暮らしが変わる
太陽光パネルを使った小型電動ポンプシステムを用いて、井戸から自動で水を汲み上げる。
女性や子どもの仕事とされる水汲み労働の軽減のみならず農家の生産性の向上もかなえしようとしている。
文:松井健太郎
日々使う生活用水や農業用水を井戸水でまかなっているセネガル・ルーガ州の農村部。生活用水の汲み上げは女性や子どもの仕事とされ、その力仕事が大きな負担になっている。そのような状況を知った日本の大手ポンプメーカー「テラル」は、自社の製品で労働軽減に貢献しようと、JICAと連携して2017年5月から約1年間かけて調査を進めてきた。
現地を訪れた同社調査団は、給水施設が整っていない26か所の集落の手汲み井戸を調査し、井戸の深さや大きさ、地下水の湧き出る量(湧水量)、井戸と集落の距離や高低差、使用目的などを丹念に調べて回った。2回目に訪れた際には、集落が非電化地域という実情に合わせて、太陽光パネルで動くように改良した電動ポンプ2機をデモンストレーション用に持ち込んだ。曇った日や夜に備えて、水を溜めておくタンク(受水槽)も設置した。
「太陽光発電でポンプを動かし井戸から水を汲み上げます。それがタンクの蛇口から出てきたときの集落の人の驚いた顔が忘れられません。蛇口を初めて見る子もいて『すごい』と。みなさんが喜びの舞いを踊ってくれました。うれしかったですね」と話すのは調査団の皆米重巳さん。
現地の土壌は砂の粒子が細かいことから、事業の途中には、水と一緒に砂を汲み上げないような対策も行った。簡単に設置できることや、直流方式のポンプはシステムがシンプルになり価格が安く、多機能な制御装置のおかげで耐久性に優れていることも喜ばれた。
集落では生活用水の井戸は手汲みでも、農業用水の井戸には他国製のエンジンポンプを使ったことがあった。ただし、購入後半年も経たずに壊れたり、メンテナンス費やガソリン代が高くつくことから放置していたという。一方で「テラル」のポンプは一度設置すれば稼働のための電気代や燃料代がかからない。ある集落では、住民が畑の散水にもデモ機のポンプを活用し、3か月後には作付面積が約3倍に広がっていた。今回の調査は生活用水の整備を目的としていたが、農業用水としてのニーズがあることもわかった。
きちんと稼働するポンプがあれば、もっと畑を広げられる─そう確信した調査団は、調査終了後も新たな活動の必要性を感じてJICAに相談。JICAにとってもセネガルの小規模農家の所得向上は重要な課題であることから、ビジネスの事業化に向けた普及・実証事業として採択された。
女性や子どもの水汲み労働軽減の観点では、今後、汲み上げた生活用水の運搬方法の改良にも取り組む。井戸と炊事場との距離や高低差、複数の集落で一つの井戸を共用している場合はどうするかなど、さまざまなパターンを想定し、ポンプを含めた給水システム(ポンプ、太陽光パネル、受水槽)をどの場所にも手軽に設置できるよう一つのユニットとして製作する準備が進められている。
「基本的にはポンプで汲み上げて炊事場近くのタンクに送水するのですが、集落までの高低差がある場合は、溜めた水をもう1台のポンプを使って高い場所に運ぶパターンも考えています。ユニットの設置場所はわれわれの測量結果をもとに決めますが、井戸から集落までの配管工事は、水道事業を管轄するルーガ州の自治体が担当します。また万一のトラブルに備えて現地の技術者の訓練もお手伝いさせていただくつもりです」
活動中はJICAが周辺の自治体にも声をかけて稼働設備を視察し、導入を検討してもらう予定でいる。電動ポンプに太陽光パネルを組み合わせた新しい発想が、より多くの集落に豊かな暮らしをもたらそうとしている。
1918年創業のポンプ、送風機に特化した国内の大手メーカー。ソーラーポンプシステムをはじめとする家庭用ポンプを、アフリカを中心とする開発途上国で展開しようと努めている。セネガルでは皆米さんを含む3人のスタッフが現地に入って活動を行っている。
国名:セネガル共和国
首都:ダカール
誰もが等しく水の供給を得られる社会を目指すセネガルでは、人口密度の低い農村地域での効率的な給水が政策課題となっている。また、灌漑設備を備えた農場の割合も全体の1.3%にとどまっており、農村部の生活向上のためにもインフラ整備の充実が求められている。JICAは経済発展のための基盤整備や第1次産業の振興などの協力を行っている。