JICA海外協力隊の派遣前訓練をレポート!

世界に羽ばたく日に向けて 長野県駒ケ根市、福島県二本松市

海外協力隊の選考に合格した隊員候補者(以下、候補者)が、派遣国で存分に力を発揮し安全に活動するために必要な知識や技能を学ぶ場所、それが駒ヶ根訓練所と二本松訓練所だ。

写真:光石達哉、埒 由起子
文:光石達哉、編集部

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駒ケ根訓練所近くの農家で、所外活動の農作業をする候補者たち。

訓練所の朝は早い。6時半には朝の集いがあり、8時45分から語学訓練が始まる。午後も語学訓練に加えさまざまな講座があり、夕食後の自由時間は語学の自習や候補者たちが企画した自主講座で学びを深める。消灯は23時。学生時代よりも勉強しているのではないだろうか。

そんな訓練が青年海外協力隊、日系社会青年海外協力隊の候補者には70日間、シニア海外協力隊、日系社会シニア海外協力隊の候補者には35日間行われる。

語学を中心にさまざまな知識と技能を学ぶ

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二本松訓練所でのエスタ先生(右から2番目)によるスワヒリ語の講座。

訓練所があるのは、長野県駒ヶ根市と福島県二本松市。派遣国に応じて訓練所が決められる。

訓練時間の3分の2は語学に充てられ、派遣先で必要な言語を学ぶ。フランス語、中国語、スペイン語くらいなら学んだ経験があるかもしれないが、スワヒリ語やアラビア語、ウズベク語などには苦戦している候補者も多いそうだ。しかし、みんな派遣後の活動に思いを馳せながら日夜、勉強に励んでいる。

学ぶのは語学だけではない。派遣先で必要なコミュニケーションやプレゼンテーションのスキル、情報収集などの調査手法を地域で実践的に学んでいる。今年度から新たに開始した「地域実践講座」では、駒ヶ根市内の地域おこし協力隊と共に商店街の活性化を支援したり、二本松の近くの岳温泉でお店のメニュー開発や旅館の手伝いをしたり…。地域のニーズを汲み上げて、それを具体的な形にする活動は、そのまま赴任先で役立つ。

また訓練所開設当初から続く「所外活動」では、各候補者が自分の専門分野とは異なる場所に赴き、受け入れ先のニーズに応じた活動を経験する。たとえば教師として派遣される候補者が、農家の手伝いに行く。短い時間ではあるものの初めての経験に視野が広がり、対応力も高まる。

ほかに健康管理や安全管理、派遣国事情、異文化適応などの講座があり、派遣先を想定していろいろな角度から必要な知識を身につけていく。

今回は、駒ヶ根訓練所の地域実践講座と二本松訓練所のフィールドワーク講座を取材した。この数年、どちらの訓練所も地域とのつながりを大切にし、地域での具体的な活動が派遣先での活動に向けた実践的な経験になると考え、力を入れている。実際にどんな活動を行い、どんな力が養われているのかを紹介しよう。

【駒ヶ根訓練所】地域に入る力を培う 地域実践講座

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長野県 駒ヶ根市

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1979年に開所した駒ヶ根訓練所。現在は、年4回(1次隊から4次隊まで)候補者が入所し訓練を行っている。

2018年4月から始まった「地域実践講座」。派遣後、即戦力として活動できるように、街に出て市民にインタビューして課題を見つけ、改善策を提案する実践的な訓練だ。駒ケ根訓練所で10月から訓練を受けている候補者111人は、分野が異なる10の団体に分かれて、9日間36コマにわたり活動している。

そのひとつ、赤穂公民館では4人1組の3チームが公民館で開催する市民向け講座の内容を提案した。以前の候補者からも、落語と季節の食事を合わせた講座、防災関係の講座などユニークな提案があったといい、館長の小松民敏さんは「候補者の感性がすばらしくて、個性を生かした課題のとらえ方が参考になりました」と評価する。提案の中から採用された講座は、2019年度に公民館で実施される。候補者の東(あづま)雅史さんは「私はパプアニューギニアで住民に感染症予防の啓発活動をする予定です。今回の活動では住民から想像していないような意見が出ることもあり、もっと準備して臨んだほうがいいのかなと勉強になりました」と語っていた。

ひきこもりや一人親家庭の子どもたちに勉強の場を提供する「つなぐ♡HUB」では、地元ボランティアと一緒に6人の候補者が子どもたちと接していた。そのひとり、窪田洋子さんは「ここで働いている人たちはパワフルで話していると元気がもらえる。私もあんなふうに現地で活動できたらいいなと思います」と刺激を得ていた。

駒ケ根訓練所の所長、清水勉さんは「候補者は自分たちが支援するつもりが、逆に子どもたちに勇気づけられたという話をしていました。これは、協力隊員が派遣国で感じることとまったく同じ。それに気づけただけでも、この講座の価値はあると思います」と、地域住民と接する意義を話していた。

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赤穂公民館で住民にインタビューを行い、講座の内容の希望を探る。派遣後にも生かされる活動だ。

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インタビューした内容をもとにどのような提案を行うか、チームで話し合う。

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子どもたちにマンツーマンで勉強を教える活動。地域の人たちとのコミュニケーション力を養う。

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子どもたちにマンツーマンで勉強を教える活動。地域の人たちとのコミュニケーション力を養う。

駒ヶ根訓練所 所長 清水 勉さん

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清水 勉さん

「協力隊としての2年間、目の前のことに誠実に取り組んでもらいたい。その中でしか見えないことがきっとあると思います。候補者のみなさんの人生が豊かになり、周りの人を幸せにできることを願っています!」

窪田洋子さん(グアテマラ、栄養士)

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窪田洋子さん

「栄養士として地域に密着して活動するので、協力活動はとてもよい経験になります。」

応募時を思い出してひと言!

東雅史さん(パプアニューギニア、感染症・エイズ対策)

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東雅史さん

「感染症・エイズ対策隊員としてマラリアやエイズの予防の知識を伝える活動をします。」

応募時を思い出してひと言!

【二本松訓練所】情報発信の力を育む フィールドワーク講座

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福島県 二本松市

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1994年に開所した二本松訓練所。20代から70代まで多様なバックグラウンドを持つ候補者が集まる。

二本松訓練所で2年前から取り組んでいる「フィールドワーク講座」。その意義について、所長の洲崎さんはこう語る。「訓練所に近い岳温泉では、地域活性化のお手伝いをさせていただいています。フィールドワークでは候補者に二本松市をもっと知ってもらい、その情報の発信の仕方を考えてもらいます。派遣国では必要な情報を得て、活動内容を広報しなければならないことは多い。きっと役に立つと思います」。

この日は候補者100名以上が8つの班に分かれ、二本松城跡、地元の老舗和菓子屋、酒蔵、上川崎和紙工房などを訪れ、その魅力をビデオやカメラを使って取材。後日、その動画や写真を使い、PRビデオとポスターを完成させる。今回は二本松市の観光課から制作物を活用したいという具体的なリクエストがあり、候補者たちもとても力が入っていた。中には、取材する場所やお店を休みの日に下見に訪れ、どこでどんな撮影をするのかきちんと準備してきている人たちもいた。この講座が派遣国での活動のモデルになることを理解しているので、取り組み方も真剣だ。

フィールドワーク委員として、この講座をまとめてきた山本さくらさんはこう語る。「地元の人たちがとてもやさしくて、いろいろ教えてくれるので、二本松の人たちのために自分ができることを精一杯やろうという気持ちにみんななっています。それはきっと、私が隊員としてタイに行っても同じではないかと思っています。地域の人たちとコミュニケーションを取りながら、〝よそもの〟としてなにができるかを考えていきたいですね」。

地域の中に入り、情報を整理し、外に向けて的確に発信していくフィールドワーク講座は、二本松での特徴ある訓練となっている。

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「二本松の菊人形」をPRする菊むすめの取材をする候補者たち。

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「次はどこを取材する?」

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フィールドワーク開始前には二本松市の観光協会の人も訪れ、激励の言葉をかけていた。

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城跡内にある「洗心亭」で抹茶を供している婦人会の方を取材。地元の中学生が描いた屏風について話を聞く。

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集合のシーンは、PRビデオのラストを飾るかもしれない。

二本松訓練所 所長 洲崎毅浩さん

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洲崎毅浩さん

「派遣前訓練でさまざまな技能を培い、強い使命感を持って派遣国で経験を積み、協力隊員たちは"フロンティア人材"として戻ってきます。こうした人材こそが、これからの日本と世界に必要となりますよ!」

山本さくらさん(タイ、青少年活動)

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山本さくらさん

「タイでは、人身取引被害者保護センターで活動します。」

応募時を思い出してひと言!

訓練所で学ぶこと

語学訓練

【画像】訓練の約6割を占めるのは語学。1クラスは4人から6人と少人数。話すことに重点を置いた実践的な訓練が行われる。

安全管理

【画像】テロなどを想定した安全管理の訓練も必須。武装勢力に襲われた場合の対処法を学ぶ訓練には緊張感がある。

所外活動

【画像】地域に出て、自分の専門とは異なる分野で活動を行い、見聞を広める。写真は、障害者施設「西駒郷」でミシン作業を手伝う候補者。

国際理解

【画像】派遣国研究や異文化適応などの授業もある。写真は世界の富の不平等を学ぶ貿易ゲームの様子。