マルチセクトラルな取り組み

“ヘルシービレッジ”で生活習慣病を予防 ソロモン

保健

ソロモン諸島では、生活様式や社会環境の変化により生活習慣病が急激に増加している。
JICAは村を拠点とする健康推進員の育成を通じて、人々の健康への意識を高め、行動と環境を変えるための活動を支援している。

文:光石達哉

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村人の中から育成された健康推進員が、食材の特性や栄養バランスのとり方などを説明。日曜日の教会の礼拝や村の集会などの人が集る機会に啓発する。

村人の生活を変える健康推進員を育成

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村の環境整備や一斉掃除を通じて区画整理も進んだ。住環境を清潔に保つことがマラリアや下痢などの感染症の蔓延を防ぎ、栄養不良の改善にもつながる。

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村の健康推進員の研修は、保健省の地方職員が担う。身体測定も健康推進員の重要な仕事の一つ。

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身体測定。

気候もよく、海の幸、山の幸など豊富な食材に恵まれたソロモン諸島。人々はかつて、とれたての農産物や栄養価が高くバランスのいい伝統料理を食べていた。100歳を過ぎて健康に生きる人も少なくなかったという。

しかし、現在の平均寿命は70歳前後まで短くなっている。1980年代ごろから米、小麦、砂糖、塩、インスタント麺、スナック菓子など、そもそもソロモン諸島にはなかった原料や加工食品の輸入が増えた。これらの食材は、地方でも入手しやすく、そこそこ廉価で調理も簡単なことから食生活の中心となっていった。その結果、国民の59パーセントが太りすぎまたは肥満水準となり、全死亡の6割を心血管疾患や糖尿病などの生活習慣病が占めるようになった。さらに、偏った栄養の食生活によって子どもの低身長、母親の貧血などの低栄養も問題になった。マラリアの罹患率が高い地域もあり、ソロモン諸島政府は生活習慣病とマラリアの二重の負荷を国の最重要課題と位置づけている。だが、地方住民が8割を占め、公的な保健医療サービスが十分に行き届かないソロモン諸島の事情が対策を難しくしている。

そこで、ソロモン諸島保健省とJICAは「ヘルシービレッジ推進プロジェクト」を、ガダルカナル州とマキラウラワ州の15の村でスタート。おもな活動は、村民の中からボランティアの健康推進員を育成し、これら推進員による村民の健康啓発や村主体の活動の先導を通じて、疾病予防と健康増進を促すことだ。

ガダルカナル州フラヴ村で健康推進員を務めるデンシアさんは「プロジェクトの研修を受けて多くのことを学び、それをもとに村人たちを啓発することができました。以前はどの家庭も偏った食事をしていましたが、今は炭水化物、タンパク質、ビタミンをバランスよくとる人たちが増え、実際に村の数人は血糖値が下がりました」と喜ぶ。ふだんの食事に野菜を取り入れるため、家の周りに家庭菜園を作ることも勧めている。

デンシアさんは「農作物を育てている畑は村のはずれにあるため、歩いて往復するだけで数時間かかります。家庭菜園を始めることで野菜や果物を手軽にとれるようになりました」と説明した。

健康推進員は各村に2~5人いて、1人あたり20~30世帯と目の届く範囲を担当している。村の清掃活動でも先頭に立ち、「ゴミ捨て場を決める」「豚は豚小屋で飼う」など村の規則作りも進めている。清潔な環境を保つことで下痢やマラリアなどの感染を食い止め、結果的に病気による栄養不良を防ぐこともできる。

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家庭菜園ではネギ、漢方薬にも使われるサイシン、トロロアオイなどを栽培している。村民は以前よりも手軽に野菜を摂取できるようになった。

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トロロアオイ。トロロアオイはソロモン諸島を代表する野菜だ。おひたしにしたり炒めたり、またはココナツミルク煮など調理法はさまざま。

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輸入食材による近代食。近年のソロモン諸島で少なからず見る、ご飯の上にインスタント麺をかけただけの食事。炭水化物の過剰摂取は生活習慣病の主要因の一つ。

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先祖の伝える健康食へ。栄養改善の指導では、栄養価が高くバランスのいい伝統料理の復活を促す。野菜、イモ類、魚などをココナツミルクで調理する。

フラヴ村健康推進員 デンシアさん

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デンシアさん

プロジェクトを通じて得た情報により、村人が食事の栄養バランスを考えて食べるようになりました。また日々の清掃をうながし、毎週水曜の一斉掃除によって村がきれいになりました。近くの村の人たちが、「どうしたらこのような美しい村にできるのか」と聞きに来ることもあります。

村だけでなく学校や市場の環境も改善

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デンシアさんと話すJICAチーフアドバイザーの橋本謙さん。「村人には、大盛の米飯に少しのおかずといった食事から野菜の摂取を増やしたり、米飯を減らしたりと、少しずつ食生活に変化は表れています。時間はかかりますが、これを広げていきたいです」と話す。

ソロモン諸島政府は、ヘルシーアイランド(島)を実現する手段として、ヘルシーセッティングと呼ばれる健康推進の包括的な施策を手掛けている。この中にはヘルシービレッジのほかに、ヘルシースクール(学校)、ヘルシーマーケット(市場)、ヘルシーワークプレイス(職場)といった活動も含まれる。

たとえば、学校では給食を加工品から栄養価の高い地元の食材に替えたり、トイレや手洗い場を設置したりする。市場ではタバコの販売を制限したり、魚などの生ものと青果物の売り場を分けることなどを進める。

JICAチーフアドバイザーの橋本謙さんは「村をきれいにすることに加えて、学校や市場など人が集まるところの環境も整えていくことが大切。そうなると保健省の管轄範囲を超えるので、農業省、教育省、女性子供省、商業省などの関係省庁を含めた国家委員会を設置し、話し合いを進めています」と、さまざまな場での取り組みであることを強調する。

「人々が病気をせず、健康に過ごせる生活習慣や環境を整える活動に包括的に取り組んでいきたい」と橋本さんは話す。

ソロモン

【画像】国名:ソロモン諸島
通貨:ソロモン・ドル
人口:約65万人(2018年、世界銀行)
公用語:英語

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首都:ホニアラ

開発予算の約6割を国際的な支援に依存しており、木材の輸出等に頼る経済構造を改善して、自立策を見出すことが急務となっている。日本はJICAを通じ、インフラ整備、日本企業の活動、経済発展に伴う負の影響の軽減などを支援している。