近代的な税関で人も物もスムーズに メコン地域諸国

貿易の円滑化は、経済の発展につながり、その国の生活を豊かにする。
この貿易を支えているのが「税関」だ。人や物の流通をスムーズにし、違法な人や物の出入りを防ぐためにも、途上国の税関の近代化は必要だ。

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タイでの研修:タイ税関のリスク管理強化で専門家として活動する福薗さん(写真左)。日本の税関での経験を生かす。

物流の改善

日本を含む世界の多くの国では、税関の果たすべき重要な使命を1)安全・安心な社会の実現、2)適正かつ公平な関税等の徴収、3)貿易の円滑化、と位置づけている。メコン地域のように地域全体での経済成長を目指す場合、域内での人や物の流れを活発にする必要があるが、税関の組織や制度が国によって大きく異なったり、能力に差があったりすると自由な行き来が妨げられてしまう。

そこでJICAは日本税関と協力し、メコン地域諸国それぞれの現状に合わせた税関の能力向上や制度改善のために、日本の税関職員を現地に派遣し、自由で安全に人と物が行き来できるように、税関分野の技術協力に力を注いでいる。

貿易円滑化と取り締まりに取り組む

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メコン地域

税関分野の国際協力のなかでもとくに重要なのが輸出入貨物のリスク管理だ。輸出入貨物の通関手続きで、一つひとつの貨物に同じような手間をかけていては時間がかかりすぎ、空港では人が並び、陸上国境ではトラックが並び、荷物が滞留してしまう。いっぽうで、密輸や脱税といったリスクが高いと思われるもの(たとえば麻薬や銃器、テロ関連物品、偽ブランド品など)はしっかりと税関で止めなければならない。税関が取り扱う貨物は年々増えるが、職員の数は限られている。

そうした状況で効率的な税関業務を行うためには、リスクの高い物は集中的に審査・検査を行い、リスクが低いと思われるものは短時間で通関させるという管理手法の導入が必要となる。このための能力強化を目的としてJICAがタイ税関に派遣している福薗暁彦(ふくぞのあきひこ)さんは、こう語る。「東部経済回廊開発が進むタイでは、レムチャバン港などの物流インフラの整備に伴い、輸出入貨物量がさらに増えることが見込まれています。いっぽう、これに対応する税関職員の増員は認められにくいため、タイ税関はリスク管理をさらに高いレベルで適用する必要に迫られています。より効果的なリスク評価手法の導入、情報分析能力の向上、リスク管理の体系化が今後の課題です」。タイのみならず、他のメコン地域諸国においても、貿易量が増加するなかで、貿易円滑化と取り締まりを両立させるため、リスク管理能力強化は共通の課題だ。

日本型通関システムの導入

さらにJICAは、ベトナムとミャンマーにおいて日本の輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)をベースとした通関システムを導入し、これに伴う通関手続・制度の見直しや、電子化したシステムの運用に必要な人材育成を含む包括的な支援を行った。2014年に導入したベトナムでは、輸出入申告の99パーセントがこの新方式を通じて行われるまでになった。ミャンマーではヤンゴン、ティラワで2016年に同様のシステムが導入され、タイと国境を接していて東西経済回廊に位置するミヤワディにも展開、2018年から運用が始まっている。さらに、ベトナムとミャンマーでは、リスク管理部門にもコンピューターを利用するシステムを導入し、適切に運用するための能力強化に関する協力も行われている。

ミャンマーの税関

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【Before】書類が山積みで長蛇の列ができていた税関の通関部分。

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【After】書類が山積みで長蛇の列ができていた税関の通関部分では、日本型通関システムの導入により審査が効率化した。

カンボジアの税関

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水際取り締まりは、税関の重要任務。日本から無償供与した税関監視艇を活用し、カンボジア税関が海上で密輸たばこを摘発した。

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日本から無償供与した税関監視艇。

税関の三つの使命(日本税関の場合)

1)安全・安心な社会の実現

不正薬物・銃砲などの密輸阻止、テロ行為などを未然に防止する。

2)適正かつ公平な関税等の徴収

日本の税関では関税・消費税などあわせて約7.9兆円、国税収入の約13%を徴収している。税関で徴収する税金が、国税収入の50%近い国もあり、重要な財源になっている。

3)貿易の円滑化

通関手続きの一層の効率化・迅速化により、物流促進やコストの削減を実現することで、貿易を行う企業等の利用者の利便性の向上を図るとともに、経済成長にも貢献する。

トピックス 効率的な物流基地として本格稼働

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ミャンマー、ティラワ

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免震装置付きガントリークレーン。

2019年5月、ミャンマーのティラワ港がいよいよ本格的に稼働し始めた。

これまでミャンマーの国際港湾貨物量の約9割を取り扱ってきたヤンゴン本港は、水深が浅く、市街地と隣接しているため拡張が難しい。経済発展が続くミャンマーで増え続ける貨物に対応するために、ヤンゴン本港の16キロ下流に建設されたのが同港だ。

ティラワでは経済特別区の開発が進み、それに関連して岸壁の整備や荷揚げに使うガントリークレーンやトランスファクレーンの設置、倉庫の建設といった多目的ターミナル港湾整備が、日本とミャンマー両国の官民主導で進んでいた。2019年にはその港湾整備が完了。5月から多目的ターミナルが動き始め、日本の経験やノウハウを活用した効率的な港湾運営が行われている。それにより同港が出入り口となって、ミャンマーと他国の間を多くの貨物が行き来することが可能になった。

「ティラワ港では円借款や無償資金協力、協力準備調査(PPPインフラ事業)、民間企業のプロジェクトなどさまざまな形で日本が協力しています。日本の最新技術やソフトが取り入れられていて、まさにオールジャパンの取り組みです」と語るのは、JICAの東南アジア・大洋州部の香川佳奈子さん。

今後、ティラワ港はミャンマーだけでなく、メコン地域の物流発展にも繋がる可能性を秘めている。「東西経済回廊の端にあるティラワは世界に開かれた窓。ティラワ港があることで、メコン地域内の回廊を通った物資が世界へ、また世界からメコン地域へ、そんな流れが生まれることを期待します」。