観光開発はすべてのSDGsに貢献する!

SDGs達成に向けて観光はどういった役割を果たしているのか。現在JICAは、UN Tourismとともに行ったプロジェクト研究のファイナルレポートをまとめつつある。その結果を具体的なJICAプロジェクトとともに見てみよう。

SDGごとの観光開発協力の実施率(注)(2011-2016累計)総計208事例

過去5年間に開発金融機関・国連組織・2国間援助機関(JICAを含む)によって実施された観光分野の案件208件をサンプルとして取り上げて分析し、SDGs達成に向けてどのように貢献しているかを検証。観光開発は17の目標すべてにアプローチできていることが確認された。とりわけ、SDGの1.貧困をなくそう、8.働きがい、17.パートナーシップなどに対して高い貢献度を示している。

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SDGごとの観光開発協力の実施率グラフ(2011-2016累計)総計208事例

SDG 実施率
1.貧困をなくそう 35.7%
2.飢餓をゼロに 0.5%
3.すべての人に健康と福祉を 2.0%
4.質の高い教育をみんなに 14.1%
5.ジェンダー平等を実現しよう 9.0%
6.安全な水とトイレをみんなに 15.1%
7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに 3.0%
8.働きがいも経済成長も 66.3% 208事例のうち138例がGoal8に貢献!
9.産業と技術革新の基盤をつくろう 22.1%
10.人や国の不平等をなくそう 12.1%
11.住み続けられるまちづくりを 28.6%
12.つくる責任つかう責任 18.1%
13.気候変動に具体的な対策を 12.6%
14.海の豊かさを守ろう 12.1%
15.陸の豊かさも守ろう 26.6%
16.平和と公正をすべての人に 17.1%
17.パートナーシップで目標を達成しよう 42.2%

(注)全案件を母数として各SDGsに該当する割合を算出

貢献するゴール SDG1、6、10、14

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地域・国

中東 イラン

JICAプロジェクト

ゲシュム島の「エコアイランド」構想による地域のための持続可能な開発計画策定プロジェクト(2015年11月~2018年11月)

SDG1、10

エコツアーの開発、ファームツアーの催行などをパイロットプロジェクトとして実施し雇用を促進。

SDG6、14

重工業などの産業開発が進む一方で、ペルシャ湾最大のハラ・マングローブ林や特異な景観を持つジオパークといった豊かな観光資源を有するゲシュム島で、地元住民と自然資源の持続可能な開発を目的とする環境に配慮した水産振興、観光振興、固形廃棄物管理、下水排水管理に係るマスタープランを策定。

貢献するゴール SDG1、4、8、12、15、17

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地域・国

アフリカ エチオピア

JICAプロジェクト

シミエン国立公園および周辺地域における官民協働によるコミュニティ・ツーリズム開発プロジェクト(2011年11月~2016年2月)

SDG1、4、8、12

住民に雇用が創出されるよう、対象地域における観光関連組織の能力向上・組織間連携強、観光プロモーションにかかる開発・発掘能力向上、観光商品にかかる開発・発掘能力向上など、持続可能な観光開発の仕組みを官民協働で構築し、地域コミュニティが観光活動に参加する機会を増やした。

SDG15、17

シミエン・コミュニティ・ツーリズム管理開発を行い、プランの官民協働による策定ほか、国立公園と保護区へのモデル提言。持続可能な観光の実現を目指した。

貢献するゴール SDG5、8、15、16、17

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地域・国

欧州 ボスニア・ヘルツェゴビナ

JICAプロジェクト

ヘルツェゴビナ国際観光コリドー・環境保全プロジェクト(2012年7月~2015年11月)

SDG5

ジェンダー情報を収集し、観光開発が男女双方の助けになるための工夫や、ジェンダー視点からの負の影響を検証し、計画に反映させた。

SDG8

官民連携の持続可能な観光振興の取り組みを確立して、観光収入の増大、雇用機会の創出が図られた。

SDG15、16、17

隣接するアドリア海沿岸の観光拠点と、ボスニア国内の観光拠点を繋ぐルート「国際観光コリドー」形成のための南ヘルツェゴビナ地域の歴史的街並み、地方部の山や湖、川の自然風景保全を含め、観光振興のアクションプラン策定。官民連携による観光振興の実施・モニタリング体制構築と、関与する官民のステークホルダーの活動能力向上に協力。

貢献するゴール SDG1、5、8、10、12、17

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地域・国

中南米 ドミニカ共和国

JICAプロジェクト

北部地域における持続的なコミュニティを基礎とした観光開発(CBT)のためのメカニズム強化プロジェクト(2016年4月~2021年4月)

SDG1、5、8、10

国内外からの観光客に向けた観光アトラクションを開発することにより、女性の活躍、雇用の促進、不平等の解消、責任ある行動などに貢献している。

SDG12、17

地域資源を活用した、住民の役に立つCBT推進のための戦略策定・実施協力、たとえば観光商品開発・改善・PR、観光人材育成、組織連携強化、体制整備の実施を行っている。

観光開発協力とSDGsの関係性について

JICAは1970年代から途上国に対して、観光分野における開発計画の策定、人材育成、インフラ整備、自然遺産や文化遺産を活用した地域振興などの協力を実施してきました。近年は世界における観光客数の増加とともに、さらに支援のニーズが高まっています。

一方で、2015年に国連に採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals 以下、SDGs)では、観光が三つのSDGsのターゲット(達成のための具体的目標)に取り上げられています(SDG8、12、14)。観光開発は、有形・無形文化遺産や自然環境に配慮しながら、地域の雇用や収入を生み出し、各地域の持続可能な発展のための推進力となることが期待されています。

さらに、2017年に中国で開催された第22回UN Tourism(国連世界観光機関)の総会では、観光開発が先の三つだけでなく、17のすべてのSDGsに関連する可能性があることが確認されました。

そこで、JICAとUN Tourismは共同で、観光分野における国内外の援助機関による協力実績に基づく調査・分析を行い、各案件のSDGsへの貢献について整理したファイナルレポートの作成を進めています。その結果、観光開発はすべてのSDGs達成に向けて十分に貢献できることが認められ、上記の4例のようにひとつの案件がいくつかの開発目標に向けて横断的な効果をもたらすことがわかりました。観光は柔軟な協力ができる分野であることを世界に証明したのです。

また、JICAは同レポートで開発効果を十分に上げるための方策の提起も行っています。SDGsに対する適切なゴール設定や成果を測定する指標の設定、ステークホルダー(現地で観光開発の役割を担う企業や団体)の活用や連携モデルの促進、効果を高めるイノベーションの検討などで、指標についてはすでに策定され、「指標ツールキット」として世界に広められる予定です。JICAは引き続き、途上国の観光開発をよりよい方向に加速させていくことを目指します。

JICA産業開発・公共政策部 浦野義人さん

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浦野義人さん

観光開発協力とSDGsの関係性について解説してくれたのは浦野さん。ミャンマーの「地域観光開発のためのパイロットモデル構築プロジェクト」をはじめ、これまで多くの観光案件に携わっている