“文明の十字路”バルカンを知る

平和を取り戻した西バルカンの国々は観光開発に力を入れている。
各国政府からの要請を受けて「広域観光アドバイザー」を務めた牧野貴彦さんに、この地域の魅力を巡るルートを教えてもらった。

情報提供:朝日旅行

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観光開発の専門家が解説!

さまざまな見どころ

"文明の十字路"と呼ばれるバルカン地域には、遺跡や景勝地などの観光資源が豊富に存在している。「古代ギリシャ帝国、ローマ帝国、オスマン・トルコ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国など、この地域は数々の異なる王権に支配されてきたため、東西の文化が混在した独特の雰囲気が漂っています」と話すのは、西バルカン地域の観光開発に携わってきたJICA専門家の牧野貴彦さん。「食文化を例にとっても、スラブ系民族の食文化や地中海・小アジア地域の影響が混じり合った、この地域ならではの料理がたくさんあります。古代ギリシャの時代から続くワイン造りも盛んで、たとえばモンテネグロのヴラナッツなど自生種を使った銘酒は美味。バルカン地域は"グルメ旅"にもおすすめできます」。

手つかずの自然もバルカン地域の魅力だ。「リゾート地として世界的な人気を得るアドリア海の島々や海岸線、渓谷や山峰の雄大な景色、そして"美しく青きドナウ"。ハイキングやウィンタースポーツを楽しめる国定公園もあり、アウトドア派も大満足の旅ができるはずです」。バルカン地域の美しい自然は、平和な時代の象徴でもある。EU加盟を目指す国々が環境保護の国際化を進めるなか、ドナウ川保護協定などの国境を超えたプログラムが、歴史的に対立していた国々の橋渡し役になることもあった。

さまざまな顔を併せ持つバルカン地域は今、"次の目的地"として世界中から注目を集めつつある。しかし、2016年の日本人の海外旅行者数1700万人のうち、バルカン地域を訪れたのはわずか2万人あまりだったというからその魅力が日本に十分に伝わっているとは言いがたい。本格的なブームが到来する前に、そのユニークな魅力を先取りしておきたい。

エキゾチックな古都

1.ボスニア・ヘルツェゴビナ/モスタル

首都サラエボの南西約70キロメートル、異国情緒たっぷりの古都モスタルは、オスマン・トルコ帝国の国境の町として栄えたヘルツェゴビナ地方最大の都市。町のシンボルであるアーチ型の石橋は1990年代の紛争によってトルコ風の町並みともども破壊されたが、2004年にユネスコの協力で修復・再建され、翌年に世界遺産に登録された。

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平和の象徴。

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バルカン地域のオーブン料理。

秘境アウトドア体験

2.モンテネグロ/ドゥルミトル国立公園

樹齢数百年を超えるモミやネズの原生林が広がる"ヨーロッパ最後の秘境"。390平方キロメートルにおよぶ大自然に2,000メートルを超える山々が48峰もあり、氷河がつくり出したダイナミックな眺望を求めて多くの観光客が訪れる。全長93キロメートル、深さは最大で1,300メートルにも達するタラ渓谷では、絶景に囲まれながらラフティングや川遊びを楽しめる。

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絶景を満喫!

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モンテネグロの銘酒、「ヴラナッツ」と料理。

オスマン・トルコ帝国の遺産

3.アルバニア/ベラト

オスマン・トルコ帝国時代に建てられた石造りの家々が山の斜面を覆う世界遺産の町。町の起源は紀元前4世紀まで遡り、その独特の景観から"千の窓の町"や"2,400歳の博物館"と呼ばれている。ベラト城内には東ローマ帝国時代の遺跡や教会があり、今でも100人近い人が住んでいる。時が止まったような歴史の重みを感じられる。

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世界遺産の町。

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アルバニアの民族衣装。

信仰が息づく童話のような町

4.北マケドニア/オフリド

新約聖書の一部が書かれたとされる北マケドニア。その"古代都市"オフリドには初期キリスト教の遺跡や墓所があり、365もの教会が点在する。オフリド湖のビーチでは地中海性の温暖な気候のなかで湖水浴が楽しめ、湖で捕れるマスは特においしいと評判だとか。城塞や伝統的な家屋が建ち並ぶ石畳の街路など見どころが多い。

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世界遺産の町。

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北マケドニアの伝統鉄細工「フィリグリー」。

フレンドリーなコソボを体験

5.コソボ/プリシュティナ

首都プリシュティナは東ローマ帝国時代の6世紀に交易都市として発展した。新旧入り交じる町なかにはモスクと教会がともに建ち並び、前衛的なデザインが目を引く国立図書館や人々でにぎわうマーケット、オスマン・トルコ帝国時代の旧市街など魅力が満載。町を歩けば現地の人たちが人懐っこい笑顔を向けてくれるだろう。

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セルビア王朝ゆかりの地

6.セルビア/トポラ

1804年、カラジョルジェはこの小さな町でオスマン・トルコ帝国への最初の反乱を起こした。丘の上のオプレナツ教会は後にセルビア王家となったカラジョルジェ家を祀っており、豪華な霊廟や精巧なモザイク画が有名。裏には王家のブドウ園があり、ワインを生産している。のどかな景色と王家のワインを楽しみながら、興亡の歴史に思いを馳せるのもよい。

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トポラ:Emiliya Radeva / Shutterstock.com

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セルビアの民族衣装。

バルカン室内管弦楽団-民族共栄のハーモニー

【画像】日本人指揮者の柳澤寿男さんは、バルカン半島の民族共栄を願って2007年にバルカン室内管弦楽団を設立。多民族からなるメンバーは初めあいさつすらままならなかったが、音楽を通じて心を通わせられるようになっていったという。現在まで、影響力を拡大しながら世界各地で精力的に公演し、ここ数年は来日公演も行っている。平和への祈りが込められたその演奏を、国内でも鑑賞可能だ。

JICA専門家 牧野貴彦(まきの・たかひこ)さん

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牧野貴彦さん

持続可能な観光振興の仕組みづくりを、日本の観光地の運営方法の紹介や観光客誘致のためのプレスツアーの実施、プロモーション戦略の策定などを通じて支援してきました。魅力いっぱいのバルカンへ、ぜひ遊びに来てください。