ともに開発を。貢献の道を進む タイ

日本をはじめとする先進国や国際機関から、長らく支援を受けてきたタイ。
メコン地域の中でいち早く経済成長を遂げた同国は、今では国際社会の一員としての役割を担おうと、他の途上国への支援を行い、JICAはそれをサポートする。

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繊維染色の加工技術コースでは、バンコクの工場を訪れて衣類の加工工程を視察した。

第三国への協力

タイの途上国支援に寄り添う日本

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タイ、首都:バンコク

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衣類の加工工程。

1980~1990年代に日本を含む国外からの支援や民間投資を積極的に活用してきたタイでは、工業国を目指した国造りが成功し、多くの日系企業も活動するようになった。今では自動車産業と電気電子産業を中心に、必要な部品や資材を供給する裾野産業が広がり、製品の組み立てから販売、輸出まで一貫して行う体制ができている。国民の所得は増えて、2011年には中進国の仲間入りを果たし、2017年の一人当たりの国民総所得(GNI)は5950ドル(世界銀行)となった。

そしてタイは、経済の成長に伴って今度は自国が途上国の支援に取り組む新興国ドナーとして台頭している。これは〝三角協力〟(または〝南南(なんなん)協力〟)と呼ばれ、ある分野の開発が進んでいる途上国が別の途上国の開発を支援することをいう。ただ、ひと言で〝支援する〟といっても、成果が上がらなければその意味はない。タイは、1)自国が支援を受ける中で得た知見の蓄積、2)低所得国から中進国へと成長した経験、3)地理的・文化的環境が似ている途上国が周辺に多い、という特色を生かしながら三角協力を実施している。途上国と近い目線で開発アプローチができるタイならではの支援にJICAはタイ、支援対象国、そして日本にとっても効果のあるものとして期待を寄せ、その後押しをしている。

日本とタイは1994年に「日タイ・パートナーシッププログラム」を結んで、JICAは〝第三国研修〟をスタートさせている。第三国研修とは、JICAから資金や技術の支援を受けたタイが近隣諸国から研修員を招いて途上国間での技術協力を行うものだ。

タイ工業省で監察官を務めるパヌワット・トリヤーングーンスィーさんは、JICAと協働して三角協力や第三国研修を行う意義を次のように話す。

「最も大きいのは〝安心〟です。タイは長年、JICAや日本の民間企業の支援を受けてきたことから、数多くの日本の技術が根づいています。だからこそ日本が一緒に支援を実施してくれることは非常に頼もしいのです。私たちだけでなく、相手国も〝安心〟を感じていると思います」

人材の育成を地域の成長につなげる

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カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムから計20人が五つのコースに分かれて参加する。

近年、タイに進出した日系企業は、より低い生産コストを求めて、製造工程の一部を他のアジアの国に移転させる〝タイプラスワン〟の動きを加速させている。こうした状況のなかでJICAとタイの工業省は、メコン地域に投資の目を向けてもらうために裾野産業の育成を急いでいる。2015年から始まった「メコン諸国のための素材加工技術」の第三国研修では、それぞれの国の政府や民間機関の指導者をタイに招いて、機械、プラスチック、電子制御装置、繊維染色、溶接などの技術を伝えている。

研修終了後は、タイの担当者を各国に派遣して、研修員の自国での技術展開の進捗状況やタイでの研修の内容が各国のニーズに合っていたかどうかも調査する。「人に何かを教えることは根気のいる難しい作業です。しかし、日本はそんな人材育成をとても大切にしていました。私たちもそれに倣って、よりよい現場をつくります」とパヌワットさんは話す。タイ工業省には、過去にJICAが行った技術協力を目の前で見てきた人たちが多くいる。タイはその協力の手法を理解し、それを活用しながら、メコン地域に新たな成長をもたらそうとしている。

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タイ繊維研究所のテストセンターで衣類の加工やプリント方法などを学ぶ。座学ではタイの繊維業の歩みや同国が保有する加工機械などのデータについても学んだ。

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金属のCNC(コンピューター数値制御)加工および裁断加工技術の研修の様子。さまざまな分野の素材の加工技術を学ぶコースがある。

タイ工業省監察官 パヌワット・トリヤーングーンスィーさん

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パヌワット・トリヤーングーンスィーさん

日本留学後、1989年にタイ工業省に入省。以来、日本からの支援を受け入れる立場で自国の発展に励み、現在はJICAとともに第三国研修を進める。「タイは少子高齢化が進んでいます。メコン地域諸国で裾野産業を振興するとともに、自国では自動化、ロボット化などの新しい産業を生み出して、おたがいに経済成長を図るウィン-ウィンの関係を築きたいと考えています」

近隣途上国に経験と技術を伝える

NEDAによる道路、高速道路、橋梁等建設事業の管理研修コース(2019年5月27日~6月1日)

研修を通じて発展を共有する

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タイ道路局で交通監視システムを視察。ひと目で多くの道路を確認できる。

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JICAベトナム事務所の野田誠司さんは、「人に教えることは自分も学ぶことになる。タイで研修が行われることは開発課題で共通点を抱える隣国に共感を持たれやすいと思います」とNEDAの取り組みに期待を寄せる。

タイの国際協力機関には周辺国へ資金協力を行うNEDA(ネダ)(周辺国経済開発協力機構)がある。

2019年の5月、カンボジア、ラオス、ミャンマー、スリランカ、ブータンの道路関係の行政官がタイを訪れた。彼らは約1週間かけてタイの道路施設を視察し、講義ではインフラの整備技術を学んだ。参加者の一人は「タイの技術水準は高く、自国で活用するために現場では写真をたくさん撮りました。土壌や気候、労働者の姿勢など共通する点も多く、参考になりました」と評価する。

研修は毎年、〝経済・債務管理〟と〝インフラ整備の実務〟という二つのテーマで実施されている。「借款と技術支援を組み合わせて実施することで援助効果の最大化が期待できるからです。これはJICAと同じアプローチだと思います」と話すのは、NEDAの本研修担当のスマワディー・ポンセートさん。また「NEDAは歴史も浅く職員数が約50人と小さい組織なので、人材と経験が豊富なJICAに講義協力をしてもらい助かっています」と語る。

依頼を受けたベトナム事務所の野田誠司さんは、設計における問題を早期に防ぐ方法や、建設業者との契約に関わる予備費の考え方などを解説したほか、意見交換も盛んに行われたという。

JICAは2005年にNEDAが設立された当初から、その組織能力強化を支援してきた。2016年にはパートナーシップ合意書を交わし、連携の体制はさらに整った。タイが行う途上国の支援にこれからも協力していく。

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道路の建設現場に出向いて、資材管理の説明を受ける。

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5か国17名の行政官が参加!

アフリカでも三角協力で連携

〝足るを知る経済哲学〟を世界22か国で展開

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現地を訪問したTICA職員のワタナウィット・コッチャセーニーさん(写真右)とピヤワン・ラックパーニットさん。プロジェクトはタイの国内の大学とも連携して進める。

途上国への開発協力は、それを行う国によってそれぞれ方針がある。タイの協力は〝足るを知る経済哲学〟をコンセプトにしている。これはタイのプミポン前国王が提唱した理念で、資本主義経済に〝透明性、公正、節約、効率〟の四つの道徳原則を取り入れ、しなやかで強靭な社会を構築しようというものだ。この考えのもと、タイのTICA(タイカ)(タイ外務省国際協力局)は、2019年からセネガルの農村開発分野での協力に取り組もうとしている。そしてTICAは、自国の限られた援助ノウハウを補って、より有効性を高めるべくJICAに協働を提案した。

この5~6月にはセネガルの2か所の村でTICAとJICAによる合同調査が行われ、低い農業生産性、地下水に依存した農作物作り、低収入などの課題を洗い出した。現地を訪問したタイ側の関係者は、「セネガルでのJICAの取り組み実績(注)に感銘を受けました。タイの取り組みがJICAの協力とうまく補完し合い、力を合わせた協力が現地のコミュニティの向上に結びつくことを期待しています」と抱負を語った。持ち帰った調査結果をもとに、今後具体的な協力内容が決定される。

TICAによる協力はアジアおよび大洋州、南米に広がり、アフリカでは7か国に上っている。南半球を横断するような支援は〝自由で開かれたインド太平洋〟の実現を願う日本の考え方ともマッチする。タイに対するこれまでの協力で培った関係は、JICAの財産として相互のために生かされていく。

(注)近年、JICAによる農業関連の支援には、CARD(穀物の国際価格高騰などによって食料不安に悩まされることの多いサブサハラ・アフリカを対象にした稲作振興国際イニシアティブ。コメの生産量の倍増を目指す)や、SHEP(農作物を"作って売る"から"売るために作る"という意識改革を促す開発アプローチ。市場志向型農業振興を目指す)などがある。

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セネガルでジャハトと呼ばれる苦ナス。見た目はトマトとそっくり。

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ニンジン。そのほかにキャッサバなども栽培されていた。

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雨量が少ない乾燥地での農業は地下水に依存している。揚水試験などを行っていないため地下水量はわかっていない。写真はキャベツ畑。

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タマネギの集積場。屋内倉庫は有料のため、高付加価値のつく農産物以外は基本的に屋外に保管されていた。

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農村開発に向けた住民への説明会。“足るを知る経済哲学”のコンセプトなどが語られた。

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地元の人にヒアリング。栽培にかかる費用の約6割を水関係費が占める。種はオランダからの輸入品を取り扱う業者より購入している。