権利を守る法や制度を作る Case2

人々が安心できる社会を築く刑事司法へ 仏語圏アフリカ7か国

JICAは仏語圏アフリカ諸国に対して、刑事司法分野の能力向上のための研修を実施してきた。2020年からは、国境を超えたつながりを目指して研修が始まっている。

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仏語圏アフリカ7か国がともに取り組む

西アフリカ社会の安定のために

研修で刑事司法の能力向上

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日本の刑事司法制度を興味深く学ぶ研修員。

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コートジボワールの科学捜査研究所で、偽造書類を特定する部署を視察。

刑事司法とは、適切な手続きに則し、捜査や公判で事件の真相を明らかにし、罪を犯した人に刑法に基づいて適切な刑罰を科し、人々の生活の安全を守ること。警察、検察官および裁判官がそれぞれの職務を適切に行い、ときには連携することで、刑事司法がよりよく機能し、誰もが安心して暮らせる社会が築かれる。

しかし法律や仕組みがあっても犯罪が適切に処罰されなかったり、不当な処罰があったり、解決されない事件が多かったりと、うまく機能していない国もある。そこでJICAはそうした課題を抱える仏語圏アフリカ諸国に対して2013年度から2017年度にわたり国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)の協力を得て研修を行い、刑事司法分野の能力向上に努めてきた。

研修には各国から警察官、検察官、裁判官(予審判事、公判判事)の4人が参加。最初の2年間は日本で、3年目からはコートジボワールで行われた。参加者は、捜査・訴追・公判の基礎、テロ犯罪対策、組織犯罪対策などを学ぶとともに、警察署や検察庁、裁判所を視察。捜査能力の向上や各種捜査機関の連携強化が刑事手続きの迅速化につながることを理解していった。

継続的な研修が必要

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キックオフセミナーに集まった研修員たち。

研修終了から2年を経て、2020年度からふたたび刑事司法研修が行われることになった。捜査から公判にわたる実務を改善するためには、長期的視点に立って継続的に研修を行うことが必要だからだ。

研修の本格的な開始に先立ち、能力強化が必要な分野について協議し、研修の内容を検討するキックオフセミナーが2020年1月にコートジボワールで行われた。今回の参加国は同国のほか、ブルキナファソ、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガル、チャドの7か国で、27人の参加者のうち4人は前回の研修参加者だった。このセミナーの目的は、各国の関係者とともに能力強化が必要な分野について明確にし、研修の内容をともに検討することにある。

セミナーでは捜査中の現場や証拠の保全方法の改善、財務捜査や科学捜査などの強化、公判に必要な書類の効率的な準備など、実務の改善にも取り組みたいという声があがった。さらにテロや組織犯罪など国境を超える犯罪への対応についても言及、隣国との捜査協力関係の構築のほか、おたがいの捜査方法や司法制度についての理解が必要など、多様な意見が交わされた。

国を超えたつながりをつくる

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各国の課題や取り組みについて情報を共有する。

日本やフランスの司法制度および実務、人身取引の捜査や公判での実務についての紹介は参加者からの関心が高く、自国と比較しながら、講師に対し多くの質問が寄せられた。それぞれの国や地域が抱える課題や自国で導入した改善策について参加者同士で熱心に意見交換が行われた。

参加者からは「近年、テロなどの越境犯罪が頻発して関係国間での捜査協力が必要となっています。おたがいの捜査方法について理解し合え、ネットワーク構築の役に立ちました」(警察官)、「司法警察とともに研修を受けることで、捜査がどのように行われているかや、証拠の収集の方法などが理解でき、公判で証拠を扱ううえでの参考になりました」(公判判事)と、職種を超え、そして国境を共有する7か国がともに研修することの意味を感じ取っていた。

本格的な研修のスタートはこれからだ。捜査から公判に至るまでの刑事司法の実務改善、組織犯罪・テロ犯罪・薬物犯罪・人身取引など国境を超えた犯罪への司法・捜査協力などを中心に研修は行われる。研修が終了する2025年には、刑事司法の実務が改善されることで市民の司法機関への信頼が向上し、地域の刑事司法関係者間での連携が強化される環境が生まれることを目指す。いよいよ2020年、研修が本格始動する。