マルチセクトラルな取り組み

食の大切さを共有し、広める マダガスカル

保健、農業・食料、教育

栄養改善には日ごろから良い食生活を送ることが重要だ。
子どもたちの発育阻害の減少や、就学率の向上などを目指して進められている。

文:松井健太郎

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2歳未満の子どもをもつ母親たちから、家庭での食生活および子どものケア、栄養に対する意識の聞き取りを行う。結果をもとに啓発活動に取り組む予定。

多彩なアプローチで相乗効果を

相乗効果を生む栄養改善の取り組みを

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栄養改善には住民全体の行動変容も重要。コミュニティの代表者と課題を話し合う。

マダガスカルでは、5歳未満児の発育阻害(おもに慢性栄養不良による低身長)の比率が49.2パーセントと世界で5番目に高い。この傾向は過去20年以上も続き、栄養不良は深刻な課題となっていることからJICAは、2019年3月から栄養改善に向けたプロジェクトを始めている。対象地は8割の住民が農業を営む中央高地地帯。農家の所得向上の方法を探り、増えた所得を栄養価の高い食物の購入に充ててもらうことや、家庭菜園を普及して食事の栄養バランスを改善することなどを目指している。現在は、農家の収入や食事、家庭菜園の栽培状況などの調査・分析が行われている。

さらに、このプロジェクトの特徴は多くの機関と協働することにもあり、相手国のプロジェクト実施機関である国家栄養局、農業省および保健省のほか、世界銀行の栄養改善支援とも連携している。世界銀行の支援によって栄養ボランティアが子どもの食事や衛生環境の改善を母親たちにレクチャーしているのと同じ地域で、JICAは家庭菜園や農業所得向上を支援するとともに、栄養価の高い食事をとることの重要性などを伝えている。「異なるアプローチを協調的に組み合わせていくことで、相乗効果を生み出すのがねらいです」と、農村開発部の稲田勇次さんは語る。

学校給食を教育と栄養改善に役立てる

子どもたちへの愛情をもとに提供される学校給食

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学校の調理施設で給食を作る。食材は近隣農家からの提供や、寄付金で購入する。

マダガスカルでは子どもの教育環境改善を目指した"みんなの学校"プロジェクトの中で、給食を通じて栄養改善に貢献している。小学校に通う子どもたちの保護者や地域住民たちが、学校や行政の協力を得ながら自主的に給食を作って子どもたちに提供している。実はマダガスカルでは学校給食の供給が安定しておらず、空腹により子どもが授業中に集中力をなくしてしまうことがあった。いったん昼食を食べに帰宅した子どもが学校に戻ってこないこともあるため、学校で十分な栄養をとってもらおうというねらいがある。

このプロジェクトでは地域住民と学校、行政の3者が協力する枠組みづくりをJICAが後押ししている。給食を通じた栄養改善の場合は、住民集会で選ばれた代表が給食委員会を設立し、自分たちで学校給食を提供するために必要な貢献について意見を出し合う。食材の調達から調理室、調理器具の用意、薪の準備、調理人への謝金支払いなどを行なっており、それに学校と行政も協力している。年に数回開催される給食委員会の報告会では、給食の大切さを広く地域住民と話し合い、寄付や米などの食材を募り継続的な協力を確保している。

「コミュニティのみなさんがもともと抱いていた地域の子どもたちへの愛情や期待が、"みんなの学校"や給食活動の源になっています」と国際協力専門員の國枝信宏さん。

2017年から始まった給食活動は、現在国内の59校で実施され、平均で年間約30日分を賄うまでに成長している。

JICAは、2016年に開催された第6回アフリカ開発会議において、「食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)(注)」の立ち上げを主導し、各国・機関とともに取り組んでいる。前述の稲田さんは最後に次のように話した。「マダガスカルをはじめ各国で、栄養改善に多分野から取り組む体制の構築が進んでいます。すでに"みんなの学校"のように着実に成果を上げている活動との連携も含めて、よりよい栄養改善を進めたいと考えています」。

(注)Initiative for Food and Nutrition Security in Africa。アフリカ諸国と支援機関が連携を深めて栄養改善に向けた目標を定め、その達成を目指すこと。

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この日はキャッサバ(芋の一種)のスープ。「給食があるとうれしい」と、学校に行くきっかけにもなる。

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給食委員による報告会。子どもを学校に通わせる親はもちろん、地域の住民も対象に活動の内容を伝える。

青年海外協力隊員が考案した"買い物すごろく"

【画像】「予算内で選び、購入する」という適切な消費活動を身につけるための"買い物すごろく"。家計研修のために発案されたものだが、栄養バランスを考えて食材を選ぶ習慣も身につけてもらおうと、より多くの栄養素を集めたプレイヤーが勝ちというルールが追加された。研修の参加者は遊びながら栄養素について話し合い、多様な栄養素を摂取する大切さを楽しく学んだ。

発案者は青年海外協力隊のコミュニティ開発隊員として派遣されていた梅永優衣さん。栄養素を色分けしたことで、「何と何が同じ栄養素か」と農家の方々が話し合う場が多く見られたのがうれしかったとふり返る。

マダガスカル

【画像】国名:マダガスカル共和国
通貨:アリアリ
人口:2,626万人(2018年、世界銀行)
公用語:マダガスカル語、フランス語

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首都:アンタナナリボ

アフリカ大陸の東海岸から約400km離れた島国で、面積は日本の約1.6倍。労働人口の約74%が農業に従事するものの、低い農業生産性やインフラの未整備により、農業がGDPに占める割合は約24%にとどまる(2016年、EIU)。