サブサハラアフリカ、気候変動との闘い

世界の中で、気候変動の影響をもっとも受けるといわれるアフリカ。
なかでも、サハラ砂漠以南のサブサハラ地域への影響は大きい。
統合水資源管理、村落給水、干ばつ対策、持続的森林管理、農業生産性向上などの適応策を戦略的に連動させ、国家やコミュニティが柔軟に対応できる力を強化しようという試みが始まっている。

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住民は植林事業の重要な担い手だ。女性のエンパワーメント(能力開発)にもつながる。

適応策

サブサハラアフリカでは、気候変動によるスポット洪水や豪雨の頻度が増える一方、砂漠化・干ばつも深刻化。人間の安全保障が脅かされる事態が生じている。なかでもサヘル・アフリカの角地域は砂漠化の影響が大きい。JICA地球環境部の三浦真理さんが見せてくれた地図では、その地域はほぼ茶色一色だった。

こうした砂漠化に対し、各国はそれぞれに対応策を講じている。ブルキナファソやモザンビークでは干ばつになっても水が確保できるように深い井戸を掘る、貯水技術を上げる、またケニアでは渇水時に水をみんなで活用できるルールを作るといった水資源・地下水開発分野での取り組みが行われている。農業分野でも、エチオピアでは気候変動によって農作物に被害が出たときの補償となる保険制度の整備、収入向上による農家の体力強化、スーダンでは灌漑能力の強化などに取り組んでいる。

さらにエチオピアやマラウイでは、砂漠化防止につながる森林保全の取り組みが行われ、なかでもケニアの取り組みは意欲的だ。

森林の拡大に取り組むケニア

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森林研究・開発事業の拠点となっているケニア森林研究所。日本政府の支援で設立され、30年以上の歴史がある。

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数年で大きく成育したメリア。「乾燥に強く、成育のよい郷土樹種(もともとその地域に自生していた種類の樹木)の育種が順調に進んでいます」と日本の林木育種センターの担当研究者。

ケニアの国土は約80パーセントが乾燥・半乾燥地で、森林率はわずか約7パーセント。しかも国内の1次エネルギー総量の約7割は薪や炭を利用しているため、適切な森林保全・管理はつねに大きな課題だった。しかし、植林しても乾燥で木が枯れてしまうことも多かった。そこでケニアは2010年に制定した新憲法で、2030年までに森林率を10パーセントにすると定めた。「しかも大統領がその目標達成を2022年に前倒しすることを決めたので、環境・森林省の意欲はとても高くなっています」と三浦さんは言う。

その一環としてJICAは「持続的森林管理のための能力開発プロジェクト」を実施している。複数の取り組みが同時並行で行われていて、なかでも林木(りんぼく)育種事業への期待は高い。「林木育種とは、木の品種改良のこと。日本の林木育種センターとケニア森林研究所が協力して、乾燥に強い品種を開発しています」と三浦さんは事業を説明する。対象となっているのは家具などの素材としてよく使われるメリアと、薪や炭に活用されるアカシアの2種。まっすぐ伸びる、硬い、生育が早いなどいろいろな優れた特徴を持ち、乾燥地でも丈夫に育つ活用しやすい改良品種を作り、植林を始めている。ケニア森林研究所の研究員は、「改良品種の生育はとても早く、従来品種より大きく育ちます。この木を植えていけば、森林率の増加が実現できるかもしれないと期待しています」と語る。改良した木の苗は、1年間林業について学べるファーマーズ・フィールド・スクールなどで植林・育成するほか、ケニアの林業関係の民間企業へも有償で提供し、植林を進めている。

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品種改良したメリアの果実。中に数個の種子がある。

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種子から育てるほかに、接ぎ木で苗木を増やす試みも行っている。

地域で対処する

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種子から苗木を作り、ある程度育ったら植林地に植える。苗木作りも大切な仕事だ。

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70人以上の関係者がナイジェリアに集まって開催されたAI-CDのワークショップ。

このように、気候変動には各国が取り組んでいるが、サヘル・アフリカの角地域の15か国が一丸となって砂漠化に対処するため、プロジェクト(AI-CD)が2016年の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)で立ち上げられた。地域全体で課題に取り組み、経験や知識を共有することで、水資源管理、干ばつ化対策、森林管理、農業生産性の向上などの対応策を連動させ、事業をより効果的に実施できる。さらに国際社会の関心も高まり、資金も集めやすい。

基本は15か国それぞれが主体的に砂漠化対処策を模索するが、セネガルとケニアが拠点国になり、おたがいに協力していく。「『山に登るときに、ケニアだけが先に進み頂上に到達しても意味がありません。時間はかかってもほかの国々と歩調を合わせ、助け合いながらみんなで頂上に到達したい』というケニアの担当者の言葉がその理念を表しています」と三浦さん。2019年8月に横浜で開催されるTICAD7のサイドイベント「サブサハラアフリカにおける気候変動との闘い」では、科学的知識に基づいた最新情報をベースに関係者間で熱い議論が展開される予定だ。気候変動に地域でどう対応していくのか、これからの取り組みに注目したい。

AI-CD参加国

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AI-CD参加国