革新的な技術の開発

SCENE2 企業との連携

長い年月、人間は、感染症に打ち勝つため日夜、研究を行ってきた。
新たなアプローチで技術開発を行う人びとを紹介する。

蚊が媒介する伝染病を塗料の技術で防ぐ

案件名:ザンビア共和国 感染症対策塗料普及促進事業(2017年9月~2020年2月)

ザンビアでは年間約550万人(人口の約33%)がマラリアに感染し、3,000人以上が亡くなっていると言われる。安心して暮らせる住環境を目指して、関西ペイントが防蚊塗料で立ち向かう。

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タイの小学校で行った防蚊塗料の試験塗装。塗装された教室には蚊が近寄らないため、子どもたちは昼寝の時間になると続々と集まる。

機能・保護・美化三拍子そろった防蚊塗料

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防蚊塗料の実証実験は最初は3地区、その後2地区増やして現在は400軒の民家で行われている。

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防蚊塗料を塗装したパネルに円錐形のカップを貼って蚊を中に閉じ込めるコーンテスト。蚊を塗面に強制接触させたのち、24~96時間後の蚊の致死率を調べる。

感染症の脅威にさらされている途上国の人々に、何か貢献したい-そんな信念のもと活動を続ける企業がある。それが国内大手の総合塗料会社、関西ペイントだ。同社は東南アジアやアフリカに関連会社を多く持つことから、つい先日まで元気にしていた現地関係者が感染症で命を落とす現状を目の当たりにしてのことだった。

そこで、同社は蚊が媒介して伝染するマラリアやデング熱、ジカ熱を防ぐために、蚊が嫌う有効成分を配合した屋内用の防蚊塗料「カンサイ・アンチモスキート・ペイント」(以下、AMP)を開発。2014年にマレーシアで発売を始めて、インドネシア、ミャンマー、カンボジア、タイ、シンガボールなどに販路を広げてきた。

一方、アフリカではJICAの民間技術普及促進事業(注)を活用して、2017年からザンビアで普及活動を進めている。ザンビア国内の五つの地区400軒の民家を対象に試験塗装と効果の実証を行ってきた。「これまでマラリアに2回感染したことがあるが、9か月前に家を塗装してからはかかっていない」「室内に20~30匹いた蚊が今は1~2匹に減った」と住民からも好評だ。

同社の塗料事業部で開発に関わる永野裕幸さんは次のように話す。

「塗料には蚊の神経系に作用して殺虫効果をもたらす成分を含みますが、人間を含むほとんどの哺乳類はその成分を分解、排出することができるため、安全性については問題ありません。また、住居の保護、室内の美化効果もありますので、心理的に気持ちも明るくなっていただけているようでした」

(注)民間技術普及促進事業:途上国における開発課題の解決を目指す日本企業を後押しする公募型事業。正式名称は「開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業」。

JICAとの連携で道が拓ける

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ASEAN諸国を越えて、アフリカでは、ザンビアに続き今後はウガンダでも販売予定の防蚊塗料。人体に悪影響はなく、住居や公共施設、商業施設などで安全に使用でき、効果は約2年続く。

現在も実証実験は続いているが、ザンビア環境管理庁はすでに成果が表れていることを受けてAMPを認証品に加え、2018年10月1日から販売も許可されるようになった。これは同社が目標としていた時期より半年も早かった。

「この成功は当社の力だけでは無理でした」と話すのは、普及活動を担当する忽那寿一さんだ。実はザンビアでの活動は2015年からスタートさせていた。しかし、塗料の力で蚊を撃退するという新しい発想に対して、ザンビアにはそれを検査するための基準がなく、評価方法を整備するのにも時間を要することから話が停滞してしまったそうだ。忽那さんはこう続ける。

「確かな製品だと説明しても、これは売る側の発言です。時間がかかってしまったのは致し方なかったと思います。ただ、JICAと一緒に活動を始めてから風向きが変わりました。JICAはザンビアの事情に精通していて、関係機関の方をよくご存知でした。各所に話を通していただいたことで、われわれに人的交流が増えたのはもちろん、ザンビア側も前向きな姿勢を示してくれるようになり、許可の取り方の道筋が見えてきました。その当時をよく知る前任担当者に聞くと、まさに〝霧が晴れた〟思いだったそうです」

現在、マラリア対策には防虫加工済みの蚊帳や殺虫剤噴霧などが広く使われている。今後はこれらに防蚊塗料も合わせることで、さらなる予防効果が見込めるようになるだろう。日本企業の技術力を活かした感染症対策は、JICAとともに大きな前進を果たしている。

蚊媒介感染症

【画像】病原体を保有する蚊に刺されることで起こる感染症。おもにマラリア、デング熱、ジカ熱などがあり、熱帯・亜熱帯地域で広く流行している。

関西ペイント

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忽那寿一さん(左)、永野裕幸さん(中央)。

コーポレート事業本部 忽那寿一(くつな・としかず)さん
塗料事業部 永野裕幸(ながの・ひろゆき)さん

2018年11月初旬にザンビアを訪れ、実証実験の調査を行った忽那さんと永野さん。現地でも注目されていてテレビや新聞などで取り上げられた。

ザンビア

【画像】国名:ザンビア共和国
首都:ルサカ
通貨:ザンビア・クワチャ(ZMW)
人口:1,659万人(2016年:世銀)
公用語:英語(公用語)、ベンバ語、ニャンジァ語、トンガ語

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ルサカ

南部アフリカに位置する内陸国で国土は日本の約2倍。マラリア好発地域として知られ、標高の高いところにある首都ルサカは地方と比べて感染率は低いものの、年間を通じて患者が発生している。