中部スラウェシ州の被災地では多くの人が家族や仕事、財産を失った。JICAは、被災者がふだんの生活を取り戻すための活動にも取り組んでいる。
液状化の被害が大きかったシギ県では、仮設住宅のそばに被災者グループが経営する食堂やクリーニング店などが入る中小企業センターを設立し、食器や道具なども貸し出す。こうした活動も被災者と県職員が十数回にわたって住民集会を行い、「仕事をしたい」という声を吸い上げて生まれたものだ。センターに入るグループは被災者から公募し、面接などで選考される。ここで食堂を開く予定のラフマダニさんは「以前は金融系の会社で働いていましたが、料理が好きだし、将来はレストランを開きたい」と意欲的だ。
場所やモノを貸し与えるだけでなく、経営や会計の研修も行う。これには仮設住宅を出た後も自立した生活を送れるようにするねらいがある。グループ単位で活動することは、会話を生み、震災のつらい体験を忘れられる効果もあった。
コミュニティ開発チームリーダーの弘重秀樹さんは「手間がかかるやり方や対話が、結果的にはコミュニティ内の合意形成に寄与するということを、自治体の職員も活動を通じて理解し始めています」と、着実な歩みを実感していた。
震災から約1年、被災地では子どもたちをサッカーや音楽で元気づけるイベントも2019年10月に開催された。JICAはいくえにも折り重なる復興の支援を続けている。
ハリパさんたちのグループでは、JICAの研修でシラス料理の新商品を開発。「津波でシラス加工品を作る道具が全部流されましたが、JICAの支援で新しい道具を買うことができ、私たちもがんばる気力を取り戻しました。グループで活動することで、団結力も収入も増しました」。
ラフマダニさんの食堂などで使う食器や家具などを準備するシギ県の職員とJICAプロジェクトの現地スタッフ。
「津波で船が壊れて漁に出られない漁師がたくさんいましたが、2019年5月にJICAが調査に来たとき『船をどうにかしてほしい』と要望を伝え、20隻の造船に協力を得ることができました。おかげで震災前の生活に戻りつつあります」
被災者がテント生活を送るパル市のバラロア避難所で自作の料理を売っているラフマさんは、3人のグループで活動。以前はザルに紙を敷いて皿にしていたが、JICAから食器や調理器具を支援してもらい、会計の研修も受けた。「支援のおかげでたくさんの料理を作れるようになり、収入も増えました。最近はインターネットで注文を受けて、市場で販売しています」。
同じくバラロア避難所で、アルフィアさんたちのグループはシラーという植物の葉を編んでコースターやランチョンマットなどの雑貨を作っている。商品はパル市内のホテルでも販売されるほど好評だ。「以前は服を作る仕事をしていたのですが、液状化で家を流されて道具を失いました。JICAの研修で雑貨の作り方を教わり、服を作っていた経験を生かして生計を立てています」。
シギ県の仮設住宅で暮らすラフマダニさんは、JICAが設立した中小企業センター(後ろの建物)で食堂を開く予定。オープンが待ちきれず、娘のパリラちゃんとセンターを毎日見に来ている。「震災後、娘をケアする時間を増やしたかったので、仮設住宅のそばで商売できることになってよかったです」。
「シギ県では震災で2,560もの中小企業が被害を受けました。シギ県の予算とJICAの支援で5か所のセンターを設立し、それぞれ3~4のグループに入ってもらう予定です。畑を失った農家の一部にはJICAによる協力で大工の技術研修を行い、震災で壊れた住宅を修理する仕事に就いた人もいます」
「われわれの活動場所は、被災地の中の一部であり、被災地全体や自治体職員全員に直接、影響を与えるものではありません。ただ、対象地域の自治体職員と一緒に活動し、彼らの頑張りを支えることで、彼らを通じて自治体職員全体が良い影響を受け、各自治体が活動を被災地全体に広めていってくれることを期待しています」