自然保護と持続可能な利用の両立 アルバニア

アルバニアの今

アルバニアの国立公園では、自然環境を保全しながら、そこに暮らす人々の生活も尊重する、そんな持続可能な公園管理を目指した協力が継続している。

【画像】

ディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園を特徴づけているラグーン。

自然と人間が共生してきた場所です

関係者が多い国立公園の管理

【画像】

ディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園、首都:ティラナ

【画像】

JICA国際協力専門員 阪口法明(さかぐち・のりあき)さん

環境・生態系保全への世界的な取り組みが進むなか、アルバニアは生物多様性を保全するために、新しい国立公園の制定や、すでに制定されている国立公園の拡大・整備に力を入れてきた。そのひとつがディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園だ。同国立公園は国と地方自治体により管理され、海岸とラグーン(注)、そしてこれらをつなぐ水道で昔から漁業を営んでいる人もおり、流れ込む川の流域には農家も多い。一方で、ビーチにはたくさんの観光客が訪れる。そのため関係者も環境、水利、農業、水産業など多岐にわたる。それぞれの利害をうまく調整しながら、生態系を保全して人々の暮らしも向上させる-そんな管理計画が必要とされていた。そこで協力を要請されたのが日本だった。

「アメリカなど多くの国の国立公園は100パーセント国有地で住民はおらず、管理しやすいところが多い。一方で日本の国立公園はアルバニアと同様に国有地と民有地が混在していて、地域住民が国立公園内で生活することから、多くの利害関係者との協働管理を行ってきました。その経験を生かしてほしいという要請があり、アルバニア初の技術協力プロジェクトになりました」と、JICAの国際協力専門員の阪口法明さんは説明する。

(注)外海から砂洲やサンゴ礁で隔てられた浅い水域。砂洲によって湖沼化した地形は潟(かた)、潟湖(せきこ)と呼ばれる。日本では北海道のサロマ湖や秋田県の八郎潟などがその好例。ヨーロッパではフランスの地中海沿岸やイタリアのアドリア海沿岸などで見ることができる。

日本のノウハウで協力

【画像】

ラグーンの海への開口部では伝統的な漁業が行なわれている。

【画像】

公園内で有機農業を営む組合のメンバー。ここではスイカが作られている。

プロジェクトでは、多くの関係者が一緒に国立公園について考える参加型の公園管理計画の策定を目指した。そこで、日本の環境省で長年国立公園管理に携わった青山銀三さんをチーフアドバイザーとして長期にわたりアルバニアへ派遣。公園内を利用の仕方によって四つの区域に分け、それぞれの適切な管理方法について関係者が集まって議論した。

たとえば、公園内では農薬を使わない有機農業を推奨した。使った農薬が川からラグーンに流れ込み生態系を壊してしまわないようにするためで、伝統的なラグーンでの漁業を守ることにもつながる。ほかにも、ラグーンにやってくる野鳥の種類や数を調べるために多くの人を募って野鳥の実態調査を行うこと、観光客が公園の魅力を体験できるエコツーリズムの考え方を取り入れること、学校での環境教育を充実させラグーンの重要性を児童や生徒たちに教えることなど、多くの施策が盛り込まれた国立公園管理計画案を2年半かけて作成した。

2015年には、アルバニア政府によって同計画案をもとにした国立公園管理計画が承認され、管理が始まっている。しかし計画どおりの管理が十分にできなかったため水質は改善せず、関係者が一堂に会して情報共有と調整を行う国立公園管理委員会も開催されていない。そこで実施段階でも助言がほしいという要請に基づき、プロジェクトのフェーズ2に向けた事前詳細調査が2017年に行われた。

調査を担当した阪口さんは、「ラグーンの水質改善、土砂の流入防止、漁業資源の持続可能な利用など、ラムサール条約登録湿地としての自然環境を維持するために管理・運営面でもやらなければいけないことが多々あるとわかりました」と言う。とくに科学的なデータに基づいて湿地の状況を把握し、どのような管理が適切なのかを関係者の間で調整しながら実施していく、生態系を基盤とした統合型管理が必要であると感じている。「公園の自然環境保全と漁業、農業、観光などがともに成立しなければ、持続可能な公園管理はできません。アルバニアの関係者の間にはプロジェクトを通じてそうした意識が芽生えているので、今後はそれをさらに発展させ、適切な管理に向けて協力を進めます」。

ディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園

【画像】

ディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園管理事務所長のアルディアン・コチさん(右)と保護されたハイイロペリカンのジョニー。後方にあるのが管理事務所。

2007年に国立公園に制定。アドリア海沿岸の河口からラグーン、砂丘、その背後の森林(地中海松)と生態系は変化に富んでいる。カラヴァスタ・ラグーンは、1994年、湿地保存に関する国際条約であるラムサール条約の登録湿地となった。絶滅危惧種のハイイロペリカンの生息地でもある。

アルバニア共和国(Republic of Albania)

【画像】国土面積は四国の約1.5倍。その約3分の2は山岳あるいは丘陵地帯で、残りは沿岸部の海岸と肥沃な平野。生物多様性条約を批准し、2000年に生物多様性国家戦略および行動計画を策定。その目標に従い、保護区面積を国土の5.8%(2000年)から13.17%(2010年)に増やしている。