人材育成

【防災】ハードとソフトの両面で土砂災害に立ち向かう スリランカ

豪雨による土砂災害で毎年多くの被害を受けているスリランカ。
その対策をインフラ整備などのハード、能力強化などのソフトの両面で強化するため、日本の技術が伝えられている。

文:光石達哉

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金網でフレーム材を作り、コンクリートを吹き付ける吹付法枠工。日本では一般的だが、スリランカではまだ新しい。

迅速な施工を現地の人に伝える

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首都:スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ

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現場では日本人1人とスリランカ人作業員4人がチームを組み、現場1か所あたり5~15人ほどの態勢で工事を進めた。

降雨量が日本の1.5倍ともいわれるスリランカは、豪雨による土砂災害が多い。住民は生命の危険にさらされ、道路の寸断は経済活動にも大きな影響をおよぼしている。そこで2013年から、山間部を通る主要国道の斜面に土砂対策工事を行うJICAの協力が始まり、スリランカの建設会社と日本の防災工事業者であるソルテックが共同で工事を進めている。

「斜面対策は、その地に新たな土砂災害が起こらないよう素早く行うものです。しかしスリランカは人件費が安いため、多くの人手を費やして斜面を掘って鉄筋を入れ、コンクリートを流し込むという時間のかかる作業がこれまで行われていました」と話すのはソルテックの山本裕三さんだ。

そこで同社は、金網のフレームにコンクリートを吹き付けて斜面を押さえつける「吹付法枠工(ふきつけのりわくこう)」や、土砂災害の原因となる地中の水を排出する「集水ボーリング」など、より時間のかからない日本の工法を現地で指導している。

現地のエンジニアの姿勢は積極的だ。「たとえば削孔された地盤と挿入された鋼材の隙間に、グラウト材を注入し摩擦力を得るのですが、『なぜ、そんなことするんだ?』など質問攻めにされることも多いです。彼ら自身で災害を防ぐ技術を身につけようと、とても勉強熱心だなと感じました」

その結果、工事の作業効率が上がったことで工期が短縮し、コスト削減も果たした。山本さんは「日本の技術ならこれくらいのスピードでできることを示せたと思います」と力を込める。

スリランカの道路開発庁は、ソルテックが予定した6か所の施工を16か所まで増やしたいと追加を依頼し、事業をともに進めることに信頼を寄せている。

ソルテック 山本裕三(やまもと・ゆうぞう)さん

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山本裕三さん

山腹工や斜面安定工など、山の斜面の防災工事を手がける。

日本の工法の発注が増えれば、競争により工事費や材料費もさらに下がり普及していくことが期待できます。多くの住民の方々に安心を届けたいです。

人の意識や知識にも防災対策

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作成中のハザードマップ。スリランカは山間部に茶葉農家などが多く居住していて、住民が土砂災害の影響を受けやすい。

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NBROの職員と現地調査へ。地形・地質・土地利用の状況などを調べて回る。

土砂災害から住民を守るにはハード面の対策工事だけでなく、"情報を得る・避難する・住まない"といったソフト面での対策も重要になる。これを防災分野では「非構造物対策」と呼び、その手法を、JICAから委託を受けたコンサルタントの地球システム科学がスリランカの国家建築研究所(NBRO)に伝えている。

"情報を得る"とは、地形を分析しハザードマップを作成することだ。「最初ははからずもNBROが20年かけて確立した手法を修正していくようなかたちでしたので、理解を得られるかどうか不安でした」と話すのは、地球システム科学の小池徹さん。実はスリランカにもハザードマップはあったが地図の縮尺が大きく、個々の土地や家屋の危険度を表す水準ではなかった。しかし、NBROには地質学や地盤工学、都市計画を学んだ技術者が多く、日本の事例をもとに理論を説くと納得しておたがいに心が通じ合った。

「私たちが伝えた手法に忠実に、広大な範囲のハザードマップを作り上げてきたので驚きました。こちらの作業が追いつかないこともしばしばです」と小池さんは喜ぶ。

プロジェクトは2年目に入り、今後は"避難する=早期警報発令システムの構築"や、"住まない=土地利用規制の実施"などのガイドライン作りを本格化させていく。現在、新型コロナウイルスの影響から日本国内で業務にあたる小池さんへ、NBROからオンライン会議の依頼も多い。

土砂災害から人々を守ろうとする思いは日本人もスリランカ人も同じだ。思いを一つにした対策の努力が続けられている。

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LiDAR-DEMを用いた地形図。JICAの支援で取り入れられた高解像度の地形図「LiDAR-DEM(ライダーデム)」。航空機から地表にレーダーを照射して測量する。

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現地測量局の地形図。

地球システム科学 小池 徹(こいけ・とおる)さん

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小池 徹さん

防災や水資源、環境保全関連分野の開発コンサルタント。

今後、予定している土地利用計画の作成には、地方自治体や住民との交渉が必要です。地方に根づいた活動を積極的に進めているNBROならばきっとうまく進めてくれると思います。

NBRO局長 アシリさん

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強いリーダーシップで職員を引っ張るNBRO局長のアシリさん(写真右から2番目)。小池さんらのよきパートナーだ。

土砂災害は、ハザードマップでのリスク評価や警報システムの強化、そしてなにより危険地域への入植や開発の防止が重要。NBROは中央政府機関として、地方自治体にもプロジェクトの参加を促し、大きな前進を目指します。

コラム 日本の震災経験をネパールへ

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数多くの復興セミナーでネパール政府職員らなどに経験を伝えてきた東松島市の副市長の小山修さん(写真左)。住民第一の考えは現地でも多くの賛同を集めている。

2015年4月25日に発生した地震(注)によってネパールは大きな被害を受けた。JICAは同国で住宅や学校、病院などの再建に取り組む一方で、宮城県東松島市の協力のもとに東日本大震災から得た経験・教訓の共有を進めている。住民との合意形成を重視し、住民参加型のプロセスで復興計画を練ってきた同市の知見は、ネパールの復興庁をはじめ多くの関係者に、復興のあり方と地方政府が果たす役割の示唆を与えている。

(注)ネパールの中西部で発生したマグニチュード7.8の大地震。死者8,790人、負傷者2万2,300人、全壊家屋約51万戸、半壊家屋約28万戸(2015年6月時点)。