偏西風が生む夢のエネルギー モンゴル

モンゴルでは経済成長に伴い電力需給がひっ迫。エネルギー源のほとんどを石炭に頼るため、深刻な大気汚染にも悩まされている。JICAが支援した「ツェツィー風力発電事業」は同国で2例目となる風力発電事業だ。

文:松井健太郎

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ツェツィー風力発電所。

緩和策

環境と経済を両立させる風力発電事業

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ツェツィー風力発電所の変電所。電圧を調整する施設。

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風車1基あたりの出力は約2メガワット。年間を通して偏西風が吹くゴビ砂漠は風力発電に適している。

近年、著しい経済成長を遂げているモンゴル。2016年度から3年間のGDP成長率はそれぞれ、1.2パーセント、5.3パーセント、6.9パーセントと右肩上がりで伸びている。豊富に埋蔵される石炭を軸とした鉱業の発展に伴い、製造業、貿易業、運送業、サービス業といった他業界の躍進は経済成長を後押ししている。同時に、国内の電力需要も増加し、2018年度は前年比9.4パーセントの伸びを見せたが、国内電力生産の増加率は5.6パーセントと伸び悩み、需給はひっ迫。不足する電力を主にロシアからの輸入によって補っているのが現状だ。

また、総発電量の約9割を占める石炭火力発電では、火力発電所、小型ボイラー施設や冬季の暖房設備における生石炭燃焼、火力発電所の老朽化による燃焼効率の低下などから、大気汚染物質や温室効果ガス排出量の増加を招いている。

こうした課題の対応策の一つとして再生可能エネルギーの利用促進が求められるなか、モンゴルで初めて風力発電所を建設・運営したインフラ投資会社ニューコムと、日本で再生可能エネルギー事業を展開するソフトバンクグループのSBエナジーがクリーン・エナジー・アジアを設立。風力資源が豊富なゴビ砂漠に、モンゴルで2番目となるツェツィー風力発電所を短期間で造り上げ、2017年10月から稼働している。同社のエンフトゥブシン・トゥルボルドさんは、「温室効果ガス削減はもちろん、経済面から見ても、老朽化した火力発電所を稼働させる限界費用は、再生可能エネルギー発電所を稼働させるそれをはるかに上回っています」と有用性を語る。

自然エネルギー分野で初めての海外投融資

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発電所の建設に関わった約500人の作業員のうち、95パーセントはモンゴル人。相手国との協働を図る「質の高いインフラパートナーシップ」として現地社会にも貢献する。

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2017年10月、ゴビ砂漠で行われた完工式。発電所は計画よりも約3か月早く完成した。

高さ130メートルの巨大な風車が25基。モンゴルの電力需要の約5パーセントにあたる50メガワットが発電可能なツェツィー風力発電事業に、JICAは資金面で協力している。欧州復興開発銀行と協調し、自然エネルギー分野では初めてとなる海外投融資(注1)による支援を行っている。「2016年は、モンゴル経済が足踏みしていた時期。海外投資家や国際開発金融機関はモンゴルの市場参入を断念、あるいは留保していました。JICAの融資があったからこそ、本事業は実現したと思います」とトゥルボルドさんは振り返る。ツェツィー風力発電事業は、エネルギーおよびインフラ開発分野における優れた融資プロジェクトを表彰する、イギリスの『インフラストラクチャー・ジャーナル』誌の「IJ Global Awards 2016」をアジア・大洋州における風力発電事業部門で受賞するなど、世界からも注目を集めている。

年間供給可能電力量の目標値である2億180万kWhから換算すると、ツェツィー風力発電事業では年間17万6575トン(注2)のCO2が削減可能となる。

「その豊富な供給電力で東アジアの各国を再生可能エネルギーの送電網でつなぐ国際送電網構想があるが、主となるのは、偏西風の力と効率よく注ぐ太陽光の力を併せ持つモンゴルの南ゴビ砂漠。250メガワットまで拡大可能なツェツィー風力発電所が、その主役となれるよう推進していきます」とトゥルボルドさんはモンゴルの、そしてアジアの未来を見据える。

(注1)インフラ整備、貧困削減、気候変動対策などの分野で開発効果の高い事業を行う日本企業などに対して、融資や出資のかたちで支援を行うスキーム。技術協力の活用、民間金融機関や国際金融機関などとの連携により、開発効果をより高めつつ事業リスクの軽減などを目指すもの。
(注2)モンゴル全体のCO2排出量(2016年)の約1%に相当する。国際エネルギー機関(IEA)Webデータより算出。

ファイナンスマネジャー エンフトゥブシン・トゥルボルドさん

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エンフトゥブシン・トゥルボルドさん

2012年、京都大学経済学部卒業。東京大学経済学研究科修士課程修了。モンゴル貿易開発銀行を経て、クリーン・エナジー・アジアに入社。銀行時代に再生可能エネルギープロジェクトの融資に携わった経験を生かしツェツィー風力発電事業を担当する。

モンゴル

【画像】国名:モンゴル国
通貨:トグログ
人口:323万8,479人(2018年、モンゴル国家統計局)
公用語:モンゴル語、カザフ語

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首都:ウランバートル

人口の10倍以上の家畜を有する遊牧の国。日本とは1972年に外交関係を樹立し、民主主義国家となった1990年以降、「総合的パートナーシップ」の原則により、関係が急速に拡大・深化している。