救援の最前線、国際緊急援助隊(JDR)

重要なふだんの備え

事前準備

被災地に入ってけが人や病人、被災者のケアを行うJDR医療チーム。
ふだんはどのような取り組みを行い、緊急事態に備えているのか、その一端を紹介する。

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成田倉庫で行われた医療資機材のメンテナンス会。在庫数や動作、使い方などを確認する(メディカル・サプライ班)。

平時の医療チーム

医療チームのメンバーとしてJDR事務局に登録しているのは、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、放射線技師などの医療従事者と、電気、水、食料、廃棄物管理などの後方支援業務を担う物流担当者の、合わせて約1000人。そのうち70人が八つの常設班と三つの課題検討会のメンバーとしてほぼ月1回集まり、いつでも被災地に赴けるように資機材のメンテナンスの実施や技術の検討、派遣用マニュアルの作成、研修訓練の計画・実施などを行っている。

医療チームを支える土台

医療チームを物資面で支えるのがメディカル・サプライ班だ。2か月ごとに2日間にわたるメンテナンス会を行い、膨大な量の医療資機材を維持・管理している。「成田空港近くにある倉庫で衛生材料や医薬品の使用有効期限、医療機器・検査機器の動作確認・充電、梱包の見直しなどを行います」と、メディカル・サプライ班を担当するJDR事務局の幅野由樹子さんは作業の内容を説明する。2019年7月に行ったメンテナンス会では、医療チームのタイプや災害の種類に合わせて、迅速かつ効率的に医療資機材を輸送できるように管理の見直しを行った。「日頃から班員で議論を重ね、試行錯誤しながら資機材の選定や維持管理などを行っています。医療チームを支えるため、さらにしっかりと土台を固めていきます」。

メディカル・サプライ班

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梱包の素材を検討している。

より質の高い医療を提供するために

医療チームは、世界保健機関(WHO)からタイプ1(外来患者への初期医療および巡回診療)とタイプ2(手術および入院機能)、スペシャリストセル(透析機能、外科)、このすべての能力があるチームとして2016年に認証を受け、国際登録されている。たとえばタイプ2として登録された医療チームは、1日あたり外来患者100人以上の診察、大手術7件または小手術15件を行うことができ、ベッド20床以上の病棟機能を有することが求められる。

そこで重要になってくるのが、手順や資機材の検証や被災地での活動のシミュレーションができる定期的な研修と訓練だ。被災地では高度な医療器具を使うが、取扱説明書どおりに使用できるとは限らない。現地で電気や燃料の確保ができない、電圧が違うために使用できないという事態が起きては困る。そこで、実際に負荷のかかった時の消費電力を検証するなど、ふだんから被災地の状況を想定した訓練や新しい技術の導入などの研鑽を積んでいる。仮想の国で地震が発生したという想定で、被災地でのテントや資機材の組み立てから配置、医療チームが持っているすべての機能を使った診療、撤収まで、一連の流れを実働で試す訓練も行われている。

検証・訓練

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診察や手術に使う十字テントを実際に設営し一連の流れを訓練。

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診療テント内での模擬診療の訓練。狭い空間での動線なども確認。

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現場で司令塔的な役割を果たす本部テントでの指揮系統の訓練。

研修や訓練をくり返して備える

各種の研修は年6回ほど実施されている。医療チームに仮登録された隊員に向けた導入研修では、2泊3日をかけてJDRに関する基礎を習得する。「海外での自然災害を想定して、派遣前準備や派遣中の対応などさまざまな場面のシミュレーションを行います。活動地に予定どおりに資機材が届かないときどうすべきかを議論するグループワークもあります。また被災国からの情報の引き出し方、初めて顔を合わせる人同士でコミュニケーションをとり、チームとしてまとまるノウハウなども学びます」と、JDR事務局の鹿島優子さんは研修の内容を語る。

導入研修を修了すると正式な登録者となり、中級研修を受けるとJDRの医療チーム隊員としての派遣が可能になる。その後は中級研修や展開訓練をくり返し受講して、知識や技術などを維持・向上させていく。展開訓練では、実際に被災地で使うテントを設営し、たとえば外来部門と病棟部門といった部門間での連携を訓練する。登録者が登録資格を維持するためには継続的に研修を受けることが要件となっていて、それによってチームの質を維持している。

「被災地への派遣で浮かび上がった課題を抽出・検討し、検証して有効だと判断したものをマニュアルに落とし込み、それに基づいて研修・訓練を行い、次の派遣に生かす。このサイクルを、チーム登録者有志のみなさんと事務局が協働し、つねにくり返していくことで、医療チームが提供する支援の質を高めています」と語るJDR事務局次長の神内圭さん。こうした日々の取り組みが、被災地で最大限の力を発揮できるチームをつくっていく。

研修

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導入研修でのグループワークの様子。

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グループワークでは、実際の状況を想定して対応を議論する。

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JDRのマニュアル。定期的に最新の対応がアップデートされている。

JDR医療チームを構成する八つの常設班と三つの課題検討会

医療チーム

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JDR医療チームを構成する八つの常設班と三つの課題検討会

常設班

  • 診療調整部班
  • パブリックヘルス・モジュール班
  • 診療1班
  • 診療2班
  • メディカル・サプライ班
  • ロジスティクス班
  • EMTイニシアティブ対応班
  • 導入研修班

課題検討会

  • eラーニング課題検討会
  • 産科・新生児・小児課題検討会
  • 輸血 課題検討会