社会参加の促進を case1

どんな障害者も暮らしやすい社会へ タイ

アジア太平洋地域に暮らす障害者は約4億人といわれ、彼らが社会の一員として活躍できる環境整備が続けられている。
その一環として、スポーツ活動で障害者と社会をつなぐための研修が行われた。

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バンコクにあるAPCD。日本の無償資金協力で建てられた。

アジア太平洋地域の障害者支援の拠点 アジア太平洋障害者センター(APCD)

国を超えて取り組む障害者支援

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APCDの敷地内にある「60 Plus+ Bakery & Café」では、タイ・ヤマザキ社から技術指導を受けた障害者たちが、いろいろな業務に携わっている。

2002年、アジア太平洋地域を対象に、障害者が社会から疎外されることなく、その能力を発揮できる社会の実現に向けたJICAの技術協力プロジェクトが始まった。その一環としてバンコクに設立されたのが、同地域内の障害者当事者組織と支援組織、各国政府などが連携する拠点「アジア太平洋障害者センター(APCD:Asia-Pacific Development Center on Disability)」だ。

2009年にはタイ王室が後援する財団法人となり、以降、ASEAN事務局や国際交流基金、日本財団などと連携した活動や、タイ・ヤマザキ社との協働により自閉症や知的障害のある人が働けるベーカリー事業の運営などを実施。タイ国際協力局およびJICAとの第三国研修(注)も展開し、地域内の障害者支援で重要な役割を果たしている。

こうしたなか、APCDが主体となりタイでの第三国研修「障害者支援に関するコミュニティベースのインクルーシブ開発に係る知識共創フォーラム」が2014年から2016年にかけて行われた。参加したのはカンボジア、インドネシア、ミャンマー、フィリピン、ベトナムおよびタイの6か国。対象となったのは、支援が行き届いていない難聴や自閉症、知的障害の人たちだ。研修は、障害者だけでなくあらゆる人が暮らしやすい社会の実現を目指すというインクルーシブ開発の考え方に基づく。参加国の支援団体の能力向上とネットワークづくりを目的に、ワークショップや現地視察などが行われた。

JICAタイ事務所の浦田憲(けん)さんは「APCDでは、研修をきっかけに自閉症の人たちへの継続的な支援の必要性が認識されました。2020年に東京でオリンピック・パラリンピックの開催が決まったこともあり、さらにスポーツとレクリエーションを通じた社会参加の促進を図るための第三国研修を行いたいとAPCDから要請を受けました」と、新たな研修への期待があったことを説明する。

(注)JICAから資金や技術の支援を受けた国が近隣諸国から研修員を招いて、途上国間での技術協力を行うこと。

積極性が育まれる社会参加につながる

APCDの要請を受けて2017年から2019年に行われた第三国研修「障害多様性を踏まえたスポーツ活動を通じたインクルーシブ開発の実現」には、カンボジア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイおよびベトナムの障害者団体や自閉症・精神障害の当事者とその保護者など計69人が参加した。

講師には筑波大学の教員や日本の関係団体の8人を含む計35人を招き、タイなどでの事例を紹介しながらスポーツやレクリエーション活動と障害者の能力向上の関係を講義で学び、パラスポーツの体験も行われた。陸上、水泳、自転車など一般的な種目のほか、2017年にはドッジビー、2018年にはキンボール、2019年には卓球バレーの体験を実施したところ、「こんな競技は知らなかったが、帰国してからみんなとやってみたい」「とてもおもしろかった」と参加者からは好評だった。

「研修で参加者が生き生きとスポーツに取り組み、自己研鑽する姿を見たとき、スポーツを通して積極的な姿勢が育まれ、社会参加につながることを実感しました」と浦田さんは語る。APCDからも「3年間で研修の目標はおおむね達成したと評価しています。今後も、地域に根差したインクルーシブ開発を活動の重点分野に位置づけると同時に、障害者、障害者団体の災害対策能力強化にも取り組んでいきたい」と今後の展望が語られた。

2020年1月には、研修参加者による母国での障害者スポーツ活動の状況を把握する調査が行われた。「2020年はパラリンピックが開催され、障害者スポーツへの関心も高まります。研修フォローアップの結果をふまえて、研修参加国での活動を推進してほしい」と浦田さんは期待している。

スポーツ アジアの7か国が集合! 2017年~2019年 第三国研修

社会参加を促すスポーツやレクリエーションを学ぶ。

2019年 卓球バレー

卓球台とピンポン球でバレーボールのように行うゲーム。

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卓球バレー

2018年 キンボール

直径122cmのボールで行うゲーム。

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キンボール

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開講式

2017年 ドッジビー

布でできた円盤で行うドッジボール形式のゲーム。

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ドッジビー

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開講式

JICAタイ事務所 浦田 憲さん

研修は実施することが目的ではなく、スタートだと思います。そのためにも研修後の各国での取り組みを把握し、課題に対するさらなる研修などを地域で継続していきます。

タイ

【画像】国名:タイ王国
通貨:バーツ
人口:6,891万人(2017年、タイ国勢調査)
公用語:タイ語

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首都:バンコク

一人当たりの国民総所得は5,960ドル(2017年)で、すでに中進国といえる。インフラ整備、産業人材の育成、気候変動対策、福祉サービスの改善などの課題もあるが、途上国の支援国としても存在感を増し、ASEAN地域の共通課題にも積極的な対応を行っている。