JICA STAFF 中条真帆 農村開発部

地域の誇りが、JICAの誇り

誠意のこもったハードな交渉

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ペルー・アマソナス州にチャチャポヤス文明の遺跡群を視察する中条さん。アマソナス州はペルーでも最も貧しい地域

私、昔から中南米の遺跡が好きなんです。マチュピチュとか、ナスカの地上絵とか。中南米に憧れて中学生の頃からスペイン語を学び始め、大学院で国際協力学の修士号を取った後JICAに入構しました。

うれしかったのは、初めて任されたのがペルーの、それも遺跡に関する案件だったことです。「第二のマチュピチュを作ろう」というスローガンや、まだあまり人に知られていない遺跡を観光地化するという目標にも夢を感じました。

しかし、実際の業務を進めるのは大変でした。私が担当したのは、遺跡周辺地域のインフラ整備のための有償資金協力の案件でしたが、カウンターパートは小さな州政府で、国際的な資金の借り入れの経験がある行政官が誰もいませんでした。「この費用は出せるけれどこっちの費用はJICAが出してくれ」といった議論と交渉を経てなんとか金額の合意が終わると、今度は工事に向けて、彼らにとって初めての国際入札が始まります。ペルーに駐在して引き続きこの案件の担当となった私は、入札のルールを現場につきっきりで一から説明し、先方が作成した入札図書を、チェックして、JICAのガイドラインに沿って修正して、という作業をくり返しました。私は駆け出し職員で、彼らは国際入札の書類を作るのが不慣れ。おたがいに経験が浅い中、成長し合いながら進めた案件でした。

JICAの職員は現場視察などもしますが、地味な業務もすごく多いんです。書類を山ほど読んで直すとか、相手の政府と協議した内容を文書に落として、さらに合意を得るためにまた交渉するとか。いよいよ話がまとまり覚書を交わすという場面で、JICAの規定と相手国の法規とで誰が署名すべきかが異なり、おたがいに一歩も引かない状況になったこともありました。

そんな時、誠意のこもった交渉をしなければ絶対にものごとは動きません。相手側の主張がどういう論理に基づくのかを理解した上で、主張すべきところは主張し、引くべきところは引き、双方が納得できる合意を取り付けていきます。スペイン語で激しく議論を交わしておたがいに疲れ果てた状態の時に、カウンターパートから「マホは見た目は中学生みたいだけど、本当にハードネゴシエーターだよね」と言われ、笑い合ったことがありました。主張が異なっても目指すところは同じです。相手と真正面から向き合うことで連帯感が生まれ、活路が見いだせるのだと思います。

開発するのは地域の「誇り」

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ビジャビエハ市は星空の観賞を中心に砂漠地帯の観光や地域の祭りなどで観光客の誘致に成功した。観光客の増加に伴い発生したごみ問題には、住民が自主的に対策キャンペーンを実施。プロジェクトの枠を超えた町作りに発展している。中条さん(前列中央)は「チームの一員として自分も誇らしい」と話す

現在はおもに一村一品のプロジェクトを担当しています。この仕事でなにより喜びを感じるのは、人々が自分たちの地域に誇りを持てるようになった姿を目の当たりにしたときです。

コロンビアのビジャビエハ市は奇妙な地形の砂漠が広がり、夜間には美しい星空が見える魅力的な観光地です。しかし、一村一品の取り組みが始まる前、地域の人たちは自分の町には何も自慢できるものがないと思い込んでいました。地域の観光資源を再評価する取り組みを始めると、徐々に自分たちの住んでいる土地に愛着と誇りを感じるようになり、今では「美しい環境の中、みんなで静かに星を見られる町にする」という町作りにまで運動は広がりました。

同じくコロンビアで一村一品に取り組んでいる地域のプロモーションビデオを見せてもらった時は、その内容にとても驚かされました。切り取っている場面があまりに日常的だったのです。そこには、街角のパン屋やお菓子屋のおじさんたちが働く等身大の姿が写っていました。地域の人々が、日々まじめに働く自分たちのことを誇らしく思うようになったことに、地域開発の意義を再確認させられました。

日本の地方も同じような課題を抱えているのではないかと思います。コロンビアの一村一品で日本の取り組みを参考にさせていただいたように、私も日本と海外の地域がつながって、おたがいの経験を生かし合えるような取り組みをしたいと思っています。

プロフィール

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中条 真帆さん

中条 真帆(ちゅうじょう まほ)
農村開発部

遺跡好き、ラテン音楽好きが高じて中学生の頃からスペイン語を学び始める。大学院で国際協力学を学んだ後、2009年にJICAに入構。中南米部、ペルー事務所を経て、2018年より現職。おもに地域開発の案件を担当する。