地熱発電:国を支える自然エネルギー ケニア

ケニアの電力供給は水力発電と火力発電が約7割を占めている。
しかし、水力発電は干ばつなどの影響を受けやすく、火力発電は燃料となる石油の大部分を輸入に頼っていた。
そこで、これらの代わりとなり、環境にもやさしい再生可能エネルギーとして地熱の開発が進められている。

文:松井健太郎

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オルカリアI地熱発電所の4・5号機。オルカリア地域では、現在4つの地熱発電所で14基の地熱発電機が稼働中。うち10基に日本メーカーのタービンが使用されている。

日本式 地熱発電

オルカリアの成果を経て新たな地熱開発を

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地下の火山活動によって生まれるエネルギーが地熱。掘削作業を行いながら、地熱資源が豊富な地点を推定していく。

ケニア・ナクル県のオルカリア地区で、同国念願の地熱発電所が稼働したのは1981年のこと。その後、発電規模の拡大を進めるなかで、JICAも継続的な支援を続けてきた。円借款をはじめ、世界銀行や各国の支援によって地熱発電所が新設・増設され、現在までに複数の日本企業が蒸気タービン・発電機を計10機納入した。現在建設中の2か所の地熱発電所にも日本企業2社が蒸気タービン・発電機を計3機納入する。円借款の事業調査にコンサルタントチームのリーダーとして関わったのが、福岡県に本社を置く「西日本技術開発」の池田直継さんだ。

「地熱開発は、事前調査を行っても地下に十分な熱源があるかどうかは実際に井戸を何本も掘ってみないことにはわからないという難しさがあります。井戸の掘削には大きな費用もかかります。日本は長年、オルカリアで協力を続けるなかで発電所を管轄するケニア発電公社とともに成果を積み上げてきました」

その後、ケニア政府はさらなる地熱開発に向けてケニア発電公社から地熱部門を独立させた地熱開発公社(GDC)を設立。2013年9月から電力の大消費地である首都ナイロビから近いメネンガイ地区でも「地熱開発のための能力向上プロジェクト」が進んでいる。

日本らしい支援によって強固な関係を構築

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掘削技術を習得するための研修。事故を起こさずに安全を確保して作業する環境づくりも伝える。

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メネンガイの地熱開発現場。「西日本技術開発」のほか日本企業4社が参加し、日本人専門家が活躍している。

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GDC職員を日本に招いた研修も実施。地熱開発の最新技術を肌で感じてもらった。

同プロジェクトは、掘削技術から探査技術、環境技術、プラント、熱や蒸気の多目的利用、資材調達、プロジェクトの経済性の評価や公社の経営まで、あらゆる分野でGDCの能力を高めることを目的としている。なかでも掘削の実地研修における5S指導は、日本らしい支援として根づきつつある。5S指導は日本発祥のもので、〝整理・整頓・清掃・清潔・しつけ〟をしっかり行い、現場の課題解決に向けて環境を整える改善活動のことだ。

「上層部から現場スタッフまで全員が参加し、組織の団結を強めるための一つのよりどころとなっています」と池田さん。

また、泥水(でいすい)と呼ばれる特殊な液体を使って井戸を掘削する泥水掘削の技術指導においても、日本らしい協力が見て取れる。

「質の高い泥水を作るために高価な泥剤が必要なのですが、その購入資金はJICAが供与しました。実は先に述べた5Sや泥水掘削技術の指導は契約時にはないプログラムだったのですが、今後ケニアの地熱事業を背負って立つGDCの成長に必要であると判断し、それをJICAに提案したところ柔軟な対応をしてくれました。相手の立場に立って現場を進化させていく日本らしい支援だと思います」

GDCは供与された泥剤を使うなかで泥水掘削の有用性を知り、今では職員の能力向上のため自社でも購入するようになった。

メネンガイでのプロジェクトでJICAは、とくに掘削技術指導の分野でオールジャパンによる協力を掲げ、日本企業数社から専門家を派遣している。それにより現場には掘削の多様な知識や経験が集まることになった。これまで6年の歳月をかけたなかで、その蓄積は大きな財産となるとともに、GDCとの信頼も醸成した。

「その成果として挙げられるのは、地表調査や地熱井(ちねつせい)(注)から得られたデータをGDCが私たちに開示してくれたことです。国の貴重な財産であり機密性が求められる地下資源に関わる情報を共有してくれるのは、私たちを信頼してくれた証しだと思います」と池田さんは喜ぶ。メネンガイの地熱開発を進める一方で、「ゆくゆくはケニア北部の地熱地帯の開発もぜひ一緒にやってほしい」とGDCの社長から要請も受けた。ケニアの電力の安定供給のためにも、日本の協力による地熱開発には大きな期待が寄せられている。

(注)地熱井:地下深部の貯留層から熱水や蒸気を取り出すために、あるいはこれを地下深部に還元するために掘削した井戸のこと。抽出した熱水や蒸気は、発電などのエネルギー源として使われる。

西日本技術開発 海外営業部長

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池田直継さん

池田直継(いけだ・なおつぐ)さん

エネルギー・環境・社会基盤のコンサルティングを行う「西日本技術開発」に勤務。「日本は戦前(1919年に初めての地熱井を掘削)から地熱開発を進めてきた歴史のある国です。その知見とともに5S指導や安全指導を伝えることが、ケニアのよりよい発展につながると信じています」。

ケニア

【画像】国名:ケニア共和国
首都:ナイロビ
通貨:ケニア・シリング(K.shs)
人口:4,970万人(2017年国連)
公用語:スワヒリ語、英語

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メネンガイ

中所得国になることを目標にして「ケニアビジョン2030」を掲げる。経済を圧迫する石油輸入を減らすためにもエネルギー政策として、地熱発電の開発を進めている。