水 岐阜県

急激な人口増加や経済発展で、途上国の水事情はさまざまな課題を抱えている。
しかしそれは、日本がかつて経験してきたことでもある。
日本が蓄積してきた治水、利水のノウハウを活かそうと、日本各地のプレイヤーたちが活躍している。

Project 1 省スペース、低コストのPCタンクで水問題を改善

岐阜県 安部日鋼工業 × JICA中部 = スリランカ 経済的な水道整備に資するPCタンクの普及・実証事業

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完成したPCタンク(注)。水を供給できる世帯が増えるとともに、これまで供給が制限されていた地域では24時間の供給が可能になった

水道の普及率が5割を切るスリランカでは、より多くの国民に質のよい水を提供することが大きな課題である。
その解決に、中部地域で水問題に取り組む「水のいのちとものづくり中部フォーラム」とそのメンバーである安部日鋼工業が協力している。

中部地域の知見で水問題の解決に貢献

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タンクの屋根はエアドーム工法を採用。工期が短縮でき、作業の安全も確保できる方法だ。このドームの上にコンクリートを打って屋根とする

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プレストレストコンクリートでタンクの側壁を造る作業中。現場のすぐそばにヤシの木が見える

干ばつ、洪水、水資源の枯渇、水質汚染などの水環境の悪化は世界的な問題であり、「水のいのち」の危機ともいえ、その解決なくしては人類の持続可能な発展はありえない。そうした意識のもと、中部地域の産・官・学が連携し、水問題の解決に貢献したいと2009年に設立されたのが「水のいのちとものづくり中部フォーラム」(以下、中部フォーラム)だ。

「中部地域も大洪水や高潮、渇水、地下水くみ上げによる地盤沈下、水質汚濁など、さまざまな水の問題を経験してきましたが、水の分かち合い、先端技術の開発、社会基盤の整備などで乗り越えてきました。そうした知恵や技術、仕組みを今度は世界と分かち合いたい。そういう思いで多くの企業や自治体、大学がこのフォーラムに集まっています」と語る中部フォーラム顧問の山田雅雄さん。

設立の翌年からシンガポールで開催されている水の見本市「水エキスポ」に出展し、中部地域にある水関連の技術を紹介してきた。そこで展示内容に興味を示したのがスリランカ上下水道庁(NWSDB)だった。

「それを契機に、はじめはスリランカの水道が整備されていない地域で、低所得者層に良質な水を供給するビジネスの可能性を探りました」と山田さん。JICAの事業として調査を行った結果、残念ながらビジネスとしては展開できなかった。しかし、この調査を通してできたNWSDBとの関係を基礎に、中部フォーラムのメンバーである岐阜県の安部日鋼工業が、その主力製品であるPCタンクの有用性を探る調査をJICAの案件化調査として行うことになった。構造物が薄く、コンクリートなどのコストが削減できるPCタンクは、スリランカでは技術的にも経済的にも十分勝算ありと見込んでのことだった。

1万4650世帯へ新たに水を供給

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ベトナムのニャチャン市にある上水道の施設。水道はあるのだが下水道の処理場がなく、環境への影響も懸念されている。「中部地域の水技術で協力できないかと思っています」と中部フォーラムの山田さん

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シンガポールでの「水エキスポ」にブースを出した中部フォーラム。スリランカとの関係もここから始まった

安部日鋼工業の堅田茂昌(かただしげまさ)さんによれば、中部フォーラムのメンバーである名古屋市上下水道局職員や山田さんたちとともにJICA中部スリランカ調査団として現地に赴いたのは2012年のことだという。「NWSDBの職員から水道の普及率を上げるために貯水池を増やしたいが、都市部では土地が限られていると聞きました。弊社のPCタンクは、省スペースで低コスト、工期も短く、しかも配水池としての耐久性は抜群。日本で5000基以上設置している実績もあわせて紹介しました」。するとNWSDBから同国でぜひ造ってほしいと強い要望があり、スリランカ南西部にあるベールワラ市でのJICAの普及・実証事業につながった。

2015年から実際の施工に入ったが、スリランカでは英国方式の施工がスタンダードなため、当初、現地の技術者たちは日本のやり方になかなか馴染めなかったそうだ。「従来の施工方法の改善点を示しながら、日本のやり方の利点を明確にして、おたがいに理解しながら施工を行いました」。PCタンクは2016年4月には完成したが、NWSDBが設置することになっていたタンクに接続する配管工事が予算の関係で延期され、運用が始まったのは2018年5月。7月26日にオープニングセレモニーを行うことができた。「ようやくここまできたかというのが実感です。新たに1万4650世帯に水を供給できるようになりました」と堅田さんはほっとした表情を見せる。

堅田さんのところには、すでにスリランカ国内からPCタンクの問い合わせが相次いでいる。「今回の事業には、外部人材として中部フォーラムから建設コンサルタントや開発マネジメントの専門家にも協力してもらいました。このつながりはとても力になりました」。

中部フォーラムでは今、スリランカにおける別の中小企業の技術・製品の導入やベトナムのリゾート地、ニャチャン市などでの上下水道で技術協力できないか検討もしているそうだ。「メンバーに声をかけていて、今後どう展開していくのかはまだわかりませんが、中部地域の水技術を海外で活かすハブになっていければと思っています」と語る山田さん。中部フォーラムから発信される地域の経験とメンバー企業の技術の広がりに期待したい。

(注)PC(プレストレストコンクリート)タンク。プレストレストコンクリートとは、あらかじめ圧縮力を与えたコンクリートのこと。強度・耐久性が増し、優れた部材となる。

岐阜県 安部日鋼工業 堅田茂昌さん

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堅田茂昌さん

事業の始まりは中部フォーラムがきっかけですが、JICA事業だからこそ、公的機関であるNWSDBとつながりを構築できました。社内的にもJICAの事業ということで理解を得られました。

JICA中部 都築美紀さん

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都築美紀さん

ものづくり中部の産・官・学が結集しています!

スリランカの事例

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