マルチセクトラルな取り組み

水環境の改善と農業・保健分野が連携 モザンビーク

保健、農業・食料、水・衛生

モザンビーク北部のニアッサ州では、安全な水を安定して供給するためのJICAの協力が継続している。
そのニアッサ州で保健、農業分野でのプロジェクトを同時に進め、包括的に栄養改善に取り組む動きが始まっている。

【画像】

【After】技術協力で建設したハンドポンプ付深井戸給水施設。安全な水が楽に手に入るようになった。

安全な水を届ける継続的な協力

【画像】

【Before】村で使われていた水汲み場で水を汲む少女。

【画像】

村落内では衛生啓発活動も行った。

モザンビーク政府は2010年に「国家村落給水・衛生プログラム」を策定し、2015年までに全国給水率70パーセント達成という目標を掲げていた。しかし実現することはかなわず、地方部は42パーセント、とくに北部に位置するニアッサ州は37パーセントと全国で最も低い水準にとどまり、2015年からの政府5カ年計画でも重点地域に選定された。

給水率が上がらない理由の一つは、施設の運営・維持管理能力の不足だ。そこでJICAは2013年から、ニアッサ州村落部でのハンドポンプ付き井戸の建設と運営・維持管理体制の構築を支援した。

プロジェクトの実施を請け負った日本テクノのチームリーダー、横木昭一さんは次のように語る。「調査では故障しているハンドポンプ給水施設が多いことが判明。村の人たちはスペアの部品を買うために1日かけて州都のリシンガまで行っていました。そこで、近くで部品が買える仕組みをつくったほか、修理技師の育成、相手国機関のモニタリング体制の整備、また小学校での改良型トイレ建設と教師・生徒へのトイレの適切な使い方の講習などを行い、水・衛生環境の改善を行いました」。

現在準備中の無償資金協力プロジェクトでは、四つの郡都で都市部で取り入れられている管路給水システム(井戸から汲み上げた水を高架タンクに溜め、公共水栓や各家庭の屋外水栓まで水道管で給水するシステム)を新たに導入し、村落部ではハンドポンプを四つの郡に25基ずつ導入する。「安全な水を使うことができる人を増やしていきたい」と、この準備調査も担当する横木さんは語る。

日本テクノ 取締役副社長 横木昭一(よこぎ・しょういち)さん

【画像】

横木昭一さん(写真右)

日本テクノは1976年の設立以来、水分野の開発コンサルタントとして途上国の地方給水、衛生改善、上下水道の整備、技術協力プロジェクトに貢献してきた。「ハンドポンプの水を活用したレンガ作りや畑作りに取り組んでいる村もあるので、今回のプロジェクトでは意識して農業分野の人たちと協力していきたい」。

三つの分野が連携し栄養不良の改善へ

【画像】

調査では、乳児の身長を測定し栄養状態を確認した。

【画像】

子どもたちに貧血がないかをキットを使って検査した。

この水・衛生分野のプロジェクトは、農業分野、保健分野の技術協力も加わって、JICAがニアッサ州で母子慢性栄養不良の改善に取り組むプログラムの一部だ。「JICAが『食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)』でとくに推奨してきたのが、複数の分野が同時期に同一地域で取り組むこと。ニアッサ州のプロジェクトもその一環です」と、JICA農村開発部の松野下稔さんは語る。

2019年は合同の現状調査が行われ、上図のように各分野での具体的な取り組みを固めつつあり、ハンドポンプを設置する二つの郡のいくつかの村では、保健チーム・農業チームと協力して活動を行うように調整している。

水・衛生分野の協力を行ってきた日本テクノにとって、栄養改善は知らないことが多い分野だ。2019年11月にJICAが開催した能力強化研修「栄養改善人材養成」に参加した同社の岡根史佳さんは、「水や衛生環境が改善されると下痢などの疾患が減り、食事の栄養がしっかりとれること、さらに栄養バランスのよい食事や不足しがちな野菜の栽培の推奨など、農業や保健分野と一緒に取り組むことで栄養改善の効果が上がることが理解できました」と語る。

横木さんも「ドナーが建設したハンドポンプ給水施設が壊れても修理せずに、川などに不衛生な水を汲みに行ってしまうリスクがあります。しかし三つの分野が同時に取り組むことで、安全な水が子どもたちの栄養状態に貢献することを村の人たちに伝えられます。そうすれば井戸を修理して使おうという気持ちがふくらみ、施設の持続的利用につながるでしょう」と、水事業へのよい影響にも期待する。

「こうした協力は、多分野での支援に基づく知見や人脈があるJICAの力が生かせるところ。三つの分野が同時に協力できれば大きなインパクトになるはずです。2019年9月からは、現地に栄養改善を分野横断的に推進する専門家も派遣されており、各分野のプロジェクトの調整を行う予定です。プログラムはこれからが本番です」と松野下さんは気を引き締めている。

日本テクノ 技術本部プランニング部 課長補佐 岡根史佳(おかね・ふみか)さん

【画像】

岡根史佳さん(写真左から2人目)

ハンドポンプのスペアパーツ流通体制を構築し、郡職員がモニタリングできるように在庫管理の指導を行う岡根さん。「安全な水の適切な利用や衛生的な環境がなぜ栄養改善につながるのかも、現場でしっかりと伝えていきます」。

ニアッサ州での取り組み

ニアッサ州で行われるマルチセクトラルプログラムの概要。母子慢性栄養不良の改善という大きな目標に向かい、水・衛生、保健、農業の三つの分野がそれぞれにプロジェクトを実施すると同時に連携を図っていく。

【画像】

ニアッサ州で行われるマルチセクトラルプログラムの概要。

モザンビーク

【画像】国名:モザンビーク共和国
通貨:メティカル
人口:2,949万人(2018年、世界銀行)
公用語:ポルトガル語

【画像】

首都:マプト

1992年に16年間続いた内戦が終結し、2000年以降の経済成長率は年6%以上と着実に成長を続けている。一方、内戦により基礎的なインフラが荒廃し、その修復、整備が追いついていない現状がある。村落給水および衛生状況も周辺諸国と比較して低い水準にある。