ビジネスが変わる

国の未来を担う金の卵が続々誕生! ルワンダ

ICT立国として生まれ変わりつつあるルワンダ。
国、そしてアフリカ全土の発展のためには新進気鋭のICT起業家の台頭が望まれており、その育成のためのプロジェクトが今まさに動き出している。

文・写真:光石達哉

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卒業式兼ピッチングと呼ばれる投資家向けのプレゼンテーションの模様。

アフリカでいちばんのICT大国を目指して

ICT起業家が切り開くアフリカの未来

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卒業式にはマスコミを含め、ルワンダ国内外から約200人の関係者が訪れた。会場の外でも起業家と投資家らが議論を交わす姿が見られた。

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宮下孝之駐ルワンダ大使から卒業証書が手渡された。8社のうち、2019年1月には5社が日本を、3社がケニアを訪れ、投資家との面談を行った。

2018年12月、首都キガリ市内の高級ホテルの大広間で、19歳~30代前半の若きルワンダ人起業家8組が、新たなICT(情報通信技術)ビジネスについて熱くプレゼンテーションをしていた。これは、JICAが同国のICTセクターと起業環境を強化するために2017年11月にスタートさせたプロジェクトの一環である「250スタートアップ」プログラムの卒業式だ。会場では投資家などのビジネス関係者、ルワンダICTイノベーション省次官など政府関係者、約200人が熱心に耳を傾けていた。

ビジネスの内容は、生産者と消費者を直接結び付ける物流サービスアプリ、水道管の水漏れを検知してその場所を特定するアプリ、農協間の情報共有のペーパーレス化を図るシステムなど、ルワンダの抱える社会課題をICTで解決しようとするもの。来場者からは「どのような人をターゲットにしているのか?」「どうしてこのビジネスを思いついたのか?」など、活発な質問が飛んだ。

同プログラムには2018年3月に28社のスタートアップ企業から申し込みがあり、そこから選考された8社が同年6月から約半年間、1期生としてインキュベーション(新規事業の育成)と呼ばれる支援をJICA専門家などから受けた。内容は法務、財務・会計、マーケティングなどの経営ノウハウだ。

イマニ・ボラさんもそこで学んだひとりで、国内で消費される鶏肉の多くが輸入に依存している現状を改善しようと、ルワンダ国内の鶏肉の生産性向上のため、アプリで管理可能な鶏卵のふ化器を開発。プレゼンテーションで注目を集めた。

「このプログラムでは予算・事業計画の立て方など、ビジネスを持続可能なものにするためのさまざまなスキルを学びました。また、顧客である農家と直接話し、彼らのニーズに合った製品を作ることも大切だとわかりました」

プロジェクトを統括する専門家の山中敦之さんは、「このプログラムはわれわれが250の会社を作るのではなく、効率的にビジネスを育てる仕組みを国内に作る実験の場のようなものです。そしてこの卒業式は、ルワンダ内外から協力者を募るためのお披露目会の意図もありました。私はプレゼンを見守る人たちの様子も見ていましたが、『これはビジネスとして行けそうだ』という顔をしている人が多かったと思います」と手応えを語る。

今後の展望としては、ルワンダ政府やICTを推進する関係機関、民間企業などが、JICAに頼ることなくスタートアップ企業をサポートする態勢を作っていくことが重要だ。また、ルワンダのみならず、他のアフリカ諸国への展開も視野に入れている。

250スタートアップとは

直接的な資金援助は行わず、法務、財務・会計、事業計画、マーケティング、機材など起業家が事業の拡張に専念できる環境、支援を提供し、企業として持続可能な組織作りを目指すプログラム。また、国際会議等での投資家とのマッチングの機会の提供も行う。JICAがICT商工会議所と協力して作ったもので、「250」はルワンダの国際電話の国別コードを表すと同時に、2025~2026年までに最低250社の優秀なスタートアップ企業を育てたいという思いが込められている。

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「250スタートアップ」のコンセプト図。

企業名 ハッチプラス

鶏卵のモニタリングと遠隔操作をスマートフォンなどでできる自動ふ化器を開発。代表のイマニ・ボラさんは24歳で、トゥンバ技術高等専門学校の講師も務める。

「ルワンダは鶏肉や卵の約80%を輸入に頼っており、価格も高い。その課題を知り、自分にできることはないかと思って開発しました」。

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イマニ・ボラさん

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自動ふ化器。大きいものだと一度に3,000個の卵を管理できる。「2年をかけて6度目のテストでようやく完成しました。ここまで長い旅でした」とボラさん。

企業名 アクア

水道管に小型センサーを設置し、水漏れがあった場合はその場所を特定してスマホアプリに通知する水道事業者向けのシステムを開発。

「使った水の量もセンサーで管理できるので、料金支払いの電子化にも対応します」と、共同設立者のケネス・ムウェベサさん。

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ケネス・ムウェベサさん

ICT立国を目指すルワンダの強い決意

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キガリ市内に建つテレコムハウス。Kラボ、ファブラボ、ICT商工会議所、ルワンダ情報化振興局、JICAプロジェクトオフィスなどICT関連の機関・施設が入っていて、ルワンダICT産業の中核を担っている。

ルワンダは1994年に起きた内戦で経済にも大打撃を受けた。しかし、そこから25年で「アフリカの奇跡」と呼ばれるほどの急成長を遂げている。その根幹のひとつがICT産業だ。

1990年代末、世界的なITバブルの中で国連や先進国がICTによる途上国の開発をサポートする中、ルワンダもICTを国家開発のカギと位置づけ、2001~2020年の5年4期で国家ICT戦略計画を立案・実施することを決定した。

しかし2000年代初期、ITバブルがはじけて国際社会の支援が足踏み状態になると、多くの途上国がICTによる開発を中止せざるをえなくなった。それでも、ルワンダだけは違ったと山中さんは言う。

「国土が四国の約1.5倍しかないルワンダはもともと資源が少なく、農業生産も限界があり、一貫してICTで国を開発するんだという強い意志がありました。国際社会に頼らず国の予算だけで光ファイバー網を整備したりと、自力で開発を続けた世界的にも珍しい国です。その結果、アフリカにおけるICT立国という名声を確立してきました」

その中で、新たに手を差し伸べたのが日本だった。ルワンダ内戦以降はODAをストップしていた日本だったが、2005年にJICAルワンダ事務所を再開し、2007年からはICT技術者などを養成するトゥンバ高等技術専門学校のカリキュラム整備の協力を始めた。

2010年からは山中さんが専門家として派遣され、ルワンダのICT戦略策定や人材育成を支援。ICT民間企業の組合である「ICT商工会議所」や、若手起業家の育成を支援する施設「Kラボ」や「ファブラボ」の設立に力を注いだほか、ABEイニシアティブ(注)の一環で、日本の大学における修士課程履修や日本企業におけるインターンシップ実習のためにルワンダの若者を訪日させる橋渡しもした。

(注)ABEイニシアティブ:アフリカ諸国の優秀な若手人材を社会人留学生として受け入れ、修士課程教育と日本企業でのインターンシップの機会を提供する制度。「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ『修士課程およびインターンシッププログラム』」。

K-Lab

2012年設立、Kは「knowledge=知識」の頭文字。若手起業家などの育成を支援するイノベーションセンターで、すでに250社以上の起業実績がある。起業家同士の情報交換、ミーティングやワークショップのスペースとして活用される。

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K-Lab

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ITを学ぶフリースペース。

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登録すれば無料でインターネット回線が利用でき、多くの若者が情報収集や学習に活用している。

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壁に貼り付けられた無数の名刺。連絡先を共有して、ビジネス上の人とのつながりを強化するためだ。

FABLAB

2016年設立、Fabは「fabrication=製作」の略。もともとのコンセプトは、マサチューセッツ工科大学のニール・ガーシェンフェルド教授が提唱したモノ作りのためのスペースで、世界中で設立されている。3Dプリンター、NC(数値制御)工作機器、レーザーカッターなどの工作機械を駆使して“ほぼあらゆるもの”の製作が可能だ。

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FABLAB

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アイデアを形にする工作スペース。

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3Dプリンター、レーザーカッターなどが並ぶ。

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ICTビジネスのために必要なデバイスも気軽に試作できる。

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ファブラボの工作機械を使って模型飛行機を製作した若い男性。飛行距離は4kmに達するそうで、今後コンテストでその性能を披露するという。

日本で学んだことをルワンダで共有したい

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キガリの中心街には高層ビルが年々増えている。街は清潔でごみひとつなく、治安もよいため、観光客や国外のビジネスマンにとっても魅力的。

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2016年に完成したルワンダ発展の象徴でもある「キガリ・コンベンションセンター」。ドーム型の屋根は、夜はルワンダ国旗や来賓の国旗の色に合わせてライトアップされる。

現在、ルワンダのICT業界で活躍する若者の中には、ABEイニシアティブのもと日本で学んだ元留学生も少なくない。

多くのルワンダ人留学生を受け入れる神戸情報大学院大学では神戸市との協力により草の根技術協力事業「キガリを中心とした若手ICT人材育成事業」を実施。同大学学長の炭谷俊樹さんが提唱する〝探求メソッド〟と呼ばれる問題解決手法を教えている。探求メソッドとは、社会で何が求められているかを察知し、課題に対する解決策を主体的に立案・行動するという手法を研究する学問だ。

キガリのソフトウェア開発会社「ワイヤードイン」で働きながら、探求メソッドを教えるイヴス・キュゾゾさんは「日本に残って働きたいとも考えたけど、やはり国に帰って日本で学んだスキルを伝え、この国に貢献したいという思いが強かった」と語る。

山中さんは、こう付け加える。

「ルワンダの人たちは、自国のために何かをしたいという意識が高い。内線後、国内に戻ってきた人も多く、よく話に上るのは聖書の一読にたとえて『自分たちはこの国の神話を作っているんだ』ということ。『僕らはジェノサイドのような悲劇を二度とくり返さない。ルワンダは変わるんだ』という強い気持ちで、目標を高く持って取り組んでいます」

ルワンダは地理的にはアフリカ大陸のほぼ中心にあり、英語、フランス語の両方を話せる人が多い。それゆえ、山中さんは今後ルワンダからアフリカ全土にICTイノベーションが広まっていくと予想する。

「アフリカ諸国にはまだ課題がたくさんあり、ICTを活用した開発が必要とされる分野も多い。だからこそ、ルワンダに来れば最新の情報が手に入るし、コネクションができる-そんなアフリカのイノベーションの中心地になるように、私たちも頑張っていきたいです」

ICTイノベーションエコシステム強化プロジェクト専門家

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山中敦之さん

山中敦之(やまなか・あつし)さん

「2019年8月には、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が横浜で開催されます。そこではルワンダのICTイノベーションで得られた知見を紹介するとともに、民間レベルでの日本とルワンダの関係強化も図る予定ですので、ぜひ注目してください」

ルワンダ

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キガリ

国名:ルワンダ共和国
首都:キガリ

アフリカ大陸の赤道近くに位置する内陸国。2000年に就任したポール・カガメ大統領のリーダーシップのもとクリーンな政治や治安対策に力を入れ、ICT産業の成長などで「アフリカの奇跡」と呼ばれる経済復興を遂げている。