権利を守る法や制度を作る Case1
アジア太平洋地域やアフリカ諸国などの途上国で警察官、裁判官、検察官といった人々が集まり、日本や諸外国の刑事司法の仕組みについて学ぶ研修機関が日本にある。
犯罪を防ぐための法律の整備をはじめ、犯罪者に対して適切な刑罰を科したり更生に導いたりするのが刑事司法の役割だ。しかし、途上国の中には治安が悪く、汚職や贈収賄の横行によって刑事司法がほとんど成り立たない地域がいまもある。そのような状況を変えようと国連と日本によってつくられた機関が、国連アジア極東犯罪防止研修所(以下、UNAFEI/ユナフェイ)だ。
UNAFEIはJICAのパートナーとして、途上国の警察官、裁判官、検察官、刑務所職員、保護観察官といった刑事司法に関する仕事に就く職員に向けた5~6週間にわたる課題別研修の実施を担っている。日本や諸外国の専門家から刑事司法における知見を学び、それを母国で生かしてもらうことが目的だ。研修は1962年に初めて開催してから計200回ほど実施されており、これまでの参加国は139か国、同窓生はのべ6000人に上る。
研修は、春に行われる刑事司法(捜査、訴追、裁判および国際協力)研修と秋に行われる犯罪者処遇(矯正保護)研修、犯罪防止および刑事司法(高官セミナー)研修、汚職対策(刑事司法)研修の四つ。高官セミナーは、各国の所属機関で高いポジションにある幹部や幹部候補生が参加するため、刑事司法に関する政策課題にどのように立ち向かい、政策を立案していくかという点に力を入れている。「この四つの研修の中でも汚職問題を取り上げる汚職対策研修は参加希望国が多く、各国の関心の高さを感じます。言い換えれば、それほど汚職が深刻な問題になっているということでもあります」と、UNAFEIで教官を務める森川武嗣さんは実情を語る。
これら研修・セミナーのプログラムは、参加者による各国の犯罪情勢や刑事司法制度の発表、国内外の専門家による講義、刑事司法関係機関の見学を含む地方視察、与えられたテーマについて意見を交わし合うグループワークショップやディスカッションで構成されている。
刑事司法の職務経歴がある日本人の教官や事務官がプログラムの設定と運営を行っており、現場での経験が生かされているという。「治安がいい国の人たちばかりが参加しているわけではないので、どうして日本の治安がいいのかを、実際に滞在するなかで体感してもらうこともとても大切だと思っています」。
JICAは、各国が一堂に会して行う研修以外に、刑事司法分野における日本の知見を得たいという要請のあった国に対して技術協力を行う際にも、UNAFEIと力を合わせている。これまでにベトナムや、フランス語圏のアフリカ諸国への刑事司法分野の協力を行ってきた。このような国別に組み立てる研修では、テーマや参加者の数、期間などは各地域が持つ刑事司法の課題に基づいて調整を行い決めていく。UNAFEIの職員が要請のあった国に出向いてセミナーを開くこともあれば、逆に日本に招いて施設の視察等を行うこともある。
ほかにも、UNAFEIは2020年4月に京都で開催される国際会議(注)にも積極的に企画・運営に参加しており、再犯防止をテーマとするワークショップを行う予定だ。「われわれが行っていることは、橋や水道を造るというわかりやすい国際協力の形ではないかもしれませんが、これからも刑事司法における縁の下の力持ちとして役立っていきたいと思っています」と胸を張る森川さん。長い時間をかけて培ってきたUNAFEIの活動が、刑事司法の明日をつくっている。
United Nations Asia and Far-East Institute for the Prevention of Crime and the Treatment of Offenders の頭文字を取ってUNAFEI、またはアジ研と呼ばれる。1962年に設立された、アジア諸国の犯罪防止と犯罪者の処遇について協議するための国際研修機関。国連と日本政府によって運営されており、本部は東京・昭島市にある。
2019年からUNAFEIで教官を務める。「研修に参加していた人が自分の国に戻ったあとに実績を積んで、今度は刑事司法の専門家として研修に招かれることもあり、感慨深いです」。