企業とともに権利を守る

児童労働のないカカオのために

ガーナではおよそ5人に1人の子どもが児童労働に従事しているといわれ、多くのカカオを輸入している日本も無関係ではない。
こうした状況を改善すべく、JICAは新たな連携の場をつくった。

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みんなの知見をもっと共有しましょう!

連携のための“場”が誕生

持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限である2030年まで残り10年を切った。JICAは世界規模の課題を解決するために、教育やエネルギーなどさまざまな分野で産官学や市民団体との連携を深めている。2020年1月に立ち上げた「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」もその一つだ。JICA産業開発・公共政策部の中村俊之さんは「JICAだけでできることは限られています。児童労働以外にも、森林破壊や農家の貧困など、カカオを取り巻くさまざまな課題に取り組んでいくためには、多くの関係者が集まり、ともに課題を解決していく“場”が必要。複雑な背景のある課題を大局的にとらえるために、広く産業界や市民社会組織の参加を募っています」と、設立の目的を説明する。

背景に貧困

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研究者や製菓企業などが、それぞれの立場から現状の課題や今後の目標を整理した。

2019年12月、プラットフォームの立ち上げに先立ってワークショップが開かれ、業界団体をはじめ製菓企業や商社、児童労働問題に取り組むNGOなどから約60名が参加した。関係者間で現状認識や持続可能なカカオに向けた既存の知見を共有して、連携の第一歩とするのが目的だ。

会の冒頭、駐日ガーナ大使のフランク・オチェレ閣下から同国のカカオを取り巻く現状について説明があった。ガーナのカカオの年間取引額は約2100億円にのぼり国家の歳入に大きく寄与しているが、一方で約80万人存在する小規模カカオ農家は一日あたり50円ほどの収入しか得ていない。

貧困は児童労働が起こる直接的な原因だ。カカオが出荷されるまでには、収穫から豆の取り出し、発酵、乾燥、選別、袋詰めとさまざまな工程があり、多くの労働力を必要とする。そのため大人の労働者を雇えない農家では、子どもたちも重要な労働力となっている。彼らが学校に通えず読み書きなどができないまま大人になると、貧困の連鎖から抜け出すことは困難だ。そんなカカオ産業ははたして持続可能だろうか。

先駆的な取り組み

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森永製菓はNGOのプラン・インターナショナル、ACEとの協働で、売り上げの一部をカカオ生産国の支援に活用している。©ACE

こうした状況を日本企業や市民社会も傍観していたわけではない。大使のスピーチに続いて参加者のプレゼンテーションが行われ、貧困や児童労働の問題などに対する現在までのさまざまな取り組みが共有された。

たとえば、カカオ農家に栽培・加工技術の指導を行って収入向上を目指す事業や、森林減少が問題となっている地域で、森林の保護・再生を両立させるカカオの農法を伝える事業などが、JICAとの連携などによってすでに動き出している。また、国際協力NGOのACEは2009年にガーナで活動を始めてから、貧困家庭への学用品支給や農家の互助システムの構築などを通じて、10の村で500人以上の子どもたちを児童労働から守り、約4500人の子どもたちの教育環境の改善を実現。2018年からは、ガーナ政府が主導する児童労働のない地域の認定制度づくりにも協力している。

オールジャパンで持続可能なカカオを

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2020年2月5日、バレンタインデーを前に持続可能なカカオ生産についての一般公開イベントを開催した。

ACE事務局長の白木朋子さんは「企業の方と一緒に取り組もうという状況が10年前はありませんでした。プラットフォームは変化の証し」と評価する。また「これまでの事業では規模が小さく効果も限定的。みんなで知恵を絞って協力し、大きなインパクトを生むことにこだわっていく必要があります」と強調する。

参加者からは「コストをかけて“フェア”な調達を行っても、消費者に問題が認識されていない」という声も上がった。私たちは買う物の背景を理解して選ぶことで、こうした取り組みを後押しすることができる。持続可能なカカオは企業や市民団体だけでなく、社会全体で実現することなのだ。

日本のカカオ豆の7割はガーナ産

日本が2018年に輸入したカカオ豆は約5万8,000トン(約160億円相当)で、うち7割以上を占める4万3,000トンがガーナ産だ。

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カカオ豆 ©ACE

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日本のカカオ豆の輸入状況(2018年)

出典:農林水産省「農林水産物輸出入概況 2018年」

カカオ生産地の児童労働

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カカオ生産地の児童労働

「児童労働」は、国際条約や法律で定められている就業最低年齢(15歳)未満の子どもによる労働と、18歳未満の子どもによる危険で有害な労働を指す。世界のカカオ豆の約7割を生産する西アフリカの国々では、児童労働が問題となっている。

出典:INTERNATIONAL COCOA INITIATIVEをもとに作成。

駐日ガーナ大使 フランク・オチェレ閣下

「国レベルで児童労働をなくす意志を強くしています。日本の協力に期待しています」

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フランク・オチェレ閣下