感染症を防ぐ公衆衛生

正しい知識や生活習慣を身につけることで、防ぐことができる感染症は多い。ミャンマーとベナンで、地域に入り、感染症の予防・治療に取り組んでいる人たちがいる。

ミャンマー 遠隔地コミュニティでの対策を重視

案件名:マラリア対策(排除)モデル構築プロジェクト 2016年3月~2020年3月

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ミャンマー

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サブヘルスセンターでマラリアの検査を実施。

JICAがミャンマーのバゴー地域でマラリア対策活動を開始した2005年当時、同国のマラリア患者・死亡数は東南アジア諸国の中でもきわめて多かった。それから10年、JICAの技術協力により同地域でのマラリア患者・死亡数は激減。その成果は国全体に広がり、患者・死亡数は、ともに問題にならないレベルにまで低減してきた。

しかし近年、メコン地域での薬剤耐性マラリアの発見と拡散が世界的な課題となり、2014年の東アジアサミットでは、2030年までにアジア大洋州からマラリアを排除することが目標として採択された。ミャンマーは国を挙げてマラリア排除に取り組むことになり、今回のプロジェクトがスタートした。

「西側国境地域では依然として発生が多く、2015年以後は、減少傾向も頭打ちです。つまり、これまでの公衆衛生活動によるマラリア対策が行き届いていない、村の集落を越えた植林地や山中の焼畑地域などの、遠隔地コミュニティでの排除活動が必要になっています」と語るのは、長年ミャンマーでマラリア対策を行ってきたJICA専門家の中村正聡さん。

ミャンマーに多い熱帯熱マラリアは急激に発症し、迅速な診断と治療の成否が生死を分ける。「医療サービスが届かない地域で重要な役割を果たすのが、遠隔地のコミュニティから選ばれたボランティアのコミュニティ・ヘルス・ワーカー(CHW)です」と中村さん。彼らは研修を経て、マラリア迅速診断テストを使った適切な診断・治療を行っている。「これまでに育成したCHWは600人以上。定期的に活動をモニタリングして元気づけ、知識や技術のブラッシュアップを行っています」。

現在は、マラリアの流行状況やリスク状況の見える化などでマラリア排除に向けて活動を続けている。今年はミャンマーの保健省と森林局が協力し、遠隔地でのマラリア排除活動も実践した。

「プロジェクトは後半に入り、CHWの活動強化とマラリア流行地への集中介入で、患者発生をさらに低いレベルに抑え込んでいます。しかし、マラリアを媒介するハマダラカはまだ生息していますし、国境地域では流行が継続しています。これからは患者発生の早期把握と流行の早期警戒システムの構築に力を入れていきます」

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森林局と連携し、遠隔地へアプローチする。移動手段はゾウ。

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調査で入った村の子どもたち。「この子たちをマラリアから守るためにも、プロジェクトを進めます」と中村さん。

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2005年からJICAプロジェクトが行われているBago地域でのマラリア患者、死亡数の変化。

ベナン 楽しい工夫で保健の知識を伝える

事業名:JICA海外協力隊(感染症・エイズ対策) 2017年7月~2019年7月

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ベナン

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水と衛生について、村で啓発活動を行う。

松岡由真さんは、2017年から西アフリカにある人口約1,000万人の国ベナンで活動するJICA海外協力隊員だ。配属先は地域保健局で、現地のNGOと協力しながら、地域の人たちに健康な暮らしに必要な知識を伝えている。なかでも重要なのが、下痢を引き起こす感染症やマラリアの予防法啓発活動だ。

医療や衛生の知識が十分ではなく、伝統医療に頼る人も多いベナン。そこで松岡さんはクイズや紙芝居を取り入れて活動している。「ハエから食物、人間へと菌が移動し、病気になる流れを紙芝居で説明するとわかりやすいですし、下痢予防や衛生環境の改善につながる正しい手洗いや、トイレの清潔な使い方も絵で伝えています。とくに手洗いは大切なので、必ず一緒に実践するようにしています」。楽しみながら保健知識が身につくように、健康や疾病予防に関する劇や歌、詩などを子どもたちが披露する保健発表会や、村対抗保健知識大会なども開催している。

しかし、啓発以前の問題にぶつかることも多い。街の中心部では比較的きれいな水が手に入るが、水道や井戸、電気もない地方では、水と衛生についての啓発活動をしても、そもそも手洗いに使うきれいな水が確保できない。「いくら啓発活動をしても、住民たちが生活のなかで実践できるかどうかは別問題なのだ、と痛感しています」と松岡さん。

そんな中、村対抗保健知識大会で1位をとった村で、各家庭を回り、特に衛生面の啓発活動を定期的に行ってくれている若い女性がいると知った。

「彼女は、『保健センターから遠いこの村では、病気になると適切な治療を受けられずに亡くなる人が多い。それを日頃の少しの注意で減らせるならやったほうがいいと思う』と話してくれました。私たちの活動をきっかけに、自分たちの村を少しでもよくしようと動いてくれる人がいたことがうれしかった」と言う松岡さん。人々が少しでも健康に暮らせるように、今日もベナンの人たちに語りかけている。

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井戸のない村で、村人が生活用の水を汲みに来る場所。

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小学校で手洗いの方法を教える松岡さん。