世界につながる教室1)世界の今は“自分ごと” SDGs×杉並区×ザンビア

世界と自分をつなげる開発教育や持続可能な開発目標(SDGs)にかかわる教育を全国各地で実践している先生たちを紹介する新連載。
今回は、2017年に教師海外研修でザンビアを訪れ、SDGsをツールに授業を行っている東京都杉並区立阿佐ヶ谷中学校の教諭・本間水月さんを取材しました。

SDGsをツールにザンビアと日本をつなげて考えることができました

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本間水月さん(社会科教員)

「帰国後、どんな授業ができるだろう?」

本間水月さんは、そんな期待と不安を抱いて参加した出発前の研修で、持続可能な開発目標(SDGs)とそれを通して物事を見る視点を学んだ。「SDGsは途上国だけの目標ではありません。この視点を授業に取り入れることで、身近な地域や日本のことも生徒に考えてもらえると思いました」。

杉並区とザンビアをどうつなげるのか

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学校栄養士さんが見せてくれた学校給食の食べ残し。

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リビングストンのスーパーマーケット。ほとんどが南アフリカからの輸入品。

そこで派遣前にあたる1学期に「地元・杉並区をSDGsを通して見る」授業を行った。はじめは「杉並区に問題なんてないよ」と言っていた生徒たちも、SDGsの17の目標を頭に置くと、食品ロスや待機児童、お祭りの後のごみ投棄など、実にさまざまな問題に気づいた。夏休み中、生徒たちはその課題をレポートにまとめる一方で、本間さんはザンビアへ。

ザンビアでは、都市部や農村地帯で、ヘルスセンター、学校などを視察。「SDGsが頭になかったら、ただ単に『途上国は問題がいっぱい』『日本とは違う文化』という程度の印象だったかもしれません。目の前にある事象をSDGsと関連づけて視察し、これならしっかり授業として組み立てられると感じました」。

2学期、夏休みの課題「SDGs×すぎなみ-私の視点-」のレポートを生徒が発表した後、本間さんは「SDGsを通してザンビアを見る」授業を実施した。

まず、9枚のザンビアの写真を見せて、写真がどのSDGs目標と関連しているかを生徒に考えさせた。ある写真では都心部の巨大なショッピングモールに豊富に商品が並ぶ。そのほとんどが南アフリカからの輸入だという本間さんの話に、生徒たちからは生産や流通の不平等や産業基盤の弱さなどを指摘する意見が出た。

続いて考えさせたのは、杉並区とザンビアの相違点だけでなく、類似点。SDGsをツールとして学習することで、「自分の生活をとらえ直すこと」「自分の生活と発展途上国のつながりを〝自分ごと〟としてとらえることができた」と本間さんは言う。生徒からは「どちらも自然が減少している」「なにかに頼らないと生きていけないのは同じ」など、予想以上にいろいろな意見が出てきた。

RESEARCH:SDGsを通して杉並区を見る

夏休みも使って、身近な地域の課題を区役所なども利用して現場調査。2学期にはグループでの全員発表の後、代表者発表会を開催した。

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杉並区の課題をグループで出し合う。

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2学期以降、学校司書の前田千草さんとの連携が本格化。さまざまなテーマの資料をSDGsに関連付けて紹介している。

LECTURE:SDGsを通してザンビアを見る

ザンビアの写真からSDGs課題を検討するほか、ザンビアも日本も他国なしには存続しえない、相互依存関係にあることを学習。2学期当初と一連の授業後で「国際協力」が身近なものへと変わった。

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ザンビアは銅の産出国だが、カッパーベルトで採鉱された銅は南アフリカに運ばれていく。

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相互依存神経衰弱ゲームで、多くのものがさまざまな国から来ていることを知る。

修学旅行にも取り入れたSDGsの視点

2018年度の修学旅行では、班ごとにテーマを決めてSDGsの視点で京都や奈良を歩く「もうひとつの修学旅行」を実施。視覚障害者のための「触って感じるミニ石庭」や、多言語表示のあるごみ箱やトイレなど、生徒たちはそれまでの修学旅行では注目しなかった「京都・奈良」をレポートした。問題点や工夫への気づきだけでなく、自分の立場からできることや政策レベルの提案をした生徒も多かった。

取材の際、3年生の女子生徒に「修学旅行でもまたSDGsか!と思いませんでしたか?」と尋ねると「2年生の時からSDGsを通して社会を見ることを続けてきたので当たり前な感じです。この視点を持ってから、今まで見過ごしてきた日常の不平等やさまざまなバリアに気づき、問題を掘り下げることができています」と答えが返ってきた。

新たな視点を得たのは生徒だけではない。「ザンビアでの学びは〝生きた教材〟になりました。私自身、貧しい途上国を支援することが国際協力だと思っていました。でも日本と世界は相互依存関係にあり、まず私たちになにができるのかを考えなければならないと、私も生徒も学びました。グローバルな視点を持ちながら自分ごととして地に足をつけてものごとをとらえる〝グローカル〟な視点が育っています」と語る本間さんの誇らしげな笑顔が心に残った。

SCHOOL EXCURSION:もうひとつの修学旅行

京都・奈良でもSDGsで見る。各自が選んだテーマをSDGsに関連づけて事前レポートを作成し、現場を視察。旅行後はそれぞれが発見したテーマ×SDGsをまとめて「写真で語る修学旅行」を作成した。

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台風被害やトイレのサインなども教材に。

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トイレのサイン。

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奈良でもテーマ探し。

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生徒たちがまとめた「写真で語る修学旅行」。