教えて!外務省 知っておきたい国際協力14)

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外務省ODA 広報キャラクター ODAマン ©DLE

大きな災害発生時などに行われる緊急人道支援で、日本は自国の経験や技術を生かしています。

今月のテーマ 緊急人道支援

Q1 緊急人道支援ってなに?

A1 緊急事態またはその直後に人道主義に基づいて行われる支援です。

突然の自然災害や大規模な事故、紛争など緊急事態が起こり、多くの人の命が危険にさらされたとき、人命救助や病気・けがへの対応、人として尊厳を持って過ごせる環境を維持・保護するなどの活動を行うのが緊急人道支援です。

そのなかで国際緊急援助は、緊急事態に見舞われた国や地域が独力で被災者の救援ができないときに、被災国政府などからの要請を受けて行われます。日本は多くの自然災害を通して蓄積してきた経験と技術的なノウハウを生かし、現地で活動する国際機関や他国とも連携して、ニーズに合った的確な支援を心がけています。

近年は紛争による難民も増え、世界中で緊急人道支援の長期化、複雑化が問題となっています。そうした状況のなか、的確な支援を行うことが国際社会の重要な課題となっています。

Q2 日本はどんな国際緊急援助を行っていますか?

A2 人的援助、物的援助、資金援助を組み合わせ、多層的な支援を行っています。

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モザンビークで幼児を診察するJDRの医療チーム。MDSを活用したデータ報告が効率的な支援を可能にした(写真提供:JICA)。

国際緊急援助には、人的援助、物的援助、資金援助の三つの柱があります。

人的援助は、現地で直接支援に携わる人材の派遣です。日本では1970年代後半に医療チームを派遣する国際緊急援助活動が始まりました。1987年に「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」が施行され、現在、国際緊急援助隊「Japan Disaster Relief Team(JDR)」として救助チーム、医療チーム、感染症対策チーム、専門家チーム、自衛隊部隊の派遣が可能です。

物的援助は、テントやスリーピングパッド、浄水器など、被災地で必要とされる援助物資の提供です。資金援助では、被災国政府や国際機関、赤十字へ無償資金を供与します。日本政府は、被災地のニーズに合わせて最大限の効果が発揮されるように、この三つのいずれか、あるいは複数を組み合わせた支援を行っています。

日本が緊急人道支援で培ってきたものが、国際標準になった事例もあります。今年派遣されたモザンビークでは、日本主導で開発され、WHO(世界保健機関)に承認された診療実績データ報告システム「Minimum Data Set(MDS)」が世界で初めて実運用されました(注)。

困難な状況にある国や国民に手を差し伸べる緊急人道支援は、国際社会の一員としての責務。支援を通して相手国およびその国民との間で信頼関係を醸成して二国間関係を強化できますし、外交問題や地域・グローバルな問題の解決につながることも期待されています。

Q3 最近実施された支援はありますか?

A3 コンゴ民主共和国にJDR・感染症対策チームを派遣しました。

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緊急事態で困っている国や国民のニーズに合った支援をするのが緊急人道支援です。

2018年8月から、コンゴ民主共和国東部でエボラウィルス病が流行。同国政府から要請があり、2019年8月19日、外務省員を団長として、感染症の専門家とJICA職員からなるJDR・感染症対策チームを派遣しました。感染拡大を水際で防止するため、流行地からチョポ州の州都キサンガニに向かう幹線道路に検疫ポイントを整備しました。手洗い用のバケツ、肌に触れずに測ることができる体温計などを用意し、流行地から来る人たちに感染の疑いがないかどうかチェックできる態勢にしました。

首都キンシャサとチョポ州では、医療関係者や空港職員、地域の公衆衛生担当者など120名を対象に、エボラウィルス病の診断や拡大防止に必要な感染防護具の着脱方法や体温計の使い方、徹底的な手指洗いの指導などの研修を実施しました。さらに、感染症の個人用防護具などの緊急物資の援助と、5億5,000万円の資金の緊急援助を行いました。

私は2次隊の団長を務め、すべての活動を終えて2019年9月8日に帰国しました。活動中は検疫ポイントの場所がなかなか決まらなかったり、研修の内容や講師が急に変更になったりと想定外の出来事もありましたが、最後には相手国政府の関係者との間で信頼関係を築くことができました。活動終了後には「エボラウィルス病の拡大防止に大きく貢献してくれた」と、コンゴ民主共和国政府から日本の支援に対して謝意が表明されました。

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感染拡大防止に大きな効果がある手指洗いを指導する様子(写真提供:JICA)。

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JDRと現地の関係者が協力して検疫所を開設。検疫機能が増強された(写真提供:JICA)。

国際緊急援助隊派遣レポート at Indonesia(インドネシア)

必要な物資をできるだけ早く、確実に届ける

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インドネシア共和国 首都:ジャカルタ、スラウェシ島

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パルに向かう自衛隊の輸送機に日本の支援物資を積み込む自衛隊部隊(写真提供:防衛省)。

2018年9月28日(現地時間)、インドネシアのスラウェシ島でマグニチュード7.5の地震が発生し、インドネシア政府は2018年10月1日に、国際社会からの支援の受け入れを決定しました。

日本政府は緊急援助物資(テント、浄水器、発電機など)の供与を行うと同時に、現地では被災地に物資を届ける輸送手段が足りないと聞き、JDR・自衛隊部隊の派遣を決めました。自衛隊部隊は、航空自衛隊C-130H輸送機により、2018年10月5日、被災地向け物資の集積地である東カリマンタン州バリクパパン市に到着。翌日から被災地パルへ物資を届け、帰りには被災者を乗せるというピストン輸送をくり返し、C-130H輸送機のべ2機、隊員のべ約70人が、約200トンの支援物資の輸送や被災民および援助関係者約400人の移送などを行いました。

バリクパパンからパルに向けて初めて自衛隊の輸送機が飛んだとき、偶然ですが積み込まれたのは日本から供与された物資でした。日本の国旗とJICAのマークが入った支援物資を日本の輸送機が運ぶという象徴的な光景となりました。

輸送はインドネシア空軍や他国軍と連携しながらの業務で、当初は予定されていたフライト時間が急にキャンセルになったり、逆に突然輸送を依頼されたりと混乱もありました。しかし、関係者が調整を続け、最後にはインドネシア政府のスローガン「Untuk Dharma Palu, Indonesia Bersatu!(パル支援のためにインドネシアは一つに!)」を、輸送に関わるみんなで唱和するまでになりました。その様子はSNSにアップされ、日本を含む国際的な協力が多くのインドネシア人の共感を得ました。

答えてくれた人

外務省 国際協力局 緊急・人道支援課 国際緊急援助官 長谷川 朋範(はせがわ・とものり)さん

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長谷川 朋範さん

1992年外務省入省。欧州局、在ウラジオストク日本国総領事館、在ジョージア日本国大使館などを経て、2018年7月から現職。国際緊急援助隊業務ではインドネシア、モザンビーク、コンゴ民主共和国に派遣される。