世界をつなげる市民のちから 鼎談 ACE×シャンティ国際ボランティア会×JICA国内事業部

国際協力に関わる組織や企業が多様化していくなかで、市民団体であるNGOの強みとは何か。
また、NGOとJICAがどのように連携すればより効果的な支援が行えるのか。
途上国の現場と政策提言の両面で活躍するNGOのおふたりに話をうかがった。

構成:光石達哉 写真:松木雄一

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左から岩上憲三さん、山本英里さん、岩附由香さん

特集 NGO

多様化する国際協力 NGOの強みとは?

岩上憲三(以下、岩上:聞き手):

JICAは「国際協力を日本の文化に」を理念として、市民参加協力に取り組んでいます。「持続可能な開発目標」(SDGs)達成には、さまざまなアクター(担い手)とのつながりが不可欠です。JICAにとってNGOは重要なパートナーであり、双方の強みを生かした質の高い協力を推進したい、またNGOとともに日本の市民の国際協力への関心や理解を高め、共感や支持を得て、国際協力の裾野を広げていきたい、そして、途上国での国際協力の経験を日本の地域社会へも還元していきたい、と願っています。そのような考えのもと、NGO-JICA協議会をはじめとする“対話”、草の根技術協力事業やJICA基金を通じた“連携”、能力強化の研修プログラムや現場の情報の提供を行う“支援”の三つの柱に基づいて、NGOとの協働を行っています。

以前は国際協力の現場に立つ方々は、NGOに加え、JICA関連ではコンサルタント企業、大企業、省庁から派遣される専門家がおもでした。しかし、今では中小企業、地方自治体、大学も海外に出るようになるなど、アクターが多様化しています。そのなかでのNGOの強み、担うべき役割とはどのようなものでしょうか。

岩附由香(以下、岩附):

みなさんと同様、私たちもプロジェクトが始まる前に調査を行い、PDM(プロジェクト計画概要表)を作っていますが、あまりPDMにとらわれてしまうと、目の前で起こっていることを取り逃してしまうと考えています。行政機関と比べると組織が小さいぶん、現場の判断でフレキシブルに変更できることがひとつの強みだと思っています。

最近の例をお話しします。カカオ業界の国際会議で、私たちのスタッフがガーナの児童労働問題のプロジェクト報告をしました。そこにガーナの雇用大臣が出席していて、「きみたちのやろうとしていることは、われわれの児童労働撤廃計画に合致しているので一緒にやりましょう」と声をかけられました。その話は「ACE」の年度計画にはなかったのですが、今このチャンスを逃したら話は進まない…。「やりましょう!」となり、その4か月後にはガーナ政府と共催で会議開催を実現しました。自分たちが目指している方向と、今起きていることが同じ方向に向かうのであれば、そこで「よしっ!」とアクセルを踏めるのです。

岩上:
これまで児童労働問題は、JICAにあまり接点がありませんでした。ノウハウや経験が乏しい分野でNGOと連携できるのはメリットだと思います。山本さんはいかがですか。
山本英里(以下、山本):
現場での国際NGOの役割は変わってきています。支援において、より現地の人や政府が主体的になり、支援に参加するアクターも多様化しています。そのなかでNGOが大事にしているのは、地域において認識されていない課題を抽出し、取り残された人々にもリーチするところだと思います。NGOは草の根レベルの視点とともに、地域や分野に特化した強みを持っていますから。

丁寧に粘り強く向き合う日本らしさ

岩上:

日本らしさというところでは、日本人はNGOの人たちもJICAの専門家や協力隊員も、現地の目線で考えようとする面があり、それが特徴といえます。

「シャンティ」の活動も「ACE」の活動も、現地の人たちにとっては日本人が寄り添って協力してくれたことで、一生忘れられない印象深い経験になると思います。現地の人との関わりで大事にしていることは何でしょうか。

山本:
プロセスを大事にしているNGOは多いと思います。行政との会議、住民との対話、子どもたちと接する場など、1度で終わるものを2度、3度とやることがあります。それが非効率ではないかと議論になりますが、現地の人たちが本当の意味で参画をすることを促す重要なステップであり、もしかしたらそれが大きな成果につながっているかもしれません。
岩上:
丁寧に回数をかけてやっているということですね。
岩附:

検証しても測りにくいものの価値を、NGOは見出そうとしているのだと思います。丁寧にプロセスを踏んだ結果、人の意識が変わるということは大きく、それは持続していくのです。

私たちの児童労働のプロジェクトは、一つひとつ家庭を訪問して、話を聞いて一緒に考えて、何度も説得を試みます。なかには、まったく話してくれないお父さんもいます。でも粘り強く接していくなかで、最初は子どもが働くのはしようがないと思っていた親御さんが、「どうしたら学校に行かせられるだろう」とあるとき急に考え始めることが起きたりします。そうすると、それは後戻りしないし、自分たちでやり方を見つけることができるようになるんです。

そういう人と人との間に生まれる気づきや、価値観の転換をNGOは目の当たりにしてきたから、たとえミーティングが複数回に増えたとしても、非効率とはいえない気がします。

山本:

そうなんです。多くのNGOは現地の人々の潜在能力を引き出すアプローチを大事にしています。これからはそれがいかに成果につながるかを検証し、より多くの関係者の理解を得ていくことが求められています。プロセスを重視することでどのようなインパクト(事業がもたらす変化や成果)が生まれたかをJICAと一緒に検証できると、日本のNGO全体にとってもそれがさらなる強みとなり、事業の質の向上になるのではないでしょうか。

国際社会の中でもっとプレゼンス(存在感)を高められるようなポテンシャルを持っているNGOは多いと思います。

岩上:
そこは今後の連携の課題ですね。

JICAとNGOの連携で相乗効果を高める

岩上:
海外の現場で、NGOとコンサルタントや大使館員、JICAの事務所員や現地スタッフ、協力隊員らさまざまな立場で開発協力に携わっている関係者との間で、今よりもっと情報・意見交換ができると、NGOが持つ国際協力のノウハウを広く発揮していただけることにつながっていくと思うのですが、いかがでしょうか。草の根技術協力の成果を政策に結びつけたり、JICAの技術協力の成果をより現地に根づかせることにもつながるのではと考えています。
山本:

JICAとNGOがおたがいに気づくことができていない強みを生かせれば、大きな相乗効果になると思います。

昨年末まで、カンボジアのバッタンバン州での幼児教育事業を、静岡県の社会福祉法人と同県の2者と連携して行いました。保育所などを運営している社会福祉法人に事業に入ってもらったことは、いい経験になりました。長年、私たちは途上国の教育支援を手掛けていて事業の知見があるといっても、幼児教育については保育士の方々の専門性には及ばないところがあります。連携できたことでより現場に近く、かつ専門性が高い活動ができました。

日本で働く保育士さんは、最初はカンボジアの貧困という問題が具体的にどういうことなのか、あまり理解できていないなかで、同国における幼児教育はどうあるべきかという対応を求められていました。けれども、活動を通してカンボジアの現状を学び、自分たちの現状と比較してみることで、日本の保育に携わる上での視野が広がったという声が上がりました。

また、静岡県という行政が入った影響はすごく大きくて、バッタンバン州政府の教育省のやる気も上がり、今回の成果を政策化できました。それこそ姉妹都市になりたいという話も出ています。

そして、私たちと社会福祉法人と県をつなげてくれたのがJICAの草の根技術協力事業でした。今後さらに効果を上げていくために、NGOとJICAが共同プロジェクトを組んでいくなど、もっと連携できる余地はたくさんあると思います。

岩附:
今、SDGsに関心を持つ企業も増えてきています。とはいえ、何かいいことをしたいけど、自分たちで何をしたらいいのかわからないところも多い。連携という意味では、私たち「ACE」のようなNGOだと現場のこともわかるし、国際的な会議とか民間企業との関わりも強いので、何かを始める前にご相談いただけたらいいなとは思います。

次世代の国際協力の担い手を育てる

岩上:
国際協力系NGOは国内にも目を向けて活動しているところも増えているなという印象がありますが、いかがでしょうか。
岩附:

日本国内での国際理解教育・開発支援教育は多くのNGOが取り組んでいます。国際協力の意味や意義を含めて、国際協力を伝える役割は一部担っているかなと思います。「ACE」でも年間60回ぐらい講演に赴きますし、教材を制作したり、絵本を発行したりしています。そういう部分でもJICAと連携できることはたくさんあると思います。

また、以前JICAがNGO向けの研修を行っていて、私もそれでガーナにプロジェクト調査に行かせてもらい、「ACE」で今のプロジェクトを立ち上げることができました。資金もないから現地に行くだけでも大変ななか、新しいことにチャレンジするきっかけになりました。

すでに国際協力に取り組んでいる方々の支援に加えて、日本で新たに国際協力をやりたいと思った若い人を応援する取り組みをさらに広げていってもいいのではと思います。

岩上:

おっしゃるとおりですね。プロジェクト形成の研修は内容を充実させて継続しています。JICA基金についてはチャレンジ枠を新たに設けて、国際協力の活動実績が2年未満の個人・団体であっても応募できるようにし、非常に多くの方に手を挙げていただいています。

最後に今後のNGOの在り方、JICAとの連携の在り方についてはどのようにお考えでしょうか。

岩附:
SDGsの17番目のゴールは「パートナーシップで目標を達成しよう」ですが、パートナーシップとは、ぐるっと回って自分を知ることなのではと考えています。連携したいと思っても、じゃあ自分がなぜこの相手と連携したいのか、それは何を期待しているのか-それらがクリアなうえでパートナーシップを求めると成立するような気がします。JICAもNGOも、何が自分の強みなのかを含めて、自分を知ることがとても大事だと思います。
山本:
NGOの中では、独自の知見や専門性を生かした国際協力を行おうとしても、なかなか難しいと思っていたり、強みを生かしきれていないと感じたりしている団体もあると思います。多様化する社会課題を解決するには、NGOとJICAがより協力を強めて質の高い支援を打ち出し、国際社会のなかでプレゼンスを上げていくことが必要になっていくと思います。
岩上:
SDGsの達成に向けて、これまでの連携をさらに発展させて、イノベーティブ(革新的)なものをNGOのみなさんと実践していきたいですね。現在JICAは、職員がNGOに入って活動をともにする人事交流制度を検討しています。こういった新しい試みも含めて、5年後、10年後の将来、双方がどういう姿になるか楽しみにしながら連携をしていきたいと思います。

JICA国内事業部 部長 岩上憲三(いわかみ・けんぞう)さん

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岩上憲三さん

JICAにも新たなチャレンジが必要!よりよい連携を目指します(岩上)。

高校の教員、代議士秘書を経て、1994年にJICA入構。国際緊急援助隊事務局に所属し、国内外の災害救援の現場で、日本や海外のNGOとも連携しながら活動する。パプアニューギニア、フィリピンでの駐在経験があり、2019年2月から現職。JICA全体におけるNGO、大学、自治体などとの連携推進役を務めている。

公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会 事務局長 山本英里(やまもと・えり)さん

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山本英里さん

行政ができないことにもNGOは手が届く(山本)

学生時代、アジアが抱える貧困、差別、先住民の問題に衝撃を受け、バックパッカーさながらに現地を見て回る。卒業後、シャンティに就職し、「9.11」後にアフガニスタンでユニセフの活動に参加したほか、アジア各国の教育文化支援、緊急救援の現場で活動。昨年までNGO-JICA協議会のコーディネーターも務めた。

公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会

アジアで子どもたちへの教育支援や緊急支援を行うNGO。1981年、カンボジア難民キャンプで教育・文化支援活動を行うために発足。図書館事業(現地語での絵本の出版、図書館員への研修、常設図書館や移動図書館の運営)のほか、カンボジア、ラオス、アフガニスタンで学校建設事業などに取り組む。

カンボジア・バッタンバン州の公立幼稚園における幼児教育・保育の質改善事業 JICA草の根技術協力事業(地域活性化特別枠)(2016年1月~2019年2月)

「シャンティ」、静岡県、社会福祉法人「天竜厚生会」の3者がJICAの草の根技術協力事業を活用して、カンボジアで日本式の幼児教育・保育の導入に取り組んだ。教員に向けた現地語のテキストも制作。

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認定特定非営利活動法人 ACE(エース)代表/創設者 岩附由香(いわつき・ゆか)さん

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岩附由香さん

NGOの新しいチャレンジを応援する仕組みを(岩附)

学生時代に児童労働の問題を知り、ACEを設立。民間企業や国際機関で働いた幅広い視野をもとに、製菓メーカーとの連携など先進的な取り組みも行い、児童労働撤廃に尽力する。今年、G20サミットの前に行われたC20(市民社会の国際会議)の議長を務め、安倍総理に提言書を手交した。

認定特定非営利活動法人 ACE(エース)

児童労働の撤廃と予防に取り組む国際協力NGO。1997年に岩附さんら学生5人で設立。インドのコットン生産地とガーナのカカオ生産地で危険な労働から子どもたちを守りながら、日本で児童労働の問題を伝える啓発活動のほか、政府や企業への提言活動などに取り組む。ACEは「Action against Child Exploitation(子どもの搾取に反対する行動)」の略。

「スマイル・ガーナ プロジェクト」(2009年2月~現在も継続中)

2008年、JICAの研修がきっかけとなって同プロジェクトが生まれた。危険な児童労働から子どもを保護し、就学を徹底するため、カカオ農家が継続して教育に投資できるよう経営改善・収支向上などに取り組む。製菓メーカーと連携して、児童労働を撤廃した農場産のカカオからチョコレートを作る活動も行う。

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NGOの強みを生かしたい

NGOとJICAは、1998年に設置したNGO-JICA協議会を通して、協働で「NGOの強み」の分析を続けている。現場のニーズを人々の「生活」の視点に立って考え、コミュニティの内側から本音を引き出すことや、現地の文化・慣習・人々の能力に合わせて住民やコミュニティとともに柔軟に協力内容を見直しつつ協力を展開することなどを「草の根技術協力事業案件の質の向上に資する6つの視点」としてまとめている。