ひと目でわかるフードバリューチェーン

開発途上国の農家の多くは、農産物を一所懸命に作っても、高く買い取ってもらうことができずになかなか貧困から抜け出せないでいる。
その解決策としてJICAは、農業に関連する人たちがみんなで手を取り合って価値の高いものを作ることができるようなシステム作りを後押ししている。
そのようなシステムがフードバリューチェーンだ。

フードバリューチェーンとは?

食品流通の各段階で生み出される付加価値(バリュー)を連鎖させたもの。

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野菜イラスト:Sea Owl/Shutterstock.com トラクターイラスト:Zefir/Shutterstock.com

それぞれが連携して付加価値を高める

私たちの手元に穀物や野菜、果物が届くまでには、農産物を作る農家をはじめとして、種や肥料、農機など必要な資機材を供給する会社、農産物を加工する会社、各地域に運ぶ輸送・流通会社、販売会社など多くの人の手が関わっている。フードバリューチェーンは、この流れを一つのものとしてとらえ、それぞれが連携して生産活動の効率を高めながら商品に付加価値(バリュー)をつけることを目的としている。付加価値には、農産物の質を高める、魅力的な新商品を開発する、輸送コストを削減する、販売網を広げて売る機会を増やす、などがある。

付加価値向上

インドネシア 官民協力による農産物流通システム改善プロジェクト

近代的な手法の農業を学んで生産量と質を向上させる。仲介業者を減らしてより多くの利益を得る、など。

キルギス 一村一品・イシククリ式アプローチの他州展開プロジェクト

農家がグループを組織して特産品の生産体制を強化する。一村一品事業を立ち上げて、商品企画、流通、販売を一貫して行う、など。

セネガル SHEP&CARD

農家が自ら市場で調査を行い、需要の多い時期をねらって園芸作物を生産する。稲作農家は精米技術を高め、歩留まりを減らして生産力の向上を図る、など。

所得が増えるとニーズも変わる

世界の富裕層人口は先進国に多いが、新興国(注)にも年々富裕層が増えている。加えて、上位中間層の伸びも大きい。所得の高い人が増えると起きてくるのが市場ニーズの変化で、消費者は同じ農産物でも「安全・安心」なものを求める傾向がある。フードバリューチェーンで「安全・安心」という付加価値をつけることはとても大切になる。また、高級材(希少性の高い農産物や肉、魚、嗜好品のチーズなど)の消費も増えるので、この傾向に合わせたものを作ると利益が生まれやすくなる。

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新興国の所得層別人口推移

新興国の所得層別人口推移

富裕層
(35,000ドル~)
上位中間層
(15,000~35,000ドル未満)
下位中間層
(5,000~15,000ドル未満)
低所得層
(5,000ドル未満)
2000年 0.9億人 1.6億人 4.5億人 31.4億人
2005年 1.4億人 2.5億人 8.4億人 28.4億人
2010年 2.5億人 5.1億人 16.2億人 19.2億人
2015年 4.4億人 7.9億人 18.6億人 14.1億人
2020年 6.9億人 11.5億人 19.1億人 9.4億人

備考:世帯年間可処分所得別の家計人口。各所得層の家計比率×人口で算出。2015年、2020年はEuromonitor推計/引用:経済産業省の通商白書2011(原典:Euromonitor International 2011)

(注)新興国:中国、香港、韓国、台湾、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、フィリピン、パキスタン、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、南アフリカ、エジプト、ナイジェリア、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、ベネズエラ、ペルー、ロシア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア

産業クラスター化でより付加価値を高める

産業クラスター化の「クラスター」とは「ブドウの房=集積する」という意味。クラスター化とは、ある地域の農家(グループ)に加工や流通会社、販売会社をはじめ、行政機関や研究機関、商社、農業コンサルタント、IT会社などがどんどん集まって関わりを持つことを指す。連携が大規模になれば、生産コストの削減、生産効率の改善をさらに図れるようになり、商品の付加価値が高まる。地域にはクラスター化によって多くの雇用が生まれ、経済も活性化される。JICAはフードバリューチェーンだけでなく、産業クラスター化も見据えた協力を行っている。

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ブラジルのセラード地帯のバイーア州西部の場合は、大豆農家を起点に大豆や大豆油が販売ルートに乗る一方で、大豆油の副産物から家畜用の飼料が生産されている。畜産農家の関連産業も含めた、大きな農業・食品加工産業クラスター化が進んだことで、地域開発の効果がより高まっていると考えられている

トピックス

栄養の観点から見たフードバリューチェーン

時代の流れとともに多様化する食生活のなかで、JICAが今後取り組みを強化しようとしているのが、栄養価の高い農産物や、その加工商品を生み出して付加価値を高める「栄養の観点から見たフードバリューチェーン」だ。現在、開発途上国で進められているフードバリューチェーンに、「栄養」という観点も含めて活性化を促していくもので、農産物の大量生産に向かない地域などにも有効な手法になる。

JICAは以前からもアフリカ諸国において栄養改善に向けた協力を行ってきた。2016年には「食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)」も発足し、その重要性はさらに増している。長年培ってきた食生活の改善の試みに、栄養の観点から見たフードバリューチェーンが加われば、相互に補完し合いながら、これまで以上の成果を期待できる。