世界に誇れる観光地を目指して ミャンマー

地域観光開発のためのパイロットモデル構築プロジェクト 訪れたくなる文化遺産に

2013年には世界中から約204万人が訪れ、2020年には最大750万人になるともいわれているミャンマーの観光客。
観光開発が国としても大きな課題となっているミャンマーで、バガン遺跡の観光開発パイロットモデルが完成した。

文:久島玲子(編集部)

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ミャンマー中部にある仏教遺跡、バガン。11世紀から13世紀にかけて建てられたパゴダや寺院が平原に点在する。リビング・ヘリテージ(生きている遺産)の考え方で、世界遺産への登録を目指している

多様な取り組みは コミュニティ活動へ

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ミャンマー(バガン、ネーピードー)

ミャンマーを代表する観光地といえば、世界三大仏教遺跡の一つに数えられているバガン遺跡だ。広大な平原の中に、3000を超える大小さまざまな仏教遺跡が点在する景観は他に類を見ない。しかし、観光地としてのインフラやホテルの整備はいまだ発展途上にあり、遺跡や周辺エリアの保全活動もそれほどきちんとしたものではなかった。そこで観光開発モデルを作ろうと、2014年から同国のホテル観光省とJICAがプロジェクトを進めてきた。

「最終的な目的は、バガンの観光開発マスタープランの作成です。観光管理・体制の強化、観光インフラ整備、観光人材育成の三つの柱を立て、それぞれに多数の試験的な取り組みを実施しました。その結果を考慮しながら、最終的な計画をまとめていきました」と、プロジェクトに関わってきたJICA産業開発部の浦野義人さんは語る。

観光地としての情報発信としてインフォメーションセンターのリノベーションや乱立する看板の統一、また道路整備、遺跡周辺の清掃、駐車場の整備など、多彩な分野で観光開発に取り組んできた。

そして、その多くの活動は、住民を巻き込みながら進めてきた。2017年秋にプロジェクトが終了した現在、景観をよくするための木々の茂みの伐採はコミュニティが行っていて、歴史的景観との調和を意識して統一されたシックな木彫りの案内板は地元の職人が作っている。観光客の車やバイクが乱雑に置かれていた駐車場は、整備のやり方を伝えて、現在は地元自治体が中心となって行っている。将来的には駐車場に木を植えて、遺跡から車が見えないようにしたいという発展的な意見も今では上がっているそうだ。

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ビジターセンター

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ビジターセンターはすでにある建物をリノベーションして活用。自治体の熱心な運営によって、観光情報だけでなく、バガンやコミュニティの歴史、写真コンテストの作品展示など活動が充実し、訪れる人も増えた

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駐車場。以前は遺跡近くに観光客の車やバイクが乱雑に停められていたが、今は駐車場の整備によって整然とした場所に生まれ変わった。遺跡の上からの眺望も気持ちいいものになった

広がりをみせる コミュニティの取り組み

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遺跡周辺の清掃。観光客や住民たちのごみのポイ捨ては大きな課題で、集落の人たちが道路や遺跡近くの清掃を定期的に行っている。子どもたちに向けて遺跡保全や環境の美化の意識を高めるワークショップも開催した

バガンで伝統的な暮らしを守るウェストポワソー村では、ひとりの女性が、村の中で観光客に伝統料理を提供したり、料理体験のできるツアーを開催したりしたところ評判がよく、たくさんの人が訪れた。それを見た他の女性たちも同じような試みを始め、プロジェクトが終了する頃までには、観光客向けに伝統料理を提供するレストランなどが3軒オープンしている。これは住民の中から自然に生まれて広がっていった取り組みだ。

「サクセスストーリーがあったので、それをみんなが見習っていったいい例です」と浦野さん。

この3年間、JICAは多くの村人たちに参加してもらってきた。

「全体を通して見ると、住民たちの中に『まず、やってみよう』という気持ちが育まれました。こちらが一つきっかけを作ると、その広がり方がとても早いことにも驚きました。まじめな国民性が現れていると思いますし、それがきっと今後につながっていくと信じています」と期待を寄せる。

2018年5月、プロジェクトの集大成としてバガン地域観光開発のためのマスタープランが完成し、周辺地域へモデルの紹介を兼ねたお披露目も行われた。それはバガンの観光を無理なく進める観光開発を支援するモデルとなっていると同時に、同様の文化遺産が多いミャンマーでは、他地域でも適用できるモデルとしての活用も期待されている。これからは、ミャンマーのいろいろな立場の人たちが力を合わせてバガン観光を推進していく局面へと移行する。名実ともに住民が誇れる観光地に育っていくはずだ。

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道路整備。道路にまで生い茂ってきた木々の除草作業を行う。観光客が遺跡にアクセスするときに見通しをよくしておくことで交通の安全性を高める

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クッキングツアー。村の女性たちが自主的に始めたクッキング教室。現地の料理を村の人たちと一緒に調理して食べるのは観光客にとってまたとない経験だ。同様の取り組みが広がっている

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案内板。遺跡保全地域内に、景観を損なわないようにシックな色彩で統一したデザインのサイン(方向などを示す看板)を設置。地元の人材を活用して持続可能な事業にしている。木材も地元産を使用

ミャンマー連邦共和国

【画像】首都:ネーピードー
通貨:チャット(kyat)
人口:5,141万人(2014年9月ミャンマー入国管理・人口省発表)
公用語:ミャンマー語

2011年に民政移管して以降、著しい発展が注目される国。100以上の民族が暮らしていて、最大の都市はヤンゴン。国内には多数の仏教寺院や遺跡があり、19世紀のマンダレー王宮などの歴史的建造物や田園風景、エーヤワディー川、北部のインレー湖など、自然、文化など多彩な観光資源がある。