民間連携・市民参加の取り組み

日本の技術で食事療法を広げる フィリピン

保健、農業・食料

肥満とともに慢性腎臓病患者が増加傾向にあるフィリピン。
日本の企業が、現地機関やスタッフと連携しながら独自の技術でこの課題に取り組む。

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現地スタッフに低たんぱく米の品質検査方法を指導するバイオテックジャパン社員(写真左)。

慢性腎臓病患者に低たんぱくの食事療法を

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現地法人で、低たんぱく米の全工程の加工製造を行っている。

「フィリピンは日本と同じ、米食文化があるところ。私たちが日本で培った技術が受け入れてもらえると思い、飛び込みました。そのきっかけの一つがJICAです」とふり返るのは、バイオテックジャパン代表・江川穰さん。日本のなかでも米どころとして知られる新潟に本社を置く同社は、低たんぱく米の製造販売で国内トップシェアを誇る。低たんぱく米は、たんぱく質の含有量が通常の米よりも低くなるように加工してあり腎臓への負担が少ないため、腎臓に疾患を抱える人たちに食されている。

フィリピンでの一人あたりの米の消費量は日本の約2倍といわれている。近年は、経済成長とともに肥満からの慢性腎臓病患者や糖尿病患者の増加が問題になっている。腎臓病の場合、重症者は透析治療を受けることが望ましいが、フィリピンでは高額のために受けることができず、死に至る病ともなりうる。そのため、病気の進行を食い止めるにはたんぱく質摂取を抑える食事療法が有効だ。しかし、病院にある食事療法のガイドラインは情報が古かったり、一般人にわかりにくい内容であったりすることが原因で、国民へ十分に普及していない状況が長く続いていた。

こうした背景を知った同社は、2014年にJICAの中小企業海外展開支援事業(現在の、中小企業・SDGsビジネス支援事業)に応募。採択されたことで2015年4月には現地法人を設立し、翌年から事業を開始した。

現地の味覚に合わせて商品を開発

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事業で開発された真空パックの「ECHIGO」(写真左)と、30%カロリーオフなど一般流通用の後続商品。

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食事療法ガイドブックと約100種の料理が載ったレシピブック。

事業でまず取り組んだのは、フィリピン国民の味覚に合わせた低たんぱく米の開発だ。フィリピンの主食米は、長粒種。日本のように水分を多く含む粘り気のあるものではなく、パラパラとした食感が好まれる。低たんぱく加工米製造装置を設置したフィリピン稲研究所で、およそ3か月間、何度も試作をくり返した。

「米はもともと調理で味付けするものではないため、ごまかしが利きません。稲研究所の職員たちにも食べてもらい、彼らの意見も反映させながら作っていきました。最初のころは、『粘り気が多すぎて、おいしくない』といったダメ出しもしばしばあり苦労しましたが、最終的にはおいしいと納得してもらえるものができました」と、開発担当の鶴巻勇太さんは語る。開発を始めて約半年後、「ECHIGO」と名づけられた低たんぱく米が完成した。

出来た商品を現地の人が必要だと感じ、さらにおいしく食べてもらうためにはどうすればいいのか。そこで開発と併せて進めたのが、フィリピン初となる慢性腎臓病患者向け食事療法の本格的なガイドブックと、低たんぱく食レシピブックの制作だ。「フィリピン国立食品栄養研究所と協力しながら、患者さんが自分で使って続けられるように細部まで配慮しました。日本でもここまで内容が充実したものはないと思います。商品とこうしたツールがセットで作れたことが大きな成果だと思います」と、管理栄養士でもある同社の山口正樹さんは胸を張る。

現在、ECHIGOはおもに病院で提供されているが、取り扱うところも増えているという。同社は、いまも月に一度は現地の病院に赴いて腎臓病の専門医を招いた低たんぱく食の食事会を行い、食事療法の必要性を伝え続けるなどして普及に努め、手応えを少しずつ感じはじめている。

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医師・栄養士向けの食事療法紹介・事業報告会の様子。

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フィリピン稲研究所で事業進捗について打ち合わせを行う江川さん(写真手前)。

バイオテックジャパン 江川 穰(えがわ・じょう)さん

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江川 穰さん

バイオテックジャパンは、1994年の設立。植物性乳酸菌による発酵技術を開発し、その技術を使った低たんぱく米を製造販売している。「腎臓病は命に関わる病気です。フィリピンの人たちの栄養改善にこれからも貢献していきたいと思っています」。

フィリピン

【画像】国名:フィリピン共和国
通貨:フィリピン・ペソ
人口:約1億98万人(2015年、フィリピン国勢調査)
公用語:フィリピノ語および英語

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首都:マニラ

国土面積は日本の約8割となる約299平方キロメートル。7,109もの島で構成されている。近年になって東南アジア10か国からなる東南アジア諸国連合(ASEAN)のなかでもトップクラスの経済成長率を見せている。