文化と歴史がつなぐ新しい観光の軸 エジプト

大エジプト博物館関連プロジェクト 約10万点を展示予定

世界でも最大規模の、単一の文明を扱う博物館の建設と展示品の修復作業が進むエジプト。
大エジプト博物館に関連する一連のプロジェクトが、現地にもたらすものとは?

文:笹浪万里江(編集部)

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ギザのピラミッドから車で約15分という立地の大エジプト博物館。写真は建設中の正面入口。ラムセス2世の像がそびえ立つ

悠久の歴史に ふたたび光を

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カイロ、ギザ

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世界からも注目の集まるツタンカーメン王のベッド。首都カイロの考古学博物館からセンターに移送されて修復を待つ

大エジプト博物館(以下、博物館)は2019年に見込まれる部分開館に向けて、あのツタンカーメン王の遺品を含むエジプトの至宝の修復作業を、エジプトと日本の合同で進めている。現地の人々は当初、外国人に国宝を触れさせるなどもってのほかという態度だったが、2008年から長年にわたって協力を継続してきた結果、日本ならば信頼できると、修復作業の協力が許されることになった。

観光分野は、エジプト経済の重要な外貨獲得源の一つだ。豊富な文化遺産の有効活用はつねに議論されてきた。しかし、20万点ともいわれる文化財を収蔵する歴史あるエジプト考古学博物館は開館から100年以上が経ち、設備は老朽化している。展示スペースは十分でなく、さらに美術品の管理・修復を行う人材が不足していた。そこで、カイロの中心地からほど近いギザのピラミッドのすぐそばに、博物館の建設が始まった。

随所で生きる 日本のノウハウ

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「壊さないこと」に細心の注意を要する梱包、搬送には、専門のノウハウを持つ日本通運が携わる

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イニ・スネフェル・イシェテフの壁画修復を進める現地スタッフの横には日本の専門家の姿が。東京藝術大学などが協力している

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取り上げ作業が進む、クフ王のピラミッドから出土した世界最古の木造船「第二の太陽の船」。吉村作治さん率いるNPO法人太陽の船復原研究所と共同でプロジェクトが進んでいる

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大エジプト博物館の完成予想図。ピラミッドの造形を幾何学的に取り入れた現代的なデザインが目を引く

建物ができあがっても、博物館を運営するにはさまざまな専門知識とノウハウが必要になる。人材育成のため、エジプト政府は博物館の付属施設として保存修復センター(以下、センター)を設立した。JICAは2008年から同センターに対する協力を実施し、その計画・設計・運営にかかる体制づくりや収蔵品のデータ構築等に関する協力を行ってきた。

「計画を立てようにも収蔵品に関する正しい情報がないのです。記録されている場所にまったく別の収蔵品があったこともあります。まずはデータベース作りからのスタートでした」と振り返るのは、保存修復のプロジェクトの総括を務める日本国際協力センター(JICE)の中村三樹男さん。文化財を計測し、写真撮影をして損傷状態を記録する「ドキュメンテーション」と呼ばれる作業のために、厖大(ぼうだい)な収蔵品がセンターへ集められた。梱包と移送の一部は日本通運が現地の人と協力して行った。

文化財の保存・修復のための多数の研修では、JICEや東京藝術大学などの専門家が協力した。初期段階として、まずはレプリカを使って現地の修復士の育成に努めた。「これまでに105回の研修を行い、のべ2250人が受講しました。その後、エジプト人専門家の保存修復の技術レベルも底上げされてきています。また最近では、エジプト人専門家が国外で開催されるシンポジウム等で活動成果を発表する機会も多くなっています」

そして2016年11月以降、現在は、レプリカではなく「本物」の修復作業が始まっている。世界的な文化遺産の修復にわれわれ日本人が関わる責任は重大であるが、一方で、プロジェクト関係者には確かなやりがいをもたらしている。修復される文化財は、データベースをもとに1)木製品、2)染織品、3)壁画および石材の3分野から72点が選ばれた。「リード(先行)遺物10点」と「フォロー(追従)遺物62点」に分類され、前者は日本人専門家とエジプト人専門家が共同で修復作業を進める。後者はエジプト人専門家が主体となってリード遺物の修復で習得した知識と技術を用いて作業を行っていく方針だ。

博物館が建設されている周辺では日本の協力によるカイロ地下鉄4号線の整備も進んでおり、エジプト政府はこの地域一帯を新たな観光の目玉として盛り上げていこうとしている。エジプトの近年の観光者数は過去最高だった2010年の1473万人から、「アラブの春」の影響などで2016年には540万人にまで落ち込んだ。博物館の開館は回復の起爆剤として大きな期待を集めている。

エジプト・アラブ共和国

【画像】首都:カイロ
通貨:エジプト・ポンド(LE)とピアストル(PT)
人口:9,304万人(出所:2017年エジプト中央動員統計局)
公用語:アラビア語、都市部では英語も通用

エジプトにとって一大事業である大エジプト博物館のプロジェクト。JICAは円借款による博物館建設技術協力において、展示品の保存と修復、開館後の運営・展示のノウハウを提供、そして「第二の太陽の船」復元の支援の四つの分野で協力を行っている。

JICA社会基盤部・平和構築部 峰 直樹さん

「大エジプト博物館の完成によって観光客が増えれば、周辺地域や産業への大きな波及効果が期待できます。人材育成による修復や移送技術の向上は、現地の人が自分たちで博物館を運営する助けになり、また職を得ることで生活の安定にもつながります。このプロジェクトによるエジプト経済への貢献は大きなものになると信じています」

JICA中東・欧州部 降旗 翔さん

「2019年の部分開館に向け、まだまだ調整すべきことは多いのですが、"最後は何とかする"のがエジプト。大エジプト博物館の運営・展示のために国際航業や三菱総合研究所も現地と協力して準備を進めています。これら一連のプロジェクトの貢献の証として、主要な展示品の説明パネルには英語、アラビア語に加えて日本語も併記される予定です。ぜひ現地で確かめてください」