-経験を生かして、スーダンで活躍する-

想いをかたちに。それぞれの国際協力 スーダン

よりよい社会を築くため、現地の人々と直接ふれあう活動をする人もいれば、より広い視野で問題解決を図る人、縁の下で隊員を支える人もいる。
立場は違っても想いは同じ。スーダンの発展に向けて尽力する人々の姿を追った。

【隊員として活動中】音楽療法で障害者をサポート

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子どものころからの夢だった音楽療法士の夢を叶えアメリカで働いていた中束愛さん。現在はそのスキルを、障害者のケアに生かしている。

ゼロからの活動が、大きな変化に

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中束さんら障害者支援に携わる隊員たちは、体罰防止のためのワークショップを障害者のための教育施設で働く現地の職員に向けて開いている。活発な意見が飛び交う会議の様子。

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生徒はみんな音楽療法の時間が大好き。楽しみながら社会性や身体機能の維持、または向上を目指す。

簡素なつくりの6畳ほどのセラピールーム-ここはスーダンの首都ハルツームの特別支援学校だ。中束愛さんがキーボードで演奏を始めると、生徒たちが元気に歌い始めた。アメリカの「認定音楽療法士」の資格を持つ彼女は、障害者の心身の健康と発達の促進を目指して活動している。

楽器もセラピールームも赴任した当初は学校になかった。「初めはみな音楽療法のことは知りませんでした。まずは生徒や職員、保護者と信頼関係を築くことに専念し、徐々に理解を得ていきました」と、中束さんは話す。楽器をそろえるとすぐに音楽療法のセッションを開始し、保護者や同僚に見学してもらったり、音楽療法について説明した紙を配ったりと周囲に積極的に働きかけた。間もなく、その熱意にほだされた校長が、専用の部屋を用意してくれた。

任期後半を迎えた中束さんの活動は、大きな実を結びつつある。ある生徒は以前より情緒的に安定し、またある生徒は感情表現が豊かになった。変化を感じた保護者が直接感謝を伝えてくれたこともあった。同僚たちも、生徒の変化からはもちろんのこと、中束さんの真摯な姿勢からも得るものがあったようだ。「学校職員の一員としてチームワークを大事にしていることが評価されたのだと思います」と本人が言うように、音楽療法の時間外には同僚を手伝ったり、意見交換したり、相談し合ったりと、同僚と対等な立場で、助け合って活動を続けてきた。

充実した活動支えるプロ意識

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地元の音大生と一緒にキーボードを弾く中束さん。スーダン音楽とクラシックピアノをたがいに教え合っている。

就学時間が終わった後は、生徒一人一人の音楽療法の記録をつけたり、翌日の準備をしたりして過ごしている。また、ほかの隊員と一緒に、障害者のための教育施設での体罰防止に向けた取り組みも行っており、そのための会議や政府機関とのやり取り、資料の作成、情報収集などにも時間を充てる。活動中心の生活の余暇には、地元の音大生と楽器を演奏するが、「効果的な音楽療法を提供するため、音楽をどのように使うかはつねに考えています」と話すように、そこにも生徒たちが好きなスーダン音楽を学び、活動に生かそうという目的がある。高いプロ意識を持って活動する中束さん。任期を終えた後は大学院に進み、さらに専門性を高めていくつもりだという。

中束さんの後任の隊員も、音楽療法士に決まった。スーダンに蒔いた音楽の新たな可能性が、着実に根を張りつつある。

プロフィール

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中束 愛さん

障害児・者支援
中束 愛(なかつか・あい)さん
派遣期間:2017年1月~2019年5月

日本の大学を卒業後に渡米し、「認定音楽療法士」の資格を取得。アメリカの医療機関に約4年間勤務した後、JICA海外協力隊に参加する。スーダンでのアラビックネームは「アヤ」。

応募時を思い出してひと言!

同僚の声

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アマル・アブダッラさん

ダルアルハナン知的障害者協会 教員
アマル・アブダッラさん

アヤは学校に大きな変化をもたらしてくれました。音楽療法を受けた生徒たちは、集中力が増したり、ペンを握れるようになったり、情緒的に安定したりと、たくさんの良い変化を見せています。障害のある生徒たちを教えるのは大変なときもありますが、アヤはいつも私たちを気遣ってくれるので、職員みなが感謝しています。

【隊員経験を生かす】現場を知るからできる支援がある

「興味本位」で海外に飛び出してから十余年。元隊員の専門家は、彼の力を必要とする人々のために今日もスーダンで奔走する。

出会いが拓いた国際協力の道

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過去:自動車整備隊員としてイエメン、スーダンへ

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現在:職業訓練センターの訓練計画の実施支援

応募の理由は「正直に言えば興味本位」。友人から協力隊の話を聞き、「途上国で生活してみても楽しいかも」という軽い気持ちで自動車整備の隊員になりイエメンへ。だが、その経験が木村亮一さんの人生を大きく変えた。

与えられた目標は「職業訓練校教員の技術レベルの向上」。しかし、現地で待っていたのは、基礎教育の不足や省庁の機能の弱さなど、技術以前の問題の数々だった。木村さんは、だからこそできることはいくらでもあると発奮し、整理整頓に始まる基礎的なことから指導した。政情不安によって任期途中での退避を余儀なくされたが、続けてスーダンに派遣。当時をふり返り「なによりも出会った人たちの温かい人柄に惚れ込みました。気づけば『途上国の人々のために何ができるだろう』と考えるようになっていました」と、木村さんは話す。

その後、スーダン派遣時に出会ったコンサルタントの紹介でJICA専門家になり、アフリカでいくつかの技術協力プロジェクトに関わった。現在はスーダンの職業訓練センターを支援している。

「現場」と「管理」のギャップを埋める

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製図の指導を行う木村さん。「スーダン人は、のんびりしてはいるものの勉強熱心です」。

木村さんの仕事は訓練計画の実施支援だ。現場に張り付きだった頃と違い、計画立案や生徒を受け入れるための態勢づくりを行うなど管理能力が求められる。しかし意外にも協力隊時代の経験が役に立っているという。「現場は何か問題があれば組織や政府のせいとして問題をすり替えがち。しかし、政府は政府なりに資金や人材が不足する中で努力していることを知った今は、問題の見え方が違います。現場の事情をよく理解していなければ、解決の緒をつかむことも難しかったと思います」と話す。

「職業訓練で新しいことをできるようになった人の笑顔はなにものにも代えがたい」。そう話す表情が、木村さんの国際協力の原点を物語っていた。

プロフィール

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木村亮一さん

木村亮一(きむら・りょういち)さん
派遣期間:2008年3月~2010年1月(イエメン)、2010年9月~2011年8月(スーダン)

自動車整備の専門学校を卒業後、一般企業で約5年間勤務。退職後、自動車整備隊員としてイエメン、スーダンに赴任。その間に知り合った民間企業の紹介でJICA専門家になる。

応募時を思い出してひと言!

【隊員をサポート】隊員の活動を全力でサポート!

健康や安全、不測の事態への備えや心理的なサポートまで、隊員の活動を陰で支える現地スタッフをクローズアップ。

協力隊の〝協力者〟として

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中束さんの赴任先の学校で、来期の派遣について話し合う尾田さんと校長先生。

協力隊の活動の管理や、安全対策、困ったときの相談役など、幅広く隊員を支えるのが、調整員(注)と呼ばれる現地のスタッフ。スーダン事務所の北山敏之さん、尾田直美さんもまた、協力隊の経験者だ。

「自分がやってもらってうれしかったことを、今の隊員にもしてあげたい」と話すのは、昨年から現職に就いた尾田さん。隊員としてチュニジアに赴任した当初、自分の仕事を見いだせなかった尾田さんを「焦らなくてもいい。あなたにしかできないことが必ず見つかる」と、調整員が元気づけてくれた。異国の地で活動する隊員たちは悩みや不安を抱えやすい状況にある。尾田さんはそのことをよく理解しているからこそ、彼らがいざという時に相談しやすいよう、日頃から密なコミュニケーションを心がけているという。

しかし、どのような活動で任地の要望に応えていくのかは、あくまで隊員自身が決める。「彼らがやりたいこと、考えていることは決して否定しません。その上で、活動を模索している隊員には『こんな考え方もあるよ』と過去の成功事例を伝えることもあります。隊員が対話する中で問題解決のきっかけをつかんでくれればうれしいですね」と北山さんは言う。

(注)調整員:「調整員」は通称で、正式名称は「企画調査員(ボランティア事業)」。

安全な活動への取り組み

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配属先から中束さんの活動ぶりへの好意的なコメントを伝える尾田さん。隊員のモチベーション維持にも気を配る。

活動の成功よりも大事なこと、それは隊員一人一人の命を守ることだ。スーダンはアフリカ諸国の中でも比較的治安がよいが、安全対策には気を抜かない。「隊員に教育的な指導を行うだけでなく、つねに政情などの最新の情報にアンテナを張り、有事の際に隊員を安全に帰国させるためのシミュレーションを行うなど不測の事態に備えています。隊員が無事に任期を終えて帰国する時は正直ホッとします」と北山さんは話す。

「隊員の成長に立ち会えることはこの仕事の醍醐味」と話してくれた二人。隊員たちが最大限の力を発揮できるよう、サポートを続けていく。

プロフィール

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左から北山敏之さん、尾田直美さん、Inas Kamal M. Ramliさん

北山敏之(きたやま・としゆき)さん
元ハンガリー合気道隊員。帰国後、民間企業や協力隊事務局などに勤務。2002年より調整員。これまでにハンガリー、ナミビア、ケニアで勤務する。

尾田直美(おだ・なおみ)さん
ファッション業界で約7年間仕事をした後、服飾デザインの協力隊員としてチュニジアに赴任。2017年よりスーダン事務所に所属して調整員を務める。

Inas Kamal M. Ramli(イナス・カマル・M・ラムリ)さん
スーダン事務所の現地採用スタッフ。隊員の住居探しのサポートや通訳のほか、現地の人にしかわからない慣習を教えてくれるなど、隊員にとって身近な存在。

スーダン

【画像】国名:スーダン共和国
首都:ハルツーム
通貨:スーダン・ポンド(SDG)
人口:4,053万人(2017年、世銀統計)
公用語:アラビア語、英語

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ハルツーム

アフリカで3番目に大きい国で、日本の約5倍の国土面積を持つ。古くからアフリカと地中海、中東との交点の役割を担い、他民族の侵入や王朝の勃興、キリスト教、イスラム教の伝播など、幾多の変遷を経てきた。200を超える民族が混在する、多様性豊かな国。