成長力と魅力に出会う

旧ユーゴスラビア紛争終結から約20年。
今、西バルカン地域が復興を経て、成長へと転じている。
日本ではあまり知られていない西バルカン6か国の現状と魅力、そしてEU加盟を目標に、国の基盤を整備し、さらなる経済発展を目指す国々と日本との関わりを紹介する。

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西バルカン地域

復興から成長へ

欧州の南東部、トルコとイタリア、オーストリアなどに囲まれたバルカン半島は、昔から民族、宗教、言語などが複雑に絡み合う地域だった。

1989年のベルリンの壁の崩壊をきっかけに、東西冷戦時代に東欧と呼ばれていた地域は市場経済への改革が進んだ。かつての東欧諸国が次々と欧州連合(EU)に加盟するなか、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロの西バルカン5か国は、旧ユーゴスラビア紛争により民主化、市場経済化が遅れるとともに、インフラが弱体化するなど、大きなダメージを受けた。また鎖国体制をとっていたアルバニアは対外開放政策に転じた。そんな西バルカン地域は、紛争終結から約20年を経て、復興から新たな経済成長への力を増してきている。

欧州最後のフロンティア

「西バルカン地域は欧州最後のフロンティアと呼ばれ、今、注目が集まっています」と話すのは日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部の立川雅和さん。同地域は政治・文化・宗教・民族などが多様ながら、人口は約1800万人で市場規模は小さい。そのため、EUに加盟すれば欧州への拠点となり、約5億人の市場への足がかりが生まれるとも捉えられる。「地域的に欧州とのつながりが強いのですが、最近では中国も積極的に進出しています。そのなかでも中立的な立場にある日本が協力先として第三の選択肢となっています」と立川さん。人件費が比較的低く、教育水準も高いため、矢﨑総業(セルビア)や平野マッシュルーム(コソボ)などすでに進出している日本企業もある。

日本との良好な関係

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重厚な街並みと日本との友好のシンボル、黄色いバス(セルビア)。

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効率的なごみ収集で町を美しく(コソボ)。

第2次大戦後、日本は東欧で最初に旧ユーゴスラビアと外交関係を回復し、冷戦時代も対立関係はなく、長年よい関係が続いてきた。旧ユーゴ紛争後も、1990年から西バルカン諸国の復興・開発へ多額の経済協力を行ってきたため親日国が多く、日本の支援への期待も大きい。近年は日本企業の進出を望む声があり、JETROでも日本企業をマッチングするビジネスセミナーを開催している。「西バルカン地域では技術革新や新規分野でのビジネスの立ち上げにも力を入れていますし、JETROでは西バルカン地域のビジネス環境を知っていただくために、いくつかの国に日本から視察ミッションを送っています」と同企画部の小菅宏幸さんは語る。

課題はある。民主主義や法の支配、人権、市場経済、環境基準などが成熟しておらず、支援が必要とされている。欧州を含め同地域の安定は日本にも不可欠であるため、各国の要請を受け、日本も多様なプロジェクトを実施している。西バルカン、欧州、そして世界の安定と、日本にとっては新たな市場の創出が期待されている。

西バルカン諸国

各国のデータは、外務省ウェブサイト、政府開発援助(ODA)国別データ集2018、世界銀行サイト、『バルカンを知るための66章』(柴宜弘 編著、明石書店)より。

ボスニア・ヘルツェゴビナ(Bosnia and Herzegovina)

【画像】国名:ボスニア・ヘルツェゴビナ
首都:サラエボ
人口:353万人
通貨:兌換マルク
言語:ボスニア語、セルビア語、クロアチア語
民族:ボスニア人(ムスリム)、セルビア人、クロアチア人
一人当たりGNI(注1):5,690ドル
おもな輸出品:金属製品、機械類、鉱物・同製品
おもな輸入品:鉱物、機械類、化学製品

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サラエボ交通調査対象のトラム(ボスニア・ヘルツェゴビナ)。

(注1)国民総所得、Gross National Incomeの略。国の豊かさを測る経済指標。居住者が国内外から1年間に得た所得の合計。

セルビア(Republic of Serbia)

【画像】国名:セルビア共和国
首都:ベオグラード
人口:712万人
通貨:ディナール
言語:セルビア語、ハンガリー語など
民族:セルビア人、ハンガリー人、ボスニア人(ムスリム)、ロマ、アルバニア人など
一人当たりGNI:6,390ドル
おもな輸出品:電気機械、自動車、鉄鋼、ゴム製品、非鉄金属
おもな輸入品:石油、自動車・自動車部品、電気・工業機械・機器

コソボ(Republic of Kosovo)

【画像】国名:コソボ共和国
首都:プリシュティナ
人口:180.5万人
通貨:ユーロ
言語:アルバニア語、セルビア語
民族:アルバニア人、セルビア人など
一人当たりGNI:4,230ドル
おもな輸出品:プラスチック・ゴム製品、食料品・飲料・たばこ
おもな輸入品:鉱物製品、機械類・電気機器、食料品・飲料・たばこ

モンテネグロ(Montenegro)

【画像】国名:モンテネグロ
首都:ポドゴリツァ
人口:62万人
通貨:ユーロ
言語:モンテネグロ語、セルビア語など
民族:モンテネグロ人、セルビア人、ボスニア人(ムスリム)など
一人当たりGNI:8,400ドル
おもな輸出品:非鉄金属、鉄鋼、工業用機械
おもな輸入品:自動車、電子機械、石油・石油精製品

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中小企業を支援するメンターの育成(モンテネグロ)。

北マケドニア(Republic of North Macedonia)

【画像】国名:北マケドニア共和国
首都:スコピエ
人口:208万人
通貨:マケドニア・デナル
言語:マケドニア語、アルバニア語
民族:マケドニア人、アルバニア人など
一人当たりGNI:5,450ドル
おもな輸出品:加工品、化学製品、燃料・潤滑油
おもな輸入品:加工品、燃料・潤滑油、一般機械、輸送機器

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治山・森林管理を行う現場を調査(北マケドニア)。

アルバニア(Republic of Albania)

【画像】国名:アルバニア共和国
首都:ティラナ
人口:286万人
通貨:レク
言語:アルバニア語
民族:アルバニア人
一人当たりGNI:4,860ドル
おもな輸出品:繊維、靴、鉱物
おもな輸入品:機械類、食料品・飲料・たばこ、繊維

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国立公園で保護されたハイイロペリカン(アルバニア)。

西バルカン地域の対内直接投資の動向

西バルカン地域への対内直接投資(注2)は、2017年には金融危機前のレベルまで回復。2017年は同地域への投資が拡大し、2018年にはさらに伸びている。

(注2)外国企業からの直接投資

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西バルカン諸国の輸出額

セルビア、北マケドニアの輸出の伸びが著しい。モンテネグロとコソボは、輸出量自体がまだ少ない。

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グラフ出所:ウィーン国際経済研究所データを基にJETRO作成