JICA Volunteer Story 未来を担う若き農業人を育成する 加納達也 東ティモール

生徒一人一人に寄り添う実践的な研修に取り組む

2002年、インドネシアから独立して生まれた東ティモール民主共和国は、インドネシアの南東に位置するティモール島の東半分を占めている。これからの発展が期待されている、アジアで最も若い国で、加納達也さんは農業を志す若者とともに汗を流している。

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生徒と一緒にキュウリの育ち具合を見る加納さん(左端)

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インドネシア 東ティモール

東ティモールでの加納さんの職場は、首都ディリにある国立職業訓練校だ。
「本校には10の専門教育部があり、18歳から40歳くらいまでの生徒約200人が学んでいます。教育期間は1年で、私が所属する農業科は21人でスタートし、12人が課程を修了しました」

加納さんは2009年から、インドネシアの島々や東ティモールの村落に長く滞在し、地域・村が抱える問題や、地域の未来になにが必要なのかを地域のリーダーや若者などと意見交換しながら過ごした。そうした中で、現地で活動する青年海外協力隊員の熱意ある活動に触れ、彼らの仕事に興味を持ったそうだ。そして今度は、青年海外協力隊としてふたたび東ティモールに腰を据えることになった。

一人一人が実践できる農業の姿を提示

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どこになにを植えるのかを地図にするマッピング授業

東ティモールは国民の65パーセントが農業を営んでいるが、さまざまな要因から所有している土地を最大限に活用できておらず、農業が産業として確立していないのが現状だ。流通が未成熟で、作物を売ってお金にするという仕組みを知らない人も多く、また、行事や祭りごとで犠牲にする家畜(豚や鶏、ヤギなど)の負担も家計を直撃している。「訓練校は、そういう東ティモールに農業という産業の種を蒔くと同時に、地方の村落やこれまで十分に教育が受けられなかった若者たちが、仕事とはなにか、モラルとはなにかについて、さらに農業を学ぶことの意味を考える場なんだと感じています」と加納さんは言う。

むずかしかったのは、職業訓練校で学ぶ生徒たちの出身地域や抱えている問題が一人一人違うことだった。最初のうちは将来について聞いても、「農業を勉強して、村で農業をしたい」という模範的な答えが多く、なかなか本音が聞けなかった。そこで、生徒全員と最低30分以上の個人面談を2回行い、生徒の実家の家庭訪問を行った。それによって、各生徒が戻る家庭や村の状況がわかり、その地で育てるのに適した品種と栽培方法を教えることができるようになった。さらに、卒業後の実践に役立つような会社やNGOを選んで研修に送り出した。

一律に同じ作物の栽培を進めるのではなく、乾燥地帯に適したイチジク栽培、収入になりやすい丁子(クローブ)栽培、現地で今注目のパパイヤ栽培、養豚の導入など、地域に合ったものを提案している。

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パパイヤの苗を定植

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家庭訪問した生徒の家。台所なども見せてもらった

農業へのモチベーションがアップ

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コーヒー殻で燻炭作り

もう一つ、加納さんが力を入れているのがローカルリソース、つまり身近にある素材を使った土壌改良剤や肥料作りだ。たとえば、近くのコーヒー加工会社からコーヒー殼を格安で仕入れ、自然に発酵させてコンポストにしたり、コーヒー殼燻炭を作って肥料・土壌改良に利用している。キャッサバ加工場からはキャッサバ粉を安く買い付け、鶏糞と混ぜ速成発酵させてボカシ肥料を作った。

ただ、生徒たちは研修ではできていても、その後に一つでも同じ資材がないと「材料がないからできない」とあきらめてしまうことが多かった。そんな時は、その村に豊富にあるリソースを活用すれば村で模範になるし、村も豊かになることを、くり返し伝えているそうだ。

「なぜ(この学校に)農業を学びに来たのかが明確でない生徒も多かったのですが、学校生活を通じて学ぶ目的が明確になり、自然にモチベーションが高くなっています」。研修で教えた肥料作りを生徒自身が生産者に伝えて、その人から「もっと詳しく教えてほしい」と言われたときはうれしかった、と加納さんはふり返る。

加納さんの任期は、あと半年あまり。「インドネシアの村々を巡り、それぞれの地域が抱えている問題を解決している姿を見てきました。東ティモールでの課題解決にも役に立つ事例がたくさんあります。私は両国の農業を知っているので、インドネシアのノウハウを東ティモールに伝えることができれば、東ティモールの農業にも突破口が見えてくると思います」。

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加納さんが栽培指導した近在の生産者「農家の人にボカシ肥料の作り方を教えました」

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加納さんが栽培指導した近在の生産者「コツを教えてもらって大きなショウガができたよ」

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インターン先の生産者と生徒たち。畑での実践的な経験が生徒たちの将来に生きてくる

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僕たちの初めての収穫です!

プロフィール

加納達也(かのうたつや)

1983年、愛知県生まれ。高校卒業後、オーストラリアに留学。2009年、インドネシア政府奨学金プログラムを活用し、ロンボク島のマタラム大学入学。以後、主にロンボク島で乾燥地における混牧林経営を学びながらインドネシアの島々や東ティモールの村落に入り、地域や村が抱える問題や未来について地域のリーダーや若者などと意見交換しながら過ごす。帰国後、愛知県立農業大学校で約1年の野菜・果樹栽培研修。2017年1月から、青年海外協力隊員として東ティモールへ。