海上の保安:研修で育てる高度な教育で政策を学ぶ

インド太平洋地域から海上保安機関の初級幹部職員が集まるこの研修では、海上保安政策に関する修士レベルの教育が1年間にわたって行われる。

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観閲式で海上保安庁の多目的船とともに(2017年度の研修より)。

研修で育てる

国際的なネットワークも構築

太平洋からインド洋にかけての広い海域は、エネルギー資源、食料、製品など海上物流の要であり、この海域の安全は世界中の国々にとって、とても重要になっている。

そこで、インド太平洋地域諸国で国際的なルールに基づいた海上保安政策を立案できる人材を育成するために2015年から始まったのがこの研修だ。海上保安庁と政策研究大学院大学(GRIPS)が協力して実施にあたっている。

研修前半の6か月間は、東京のGRIPSで国際関係論や国際安全保障論、国際法、国際海洋法、政治経済、政策立案などの科目を学び、海上保安に関わる理論や知識を身につける。後半の4か月間は広島県呉市にある海上保安大学校に場所を移し、救難防災政策や海洋警察政策などを学ぶと同時に、具体的な事例を通して課題の解決方法を習得する演習も行われる。「研修員と話していると多岐にわたる現実の問題が話題になり、研修員ごとに関心のある課題が異なることがわかります」とGRIPS同研修プログラムディレクターの道下徳成さん。そこで、それぞれの課題に対応できるような選択肢のあるカリキュラムを用意しているのもこの研修の特徴だ。

1年間を通じて修士論文に相当するポリシーペーパーを完成させ、長い研修は終了する。「修士号レベルの知識を習得できるのはもちろんですが、研修員たちは一生の仲間を得て、海上保安分野での国際的なネットワークを確立してくれると期待しています」と、海上保安庁の中島雄大さんは卒業後の研修員たちの活躍に期待を寄せる。

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これまでの参加研修員の国は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム、スリランカ。今年度はインドから初めて研修員が参加した。GRIPSで講義を受ける研修員。

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広島での研修期間中、原爆ドームを訪問(ともに2018年度の研修より)。

海上保安庁 総務部 教育訓練管理官付国際教育訓練係長 中島雄大(なかしま・ゆうだい)さん

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中島雄大さん

専門性の高い海上保安分野の教育を通じて、「法とルールが支配する海洋秩序」の強化の重要性を共有できることがこの研修の大きな意義です。さらに、インド太平洋諸国の海上保安機関職員が1年間寝食をともにし、多くのことを学びながら議論し合える環境はほかにはないもの。研修員たちの大きな財産になることでしょう。

政策研究大学院大学 副学長・教授 道下徳成(みちした・なるしげ)さん

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道下徳成さん(写真中央)

違法・無報告・無規制の漁業、観光用ボートの安全性、麻薬の密輸、領土紛争など、研修員は多様な課題を持って臨んでいます。アジアの国際関係、安全保障論などの専門知識を身につけて、彼らが日々取り組んでいる問題がどのような文脈のなかで発生しているのかを理解し、海上安全保障により大きく貢献してほしいと願っています。