国内外へ販路拡大 ラオス

ラオス南部のサバナケット県では、灌漑技術の向上、稲作の生産量増加、野菜栽培・販売の促進に軸を置いた農業振興プロジェクトが行われている。
その先に見えるのは、農家の収入向上と国内外への販路拡大だ。

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トウガラシ栽培で先進的な試みをしている農家を視察。

物流の改善

コメ農家、野菜を作る

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ラオス、首都:ビエンチャン、サバナケット県

サバナケット県はラオス有数のコメ産地。しかし、生産コストのわりに収量が伸びず、収入も低い。そんな課題に対して、JICAでは県農業局と協力し、施肥技術の改善を中心に技術指導を行いコメの収量増を図るプロジェクトを実施している。昨年の乾季作では、対象農家の収量が平均30パーセント増え、「前年より肥料は少なくても収量が倍近くになった!」と喜ぶ農家の姿も見られた。

さらに並行して始めているのが、収益性の高い野菜の販売活動支援だ。「首都ビエンチャンや、ベトナム、タイなどの近隣諸国からの野菜の需要はありますが、野菜栽培は始まったばかりで、まだ求められる種類と質、量を生産できません。まずは県内をターゲットに、作物選定から栽培、販売まで農家と試行錯誤をくり返しています」と言うのは荒石真生さん。マーケティングの専門家としてプロジェクトに参加し、農家の野菜販路開拓をサポートしている。

野菜栽培で収益を上げるポイントは、需要に応じた野菜を作ること。農家自身が市場に足を運んで売れ筋の野菜や価格を理解したうえで、作物を自分たちで選び、栽培できるように協力した。たとえばトウガラシ。10年前からトウガラシを栽培している農家から売り上げが落ちていると相談を受け、市場で人気のある品種の栽培を勧めたのだが、なかなか一歩が踏み出せないようだった。しかし市場に行き、その品種の人気が高く倍の価格でも売れていることを知って、栽培を試みる農家が出てきた。

また、プロジェクトが行政職員とともに見つけた価格の高い作物や隠れた需要も農家に紹介している。ラオスでは馴染みのないオクラには7軒の農家がトライ。収穫に至ったのはわずか1軒だったが、その1軒が栽培したオクラは完売した。「こういう成功体験があると、栽培してみようという動きが農家から自発的に生まれ、さらにそれをまねする農家が出てくる、いい循環が生まれました」。

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トウガラシ。

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農家への稲作研修。肥料を施す適切な時期や量を教え、実践してもらう。

外国から期待されるラオスの野菜

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キュウリの無農薬栽培に初めて挑戦する若い農家。美味しいと評判で完売。

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輪作について学びながら、作付けの予定を考える農家の人たち。

消費者への調査では、安心・安全な食への意識が高く、有機栽培や無農薬栽培などの野菜のニーズがあることもわかってきた。サバナケット市内にすでに販路を持つ有機栽培農家グループは、プロジェクトに参加することで市場以外の販路や顧客が増えている。グループに参加する農家は1年間で7軒から20軒に増え、売り上げも順調に伸びている。

安心・安全な野菜作りが広がるなか、ラオスの野菜輸出への期待が高まっている。県内では日本向けに漬け物用のキュウリが栽培され、タイ向けにキャッサバを栽培する農家も多い。プロジェクトでも同国の総合商社と連携し、タイ向けの商品作物や日本向けの黒ゴマの試験栽培に取り組み始めている。しかし、農家の野菜栽培技術を高め、安定的に量が確保できるまでの道のりは長い。これからも土作りや有機肥料の使い方など、きめ細かな技術指導が行われる。

プロジェクトのチーフアドバイザーを務める高石洋行さんは、ラオス農業の潜在力は経済発展を促す大きな力になると期待している。「ラオスは熱帯モンスーン気候で、一年を通じてさまざまな作物を栽培できます。地理的にはタイ、カンボジア、ベトナム、中国と消費人口の多い国が隣接していて、農産物の輸出にとても有利です。優良な自然環境がまだ残されていて、世界的にニーズが高まっている有機栽培された農産物を生産するポテンシャルが高い。プロジェクトでは、そうした潜在的な力を引き出せるよう農家の人たちに寄り添っていきたいと思います」。

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プロジェクトに携わる4人の専門家

高石洋行(たかいし・ひろゆき)さん

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高石洋行さん(写真奥)

農林水産省より、2017年からプロジェクトのチーフアドバイザーとしてラオスへ。日本での農村行政の経験を生かして活動中。「ラオスには次々と新しい技術が持ち込まれています。それらを少しずつ使いこなし、着実に歩みを進めています。ラオスの人たちは適応力が高いので、2022年のプロジェクト終了時には、さらに農業の技術が向上していると思います」。

荒石真生(あらいし・まき)さん

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荒石真生さん(写真右)

民間企業勤務を経て2008年に青年海外協力隊に参加。その後、農村女性起業家支援やマラウイ一村一品プロジェクトにて農家のアグリビジネスを支援、2017年からマーケティング専門家としてラオスへ。「メコン地域の農業に関心のあるみなさま、ぜひ一度サバナケット県へお越しください!」。

片山克己(かたやま・かつみ)さん

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片山克己さん(写真左から3人目)

肥料の専門家として稲作や野菜栽培の技術指導を行う。

大槻和弘(おおつき・かずひろ)さん

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大槻和弘さん(写真左)

プロジェクトの広報や業務調整を担当している。

こんな取り組みも アサヒHDとの連携-安全な農産物への挑戦-

JICAは2019年4月、アサヒグループホールディングスと覚書を交わし、途上国のフードバリューチェーン構築に向けて協働での取り組みを開始。同覚書に基づく実証研究の対象として、ラオスのこのプロジェクトが選定された。同社が研究を進めるビール醸造時にできる酵母を使った植物由来の安全な液状複合肥料を使って、コメや野菜の試験栽培の取り組みがすでに始まっている。