そして次のステージへ-三つの視点でJICAを語る

view1 技術協力と資金協力の一体化

近年、途上国のニーズや国内の社会情勢は大きく変化している。
新体制となったJICAがこの10年なにを考え、どのように歩んできたのかをふり返る。

ワンストップの支援で開発の成果をあげる

2008年に、国際協力銀行(JBIC)の海外経済協力業務と外務省の無償資金協力業務を継承して、新JICAが誕生した。これによって、政府開発援助(ODA)の三つの手法である技術協力、有償資金協力、無償資金協力をJICAが一元的に実施することになった。10年を経た今、どんな効果が表れているのか。

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新JICAの業務概要

一元化の効果が表れたミャンマーの経済特区

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中澤慶一郎 企画部長

技術協力、有償資金協力(円借款、海外投融資)、無償資金協力。これら政府開発援助(ODA)の3つの手法(スキーム)をJICAが一元的に実施することになって10年。その成果はさまざまな局面で表れている。企画部長の中澤慶一郎は、例としてミャンマーで2015年9月に開業したティラワ経済特区の成果を挙げる。特区内の工業団地の開発を手がけているのは、日本の商社や銀行が、ミャンマー政府や現地企業との共同出資によって立ち上げた「ミャンマー・ジャパン・ティラワ・デベロップメント社(MJTD)」だ。

JICAはこのMJTDに出資を行うとともに、ミャンマー最大の都市・ヤンゴンに至る数十キロの幹線道路の拡幅・整備やティラワの港湾ターミナル建設のための資金を円借款により支援した。加えて、会社登録から投資申請の認可まで企業活動に必要な行政サービスを一元的に行う「ワンストップサービスセンター」を特区内に整備するためのキャパシティ・ディベロップメント(組織的能力の構築)を技術協力で支援。センターの設立によって、投資認可を迅速に得ることが可能になった。中澤は、「工業団地開発や周辺インフラのための有償資金協力と、ワンストップサービスセンター設立のための技術協力を以前のように別々の機関が行うと、各組織による決定が必要となるため、調整に時間や手間がかかり、タイミングを合わせるのも容易ではなかったはずだ。すべてを一つの機関が実施したことで効率的に進めることができました」とふり返る。さらに、「JICAミャンマー事務所では、同じ担当者が技術協力も有償・無償の資金協力も手がけることになり、幅広いノウハウを習得し、全体を円滑に進めることが可能になります」と、ミャンマー事務所での自身の経験もふまえて一元化による効果を語った。

革新的な手法、技術支援も用いてポリオ撲滅に貢献

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ポリオに悩まされるパキスタン。学校で行われた、予防接種の啓発授業。日本人専門家も協力して、予防接種の必要性を子どもたちに伝える。

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ティラワ工業団地のワンストップサービスセンターの様子。企業活動に必要な各種の手続きを迅速に処理し、進出企業から好評を得ている。

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多くの企業が続々と入るミャンマーのティラワ工業団地。

組織統合以前はJBICに在籍し、長らく円借款業務を担当していた中澤。「円借款ではインフラを整備し、施設を建てることはできても、たとえば人材育成に直接関わる機会はほとんどありませんでした。相手国がお金を借りてまで人材育成のために外国人専門家を雇うことは少ないからです。でも今はJICAとして、技術指導を行う専門家を技術協力で派遣することによりインフラ整備と並行して人材育成を行うなど、途上国のニーズに応じて日本側が工夫する余地ができて、より大きな開発効果につながっていることを実感します」と話す。

さらに、一元化の効果として、パートナーシップによる革新的な手法まで含んだ取り組みを挙げる。JICAは技術協力でパキスタンにおけるポリオ撲滅のための取り組みを行ってきたが、それをさらに促進するにはより大規模な資金が必要となる。そこでパキスタン政府に対して、円借款で低利融資の貸し付けを行い、またその後、同じくポリオ撲滅に取り組んでいる「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」とも協力協定を結んだ。パキスタン政府が「ポリオ撲滅に向けた国家緊急行動計画」を着実に実施し、一定の成果を上げた場合、同財団が円借款の債務を肩代わりするという内容だ。円借款の資金支援と併せて、ポリオワクチン接種が定期予防接種の枠組みで適切に行われるよう技術協力を実施し、また重点的・追加的に対応すべき接種活動に対して無償資金協力も活用した。これらの取り組みにより、予防接種率の向上等の目標が達成され、パキスタン国民の健康状態の改善につながっている。

これも、技術協力のJICAだけ、あるいは有償資金協力のJBICだけではできなかった取り組みであり、この連携は、新JICAならではの成果だ。

「複数スキームの一元的実施の効果をよりいっそう発揮していくとともに、民間も含めた開発資金が適切に途上国の開発ニーズを満たしてゆく仕組みをつくることも、これからのJICAに求められる仕事です」と、中澤は今後を見据える。