予防
家庭や公共施設にトイレの普及を進めるも、下水道設備の遅れがネックとなっているインド。
そこで、汚水を流さない環境配慮型トイレが注目されている。
野外排泄が多い同国において、女性が性的暴力に遭うリスクを減らすとともに、新たな雇用を生む取り組みとしても期待されている。
インドは今でも、人口の約半数が野原ややぶなど野外で排泄をしているという。2011年の国勢調査によると、戸別トイレの普及率は46.9パーセント、野外排泄人口は5.9億人と世界最多である。〝トイレは不浄で遠ざけるもの〟という古来の考え方もその背景にあると言われ、住宅の敷地内に設置されないことも多い。
野外排泄は女性にとって危険を伴い、用を足すときに性的暴力事件に巻き込まれることが少なくない。そのため自己防衛として、近所の女性で集まって人目の少ない夜明け前に集落の外で排泄している例も多いという。排泄を1日1回しか行わないことも心身のストレスになっている。インド政府はトイレの設置と、人々がトイレを使用するよう啓発活動に取り組んでいるものの、それと同時に、汚水処理設備が十分でない地域ではトイレの汚水が地下水に浸み込んだり、大雨で汚物があふれ出るという問題を引き起こしている。
そこで注目されているのが、JICAの協力のもとに「大成工業」が提案する環境配慮型トイレだ。トイレからの汚水を敷地内で処理する自然浄化式汚水処理システム(TSS:Taisei Soil System)を用いている。
「TSSとは日本古来の農業設備である〝肥だめ〟と〝畑〟の働きをひとつにまとめたようなものです。自然発酵熱を使って汚水の殺菌を行いながら汚泥と処理水に分け、次に処理水を土壌の濾過機能と微生物の働きを利用して浄化する仕組みを持っています」と同社の三原博之さんは解説する。
日本では1983年から公園や山岳地などのトイレ約450か所に設置されてきた実績があり、2014年には環境省のモデル事業として南太平洋の島しょ国、ソロモン諸島にも2基導入されている。
「維持管理はトイレ脇の土壌処理施設を目視で点検して、たまに土を耕すことと、貯留槽の水位に異常がないかを確認することぐらいです。埼玉県の秋ヶ瀬公園に設置したものは、17~18年もの間汲み取り作業を行っていません。稼働に電気が必要ないことも特長です」
現在、インド北部ウッタルプラデシュ州の公衆トイレと、大学の学生寮でTSSの設置が進められている。2019年4月から効果を実証するための実験がスタートする。
公衆トイレは、現地のNGOが有料化して運営を行い、料金徴収や清掃作業などの維持・管理に女性を雇用することを計画している。汚水処理が整っている清潔なトイレなら労働環境もよい。また、女性利用者にとってもトイレに同性の管理者がいることで安心して利用することができる。一方、大学は学生寮の汚水処理を学生たちの衛生教育に役立てようとしている。
「将来的にはトイレを管理する女性たちが、近隣に住む住民に対して衛生面の啓発活動なども行うようになることを願っています」
三原さんは、環境配慮型トイレがインドの生活環境の向上のみならず、女性が自立する手助けになることを胸に描いて活動を続けている。
(注)TSSの心臓部と言えるのが「タフガード」。処理水を土壌に拡散する機能を持ち、本体は土壌の中でも腐食しにくく半永久的に使用できる。
1965年創業の大成工業は、管工事業、水道施設事業、浄化槽の販売・施工・維持管理などを行う。三原さんは、「この事業はTSS設置時の水質調査などに『日本環境衛生センター』、コンサルティングに『オリジナル設計』と『イースクエア』、それに地元米子市の協力も得て進めています。皆さんやJICAの期待に応えられるよう成功させたい」と話す。
国名:インド
首都:ニューデリー
通貨:ルピー
人口:12億1,057万人(2011年国勢調査)
公用語:連邦公用語はヒンディー語
規制緩和や外資の活用によって経済が伸び、人口も増加している。一方、生活面では都市部の下水管接続率は3割にとどまり、下水処理能力を超える汚水が排出されるなどの問題を抱えている。