人材育成

【工学・科学技術×産学連携】日印タッグで生まれた成果と絆 インド

工学・科学技術の発展が著しいインド。成長を支えているのはなんと言っても優秀な人材だ。
日本は、インド最高峰の工学系大学の一つであるインド工科大学ハイデラバード校(IIT-H)に長年にわたって支援を行い、国を超えた産学の連携を深めている。

文:松井健太郎

【画像】

日本の産業技術総合研究所の研究者とIIT-Hの学生たち。2018年から人工知能の分野で人材交流や共同研究を行っている。

日印の大学間連携で多様な共同研究を実施

【画像】

首都:ニューデリー

【画像】

IIT-Hは2008年に設立された比較的新しい大学。現在も日本の支援によりキャンパスの整備が進められている。

工学・科学技術の分野で、全世界的に優秀な人材を輩出している国立大学群のインド工科大学。2008年に設立されたハイデラバード校(IIT‐H)では、人的・学術的交流を通じた日印関係の強化を目指して、日本企業のインド進出やインド人材の採用、日本の大学との共同研究による技術の共有などを目的に、インドの要望と日本の強みが一致する分野で、設備などハードと能力強化などソフトの両面からJICAによる支援が行われている。

支援の柱の一つが、技術協力プロジェクトによる「日印産学研究ネットワーク構築支援(FRIENDSHIP)プロジェクト」だ。日本とインド間の研究や人材の交流を目的に、三つのプログラムが実施されている。一つ目は、研究人材育成支援プログラム。IIT‐Hの学生がJICAの奨学金を利用し、日本の大学の修士・博士課程に留学することをサポートする事業で、これまでに116名が留学して46名が学位を取得し、うち29名が日本で就職した。

二つ目は、IIT‐Hと日本の大学の教員間の共同研究を推進し、大学間ネットワークの構築を支援するプログラムだ。たとえば廃棄物から作るバイオガスについての共同研究や、スマートフォンと病院のカルテを連係させるといった健康関連の研究開発が進められている。

IIT‐Hの大学事務コーディネーターとしてプロジェクトを推進するJICA専門家の樋浦千佳子さんは、「インド人と日本人の発想の違いが思わぬ解決策を生み出すこともあり、共同研究は双方にメリットがあります」と話す。日本の学生がインターンとしてIIT‐Hで学ぶ人材交流も増えているという。

【画像】

バイオメディカルエンジニアリング専攻の学生たち。研究室の機材整備には日本の支援も活用された。

【画像】

毎年行われる日本への留学説明会。IIT-Hの卒業生のおよそ30名に、修士・博士課程での奨学金を支援している。

IIT-Hに対するJICAからの支援

【画像】

インド工科大学ハイデラバード校 学長 B・S・ムルティさん

学長メッセージ

【画像】

B・S・ムルティさん

IIT-Hはインドと日本の長年にわたる強い協力関係によって大きな恩恵を受けています。これまでに約130名の卒業生が日本で活躍しており、これはインドの大学の中では最も多いのではないかと思います。また、共同研究も非常に活発で将来有望です。現在、50を超える日本の大学や研究所、企業と協力関係を築いており、多くの共著論文があるほか特許も共同で出願されています。JICAの協力がなければこのような成果を得ることはできませんでした。

今後はこの協力関係をさらに高めていくため、IIT-Hの教員と日本の大学の教員が共同で博士課程の学生を指導できるようにするなどの施策を検討しています。この先5年から10年の間に、IIT-Hと日本との連携が人々の注目を集めるような顕著な成果につながることを確信しています。

インド工科大学ハイデラバード校 大学事務コーディネーター 樋浦 千佳子(ひうら・ちかこ)さん

【画像】

樋浦 千佳子さん

卒業生の活躍で連携がますます強固になっています!

日本に留学して就職し活躍するインド人材

【画像】

在日インド大使館で地震防災の研究成果についてスピーチするクマールさん。

【画像】

FRIENDSHIPプロジェクトには日本国内12大学が参加し、これまでに約200名の研究者が両国を行き来して研究成果を共有している。

三つ目は、産学間ネットワーク構築支援プログラムだ。IIT‐Hと日本企業との共同研究や、採用・インターンシップ(就業体験)の支援を行っている。日本企業によるインド人学生の採用は増加傾向にあり、2018年から日本貿易振興機構(JETRO)とIIT‐Hが共催する就活イベント「JAPAN DAY」もそれを促進している。「インド人材に関心を持つ日本企業が参加し、積極的に採用しています」と、JETROとIIT‐H就職課をつないだ樋浦さんは喜ぶ。日本企業も、「インド人は意欲的。1パーセントでも成功する可能性があれば挑戦する」とインド人材を高く評価する。

本プロジェクトの支援により東京大学で地震工学を学び、日本の国立防災科学技術研究所(NIED)に特別研究員として勤めるマヘンドラ・クマールさんは「日本に留学でき、希望する仕事に就けたのもFRIENDSHIPプロジェクトのおかげ。感謝しています」と語る。さらに、クマールさんの採用を機にIIT‐Hと研究所は覚書を交わし、共同研究や研究者の交流、インターンシップ受け入れなどの枠組を検討している。樋浦さんは、「産学連携をさらに進めつつ、JICAの他のプロジェクトとの連係も図っていきたいです。また、日本にいるIIT‐Hの修了生ネットワークを活用することで、インド人材が日本企業で活躍する機会を広げていければ」と期待を寄せる。

ハード面では、民間企業とIIT‐Hが共同研究を行える「リサーチパーク」や、その成果を生かした起業を支援する「ビジネス・インキュベーションセンター」などの施設の建設がJICAの支援によって進められており、今年度から順次完工予定だ。インドと日本の交流は今後ますます深まっていく。

国立防災科学技術研究所(NIED)特別研究員 マヘンドラ・クマールさん

日本で活躍する卒業生!

【画像】

マヘンドラ・クマールさん

IIT-Hを卒業後、東京大学で工学の博士号を取得しました。IIT-Hの在学生のためにJICAが主催している日本留学説明会である「アカデミックフェア」がなければ日本に来ることはなかったでしょう。日本の支援は私の将来を形作っただけでなく、多くのIIT-Hの学生たちにも、日本で学んでキャリアを形成する素晴らしい機会を提供しています。また、優秀なIIT-Hの学生が留学することで、日本の大学にとっても研究が盛んになるなどの好循環が起こっています。