JICA海外協力隊がゆく Vol.7 エジプト

今回の隊員は、服のお直しをしたり手工芸品を作るエジプトの女性たちの活動に協力しています。

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「この仕上がりはどう?」
完成したシャツへの意見を求められている田原さん(左)。

ブランドを立ち上げて、商品の品質の向上に協力しています

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首都:カイロ

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職業訓練でミシンの技術を学んだ仲間たち。

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バザーで販売。

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商品にはタグ(右の写真)とカード(アラビア語、英語、日本語)を付けて、ブランドや製作しているNGOを紹介している。

エジプトには、雑貨やアクセリーなどを手作りし、女性たちに働く場を提供しているNGOが多くあります。しかし売り上げが伸び悩み、品質向上のアドバイスや販路拡大に役立つ人を求めていました。私は大学の被服科で学び、社会人になってからは営業や、商品カタログやウェブの企画・ディレクションなどに携わってきました。その経験が生かせると思い協力隊に応募。今は社会連帯省の地方支局に配属され、洋服のお直しや手工芸品の製作を行っている複数のNGOで活動しています。

NGOの商品を見て、作り手の女性たちと話して感じたのは、縫製をていねいにして、外国人の好むデザインにすればもっと売れるのに、ということ。そこでていねいな縫製技術を教え、新しい形や縫い方、デザイン性の高いさまざまな商品を提案しました。

また、商品の差別化を図るために「OSRMONTEJA(オサルモンテガ)」というブランドを立ち上げました。現地の言葉でオサルは家族、モンテガは商品。家族のあたたかみが感じられる商品をイメージして名づけました。とくに力を入れているのは先輩隊員とNGOメンバーで考案した、ハーヤメーヤ(エジプトの伝統的な工芸品)柄の布の商品。既存のトートバッグを改良し、ピラミッド型のポーチやエコバッグ、クラッチバッグなど新商品も加えました。エジプトのYKK社からはCSR(企業の社会的責任活動)の一環としてファスナーをご提供いただき、さらに商品の質を高めることができたと思っています。

さらに販路開拓のために、バスで7時間かけてカイロまで行き、飛び込み営業。アラビア語と身ぶり手ぶりで、「このポーチやバッグ、エジプト人の女性が作っているの。かわいいでしょう?」と商品を猛アピールし、「じゃあ、置いてみようか」と言われた時には思わず「やったー!」と日本語で叫んでいました。今は、これからに向けてエジプト人同士のつながりを強化しています。

日本に戻ってからもエジプト人女性が手作りした商品の販売先を増やすとともに、"エジプト親善大使"として料理、文化などエジプトの良いところをたくさんの人に広めていきたいと思っています。

JICA海外協力隊プロフィール

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田原 彩さん

田原 彩(たはら・あや)34歳
出身地:山梨県
職種:手工芸

エジプト事務所からひとこと

観光客が多いエジプトで、外国人に向けたお土産物の開発は隊員に期待されるところ。外国人ならではの視点で、外国人が好みそうなデザインの提案や商品の魅力の発信などができるからです。田原さんは、配属先と相談しながら新商品の開発、販路開拓を行い、商品の売り上げ向上に貢献しています。赴任から2年がたち、これからは引き継ぎの時期。現地の人をうまく巻き込み、活動を進めてください。

企画調整員(ボランティア事業)(注1)

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永山淳子さん

永山淳子(ながやま・あつこ)

(注1)隊員の活動全般を支援する「ボランティア事業支援のプロ」。また相手国の要望を調査し要請開拓を行うなど、隊員活動全体の運営を行う。

+one information エジプトの伝統工芸「ハーヤメーヤ」

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イラスト:さかがわ成美

「ハーヤメーヤ」とは、たくさんの布を折り重ねて模様を作るアップリケの刺繍。エジプト独自の工芸品です。もともとは砂漠で暮らす遊牧民がテントの装飾として使っていたもので、モチーフはイスラミック柄(幾何学模様)、アラビア文字、動植物、古代エジプトのファラオなどがあります。現在ハーヤメーヤを作っているのは、世界遺産のカイロ歴史地区にあるハーン・ハリーリ(注2)の職人たち。タペストリーやクッションカバーを一針一針ていねいに手作りしています。

職人たちはまず、下地となる厚めの布に下絵を描きます。次にさまざまな色のコットン布の中から必要な布を選んで、下絵に合わせて折り込みながら縫い付けます。職人たちは頭の中にある出来上がりのイメージに沿って多様な色の布を重ねてどんどんアップリケを作っていきます。タペストリーのように3メートルを超える大きいものは、完成までに3か月以上かかることもあるそうです。

そんなハーヤメーヤの柄がプリントされた「ハーヤメーヤ柄の布」は、イスラム教のラマダン(断食月)が近づくと街中のあちらこちらで目にします。市場やスーパーの売り場がこの布でカラフルに彩られ、ラマダンの雰囲気を盛り上げます。ラマダン中のエジプトは、たくさんのハーヤメーヤ柄の布で彩られます。(田原 彩)

(注2)14世紀末ブルジー・マムルーク朝の初代スルタンの時代に開かれたスーク(市)が、当時の姿のまま保存されている地域。迷路のような道の両側には、金属細工やアンティーク、民族衣装、工芸品などの店がいまも多数並んでいる。