実践できるのは、カトマンズの女性たちが作っている商品を買うことです。商品がどのように作られたのか、背景を知り購入するだけで、1歩踏み出すことができるのです。商品を買うことは、いわば投票と同じこと。そして、気に入ったら友達に商品を紹介して環を広げてください。ピープルツリーを通じて途上国の女性たちの手仕事とつながったように、フェアトレードの輪が広がっていくことを願っています。

PROFILE

いこまよしこ
東京外国語大学卒業。『VOGUE』、『ELLE』を経て、2004年~2008年、『マリ・クレール』日本版の編集長として、社会問題を含むファッション雑誌をプロデュース。独立後は、ファッション、アート、ライフスタイルを軸にして、社会貢献、エコロジー、エシカル、クール・ジャパン、女性活躍、地方創生など時代のトピックを追うジャーナリスト、プロデューサーとして活動。現在、文化庁日本遺産プロデューサー、レクサス匠プロジェクトアドバイザー、国連WFP顧問などを務めるほか、伝統工芸開発ブランド「WAO」「HIRUME」を企画・プロデュースする。

なんとかしなきゃ!プロジェクト

「なんとかしなきゃ!プロジェクト」は、開発途上国の現状について知り、一人一人ができる国際協力を推進していく市民参加型プロジェクトです。ウェブサイトやFacebookの専用ページを通じて、さまざまな国際協力の情報を発信していきます。